第42話 お断りします



 礼を言って、クロードは笑いかける。

 イリアの気遣いが嬉しかった。


 いつでも優しい彼女の言葉。


 けれど、その言葉をそのまま受け入れるには、自分は少しばかり「イリアの引き立て役」でいる時間が長すぎたのかもしれない。


「その時がきたら、ね。イリアにはちゃんと助けてもらうよ」


 自分でもそんな時は来ないだろうな、と思いつつも心にもない言葉を言ってしまう。


「うん、待ってるからね」


 それに元気いっぱいのいつもの笑顔で応じるイリアに罪悪感が湧いた。


(イリアは今の気づいていたのかな、それとも気づかなかったのかな)


 どっちにしても、クロードはその気遣いに甘えてしまっていた事に変わりがないが。


 散策の時間のひと時を、心の整理に使っていると、空模様が怪しくなってきている事に気が付いた。


 クロードはなおもあちこちへ興味深そうな視線を向ける、女子二人に提案する。


「雨が降ってきそうかも、そろそろ集会所に戻らない?」

「えー、もうちょっと見て行こうよ。ね、ユーフォちゃんも見たいよね」

「うん」

「風邪ひいても知らないよ。町を見るなら帰る時に違うルートを通れば良いじゃん」

「そっか、さすがクロード!」

「今のは誰でも思いつくって」


 いつもと変わりのない彼女の我がままに妥協点を見つけながらも、クロード達はその場を後にする。


 だが……。


「見つけたぞ!」


 そこに声を発してきたのは、いつかの自分達を……正確にはユーフォリアを追い回していた治安部隊だった。


「イリア!」

「うん!」


 武器を手にして、ユーフォリアの前へと出る。


 地上世界にある町を歩く彼らに戸惑いはない。

 ユーフォリアを地上にいる竜へと向かわせ、案内させようとしていた連中だ。


 やはり彼らは、地上に人が生き残っている事を前もって知っていたのだろう。


「あいつら、マッドサイエンティストの仲間確定……かな? そもそも、あいつら達が主導してやった事だったりしてね。今まで、この事僕達に黙って裏でこんな事してたんだし」

「……」


 相手の傷を抉る様な言葉を選んだつもりだが、動揺する気配はない。

 命令を遂行する事だけを意識しているようだ。


「最後通告だ。ユーフォリアをこちらに渡してもらおう」


 そんなの決まっている。


 クロードとイリアは顔を見合わせて、頷いた。


 ここで彼女を差し出せるのなら、とっくの昔にそうしているだろう。


「そんなの……」

「お断りだね!」


 否定の言葉を投げかけた瞬間。

 戦闘が始まった。


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