第33話 人は人
集会所には着いたが、正直入りたくない気分だった。
けれど、いつまでも建物の前でぼうっと突っ立っていても何も始まらないだろう。
意を決して中へと入ると、洩れ聞こえて来た喧騒通りの光景があった。
人が多いし、空気が浮ついている。
歩いて数歩で相手に捕捉され、問答無用で室内に運ばれていってしまった。
それからは色々大変だった。
聞かれる。騒がれる。食べ物進められる、興味持たれる。また聞かれる……。という感じに。
だが、気が滅入るばかりだと思っていた事でも、収穫はあった。
こちらを迎え入れる側の人間の思惑やら考えが分かるのは、大きな安心材料だ。
それに後は……。
「人って人なんだなぁ」
変なセリフで悪いがそう思ったのだ、正直に。
クロード達を迎えた大騒ぎする町の住民達は、海中都市の人間と何も変わらない。
同じ人だったのだ。
それは、どこか遠い存在に思えていた地上の世界が、急に身近な存在に感じられた瞬間だ。
伝説の中に、おとぎ話の中に入り込んだようなここちだったが、元は同じ人間なのだ。そうそう変わるものでは無いだろう。
安心できて、ここも確かに人の生きていける世界なのだとそう思う事が出来た。
ただちょっと距離感が近いというか、馴れ馴れしい感じが個人的に嫌でああったが。状況を考えれば仕方がないのかもしれない。
なにせ、初めて海中都市からやってきた人と接したのだというし。
ちなみに、そんな風にあれこれ考えるクロードとは違って、イリアなんかは無邪気に「皆仲良しだね!」「団結力ありそう」とか言って、速攻でその輪に加わって行ったのがちょっと羨ましくも恨めしかった……。
とりあえず、その場に集まった者達に討伐隊に参加するなんて考えていないと言ったところで場が揉めるだけなので、あくまでも善意の協力者を装って、歓迎会へと交ざり続ける事にした。
「ドラゴニクスなんて、楽勝だったよ。クロードと一緒なら、あたし竜だってきっと倒せると思う!」
「頼もしいお嬢ちゃんだね」
「良い子がやってきて、おじさん達うれしいよ」
彼らの話の中で、イリアは竜退治にかなり盛り上がっている。
その意思は徐々に固まりつつあるようだ。
こうして彼等と触れ合う時間が長くなれば長くなる程、彼女を諦めさせる事は難しくなっていくのだが、行く当てがないのでここに留まり続ける他ない。
「この昆裁き、すごいでしょ! クロードと一緒に鍛えたんだよ。それっ!」
留まり続けるしかない、のだ。
(だけど本気になったイリアにお願いされたらちょっと、どうなるか分からないな)
クロードは、つきあった年月が長い分だけ、イリアに振り回されてきた回数の分だけ、彼女のお願いに弱くなってしまっている。
イリアが本心から彼等に協力したいと思えば、クロードはそれを止める事などできやしないだろうし、その場合クロード自身が大人しく見ているだけなんてできるわけないのだから。
人の集団から離れて隅で冷静に考え事をしていたクロードだが、そこにユーフォリアが近づいてきた。
先程まではイリアと一緒にいたのだが。彼等の勢いに疲れたのかもしれない。
「クロード……、悩み事?」
「まあね」
「疲れてる……?」
「そりゃあ」
結局休めてないから当然だ。
「でも、ちょっと楽しそう」
「え?」
そんなはずはないと、思えば彼女が聞いてきたのは、別の意味だった。
「イリア、嬉しそうに見てるから……」
「ああ、それは……楽しいんじゃなくて誇らしいんだと思う」
「誇らしい?」
そういう難しい事は三歳の子供にはまだ分からないだろうか。
「あんな凄い友人が僕にはいるんだって思うと、人に自慢したくなるって感じかな」
「イリアは凄いの?」
「うん、凄いよ、尊敬してるし。……調子に乗るから、本人には言わないけど」
「そうなんだ」
そうだ。
クロードはいつだってイリアの事を尊敬している。
遥かな上を見上げるような気持で、その横に居続けている。
彼女に比べれば、クロードなど冴えない脇役の様なものだろう。
「だったら、クロードも凄いね」
「……どうして?」
「凄いイリアと友達なんだもん」
「そうかな」
友達になれたくらいで、自分まで凄くなれるとは思わなかったが、それを言葉にして目の前の少女に言って訂正する程自分は冷たくない。
ユーフォリアが言うそれは父親が凄い職業に就いたから、自分が偉くなったと勘違いして言いふらしているようなものだろうが、今はまだ知らなくても良い事だ。
(子供ならまあ、可愛げのある行動だけど。この年の僕がしたら、それはね……)
ともあれ、嬉しかった事は事実なので、言葉だけありがたく頂戴しておいた。
「ユーフォリアはもう休んだら。アリィ達見つけて、先に休ませてもらおうよ。イリアに付き合ってたら、もうあと一時間は眠れないよ」
「わかった」
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