第43話 染まってきた



 この前と比べて数はそう多くない。

 けれど以前と違うのは、周囲に人の住んでいる町があるという点だった。

 見まわせば、周囲にいた人々はとっくに避難しているようだが、できるだけ建物などに被害は出したくなかった。


(命あっての物種って言うけど、そうやって巻き込みたくないってとっさに考えちゃう辺り、僕もイリアに染められてるなあ)


 クロードは恒例の様に前に立ったイリアに注意を飛ばす。


「イリア、そいつは囮。背中気を付けて」

「オッケー」


 クロードはいつもの様に前で戦うイリアを援護しながら、自分の身を守りつつ彼女の死角を生めるように立ち回っていく。


 しかし気を遣って戦うのはこちらばかりで、向こうは周囲へ余計な気を配ってはくれない様だった。


「あー、あのお店の商品。高そうだったのに」

「そんな事気にしてる場合!?」


 悲鳴を上げるイリアに思わず突っ込みを入れてしまう。

 だが、クロードも思う所はあった。


「お師匠様の教えその一、関係ない人たちに迷惑はかけない!」

「フィリアの教えだね」


 関係ない人たちに迷惑をかけたくないというのは、間違いなく同意だからだ。


「もう、こうなったら……えいっ、甚だ遺憾の怒りの鉄槌!」

「色々交ざってるから」


 制裁とばかりに相手の頭に昆で一撃を入れていくイリアはまだまだ余裕だ。

 妙なセリフの解読はできなかったが、駄目な子どもをしかる母親のつもりなのだろう。


 そんな気の抜ける様なやり取りをしていると、後方から何かの影がもの凄い勢いで駆けていった。


「やっ!」


 掛け声を上げて、相手の一人を吹っ飛ばすのはユーフォリアだ。

 それからも彼女は、以前ドラゴニクスから逃げ回っていた時よりも、数倍早く動き回っている。


 相手の背後を取ったかと思えば、もう次の敵へと向かっていた。

 その身体能力は人間の域を超えている。


「ユーフォちゃん!?」


 イリアが驚きと心配の感情を超えに載せて叫べば、ユーフォリは特に緊張した様子もなく答えた。


「えっと、体術? それなら周りを巻き込まずに済むから、イリア見てて頑張って覚えた」

「えー、何それ凄い!」


 周囲を巻き込むような戦いしかできないとか言っていたから、てっきり生身の体の能力はそんなに高くないのだろうと思っていただけに、それは予想外だった。

 彼女は単に、近接戦闘の仕方を知らなかっただけのようだ。


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