第32話 本物を



 町の様子を見てきながら、最終的に辿り着いたのは大きなある建物の前。


 ここがアリィの言う集会所なのだろう。


 だが、その集会所からは多くの人間の賑やかな声が聞こえてくる。

 人が動き回るバタバタとした音も……。


 イリアならともかく、これでは休まる気がしない。

 世話になっておきながら、大きな声で文句は言えないのだが本当にそう思う。


「何かあるのかなぁ」


 イリアは不思議そうに建物の様子を見つめていたが、ふとその近くでアリィがしまったと声を上げた。


「忘れてたわ。歓迎会」

「そういえば、皆がやると言っておったな」


 歓迎会?

 よく見てみれば、大きな建物の入り口には歓迎会と書かれた幕が一つあるのに気が付いた。


 なるほどこれは、どこからどう見ても歓迎会だ。


(じゃなくて……)


 クロードは額に手を当てて困り果てている様子のアリィへ、引きつってるなと思う様な声音で言葉をかける。


「ねぇ、聞くけど。ここに書いてある歓迎会って、誰の?」


 クロード達が来なかった場合は、ここにフィリアが建っていたのだろうが、この際人物の違いはどうでもいい。


 問題なのは、その来訪者のここの人たちの人間だ。


 ジンが気まずそうな表情でこちらの質問に応える。


「フィリア殿は乗り気だったようなのだが、クロード殿たちが我々の竜討伐に助力してくれるのではないのかと、皆は思っている様だ」

「竜って、コピーの竜種の事それとも……」


 クロードのまさかと思う問いかけに、アリィがまさかの答えをよこしてきた。


「本物の方よ」

「……」


 絶句した。

 するしかない。

 だってそうだろう。


 人の知らない所で、知らない間に、そんなとんでもないものを討伐しようとしう連中の仲間に入れるなんて、普通ではない。


「討伐……するんだ」

「するわ」


 アリィのこれ以上ないくらいのすっぱりとした断言の言葉に、クロードは思いっきりうなだれた。


 二の句が続かなかった。あと言葉もでない。

 ああ、この言葉はまさにこんな時のためあるようなものだろう。

 事前に聞いていたら、イリアを上手くだまして逃げていたかもしれない。


 しかし、ここの人達は本気なのだろうか。人間を絶滅の危機に追いやる様な竜の討伐をするというのは……。


「さすがにないな」

「何がないのクロード。竜討伐するんでしょ? 簡単だよ。簡単、あたし達今日、一匹倒したじゃん」

「あっさり言わないでよ。疑問とか無いの!?」

「え、何で?」

「駄目だ、これ」


 あっけらかんと笑っていられるイリアをちょっと恨めしく思ってしまう。いくら適材適所とは言え、もうちょっとそっちだって頭を悩ましてくれても良いんじゃないだろうか。


(いっつも僕ばっかり悩んでさ……)


 悩む彼女なんてらしくないだろうけれども。こういう時は不満を抱かずにはいられない。

 一方でユーフォリアの方は……。


「竜って、でも、もしかして……。あの竜?」


 己の耳を疑っている。

 正しく理解したうえで、聞いた言葉の意味を測りかねている様だ。


(普通そうだよね。信じられないよね)


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