第28話 昔の出来事



 今でもたまに思い出す事がある。

 昔の事を。


 クロードと、そしてイリア。

 二人の関係が始まったあの日の事を。


 当時のイリアは、今とは比べ物にならない程大人しくて、元気がなかった。

 誰彼かまわずお節介を焼きに行く事なんてないし、あちこちを走り回ったりもしない。彼女の顔には特に何も無くてもにこにこしているような、そんな花の様な笑顔もなかった。


 引っ込み思案で、心細そうで、いつだって一人ぼっちの様に見えていた。

 遠くからそんなイリアを見ていたクロードは、それが辛くて……彼女に何かできないかとずっと思っていたのだ。


 なぜなら、他の誰も知らない事が、分かっていたから。

 クロードにしか分からない彼女の心の輝きを知っていたから。


 イリアという少女は、こんな所で潰れて良い人間などではない。


 もっと、先に行けるし、もっと輝ける。

 そんな人だと、知っていたから。


 だから、何かしたかった。

 一人で星に手を伸ばして、行けるはずのない遠い場所を夢想する彼女の力になりたかった。


 なぜなら、彼女は主人公だからだ。

 あの日見た、クロードの瞳に映った彼女は主人公そのものだったから。


 だから彼女は、またあんな風になれると思ったし、あんな風に輝けると思った。

 その為に自分にできる事があるのなら、手を貸して支えようと思った。

 彼女の友人として。


 だって、その時のクロードの目の前にいた少女は本当の姿ではないのだから。

 もう一度、本当のイリアに会いたかったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る