第27話 ジンとアリィ



 ブルーオーシャン 浜辺


「あ、見つけた! ねぇクロード、ひょっとしてあれじゃない?」

「ああ、そうかも。イリアお手柄じゃん」

「えへへ、探し物は得意だよ!」


 苦心の末にフィリアが言っていたらしい船を見つけたのは、それから数分後の事だ。


 そして、近づいて行けば小さな……それでも家一軒程の広さある小型の船の前には、一組の男女が立っているのが分かった。


 そいつらは、こちらを見るなり警戒して見せるが。


「わわ、待って待って。私達フィリアさんの知り合いだから、今追われてるの!」


 こういうときのイリアの人徳が役に立つ。

 彼らは互いの顔を見合わせて、警戒を解くかどうか迷っている様だった。

 手に持っているのは、二人共弓矢だ。


「貴方達もフィリアさんの知り合いの人なんだよね。ユーフォちゃんを犠牲にしようとするなんて許せないよ。一緒に協力しようよ!」


 細かい説明をするよりも先にイリアに少しだけ喋らせて相手の警戒心を解かせる。


 やがて、女性の方が、構えていた警戒を解いた。

 弓を降ろす。


 そしてこちらに尋ねて来た。


「なら、まず名前を名乗って」


 燃える赤い髪の平均的な身長の大人の女性だ。

 その傍にいる男性は未だ警戒は解かずにいるが、こちらは黒髪のがっしりとした体格の大人の男性。


「あたしの名前はイリア」


 その間、クロードは周囲の警戒に勤める。

 背後、少なくとも見える所には追手の姿はないようだ。


「イリア? ふむふむ。聞いていた協力者の特徴とは一致するようね。そちらの御嬢ちゃんは保護対象の子かしら。ジン、良いんじゃない?」

「いや、少し待てアリィ」


 彼らの名前は男性がジン、女性がアリィと言うらしい。

 その中のジンが、イリアに声をかける。


「お主、イリアと言ったか、フィリア殿はどうしたのだ?」

「それは、あたし達を逃がす為に……」

「何と、フィリア殿……惜しい人間だったのに」


 まだ結末まで言っていない。


 もしかして、この男性相当な早とちり人間なのではなかろうか。

 こんな人物が協力者で大丈夫なのだろうか。


 とりあえずまずジンといったこの男性に言ってやりかった。


(いや、まだ死んでないから)


 フィリアはそんな易々とくたばる様な人間ではないのだ、と。


 ともかく、自分達にはそう時間が残されているわけではない様だった。

 人の声、同時に治安部隊の姿を確認した。


 ユーフォリアも分かったようで、視線を合わてきて頷く。


「私はアリィ、こっちはジン。人が来てる、詳しい話は後よ。とりあえずそっちの船に乗せてくれない? 今すぐここから逃げないと」

「おお、そうだな。フィリア殿のご友人とあれば、大歓迎だ、急いで乗船されると良い」


 なぜか抜群の信頼度を誇っているフィリアに、内心でほんの少し感謝しつつ船の中へと乗り込んで行く。


 この地を離れてしまえば、そう簡単には彼女には会えなくなってしまうだろうが、あのフィリアの事だ。

 殺したって簡単には死なないような人間なのだから、きっと自力で後の事は何とかするだろう。


 クロードは弟子として、一番近くで強さを見てきたのだから。

 負けるなんてありえないと思っていた。


 心配しないのは薄情とかではなく、こちらなりの信頼なのだ。


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