第50話 二人の幸運
「アリィさん達大丈夫かな」
「心配するより、他にやる事やるでしょ。あの人達の事を思うなら戦いに集中するのが一番の恩返し」
「ん、そうだね」
気がそれたイリアに注意を促しつつ、クロードも集中しなおす。
彼らの行動を、作り出した時間を、未来の成功へと繋げるのが今ここにいるクロード達の役目なのだから。
しっかりと狙いを定める。
「これでっ!」
全神経を集中して打ち出した弾は狙いを過つ事なく、真っすぐに命中。
この時の為に用意した、特別な銃弾を竜の右目へと撃ち込んだ。
撃ち込んだと同時に軽く爆発が起きる。
それは、火薬を詰めた爆弾だ。
威力は調整してあるので、ちゃんと撃ち込めればこちらに被害はない。
だが、呑気に成功を喜んではいられないだろう。
痛みを感じて呻く竜が一層暴れ狂う。
今までのちまちましたひっかき傷を作る様なものではない、正真正銘の相手を害するダメージ。
「イリア、畳みかけろ!」
必死にしがみ付きながらも、竜が冷静さを取り戻す前にイリアが仕掛けた。
「分かってるよ! りゃああああっ!!」
イリアは、揺れる体を振り子の様に揺らして、狙いの場所へと己の体を移動させる。
狙うは竜の顎の下。
「そいりゃあああ!」
突き上げる様な昆の打撃がヒットすれば、竜は衝撃に顎をはね上げさせ。
直後。意識を失ったように、体を傾がせる。
顎から伝わった衝撃が脳を揺らして、脳震盪を起こしたのだ。
思いやりの深い優しいイリア。
けれど、イリアが硬い意思でこうと決めた事を曲げる事は、ほとんどない。
いくらお人よしの彼女でも、全部を掴み取れないことぐらい分かっているのだ。
「ごめんね! でも私達には、守りたい人達がいるから」
竜も犠牲者の一人だと、そう彼女は考えているのだろう。
そんな彼女の甘さが、クロードは嫌いではない。
むしろ、冷静に犠牲を割り切るイリアなんてイリアらしくないのだから。
だから、そんな時の彼女を守るのはクロードの役目だ。
「イリア!」
遥か高所の空の中、墜落していく竜にしがみつきながらもクロードはイリアにどうにか近づいて、その体から固定したロープを外そうとする。
絡まって中々外れない。
「ちょ、イリア。君の幸運ちゃんと仕事してる?」
「大丈夫だよ。適当にすれば」
「それがほどけてくれる方法ならね!」
手間取っている内に、海面がもうすぐ近くに迫って来ていた。
「クロードは一つ勘違いしてるかな」
イリアはロープをほどこうとしているこちらの手に己の手を添えた。
「私の幸運は、クロードと一緒にいるから幸運になるんだよ」
すると、今までの苦戦が嘘のように外れる。
色々考える事はあるが、思考を広げている暇すらない。
慌てて自分のも外して、離脱。
そして間一髪、墜落する竜と共に海面に叩きつけられる前に、二人で離れられたのだった。
「これで、終わり……かな?」
「さあね」
フロートユニットを使って滞空しながら、豪快な波を発生させている海面の一点を見つめる。
竜は、飛び上がってこなかった。
「私達、やったんだよね」
「ああ」
信じられないという感情も、時間の経過とともに、徐々に確かな物へと変わっていく。
「クロード! 倒したんだよ。本当に!」
「分かってるよ」
「やったね!」
イリアと共にハイタッチを交わす。
遅れて、周囲で歓声が湧き起こった。
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