第26話 こういう奴だから



 クロード達は戦闘場所から離れていく。


 だが、決断するのが少し遅かったせいか。大多数の敵はフィリアが引き付けてくれたが、ほんの何割かは、こちらへと流れてきてしまったようだ。

 逃げる足の速度を下げない程度に、ソウルイータ―を使って威嚇する。


「まったく、他にやる事あるだろ。空気読んで欲しいよ」

「仕方ないよ。クロード、怪我はなるべくさせないでね」

「はいはい、なるべくね。なるべく」


 イリアの無茶な注文に応えつつも、銃弾を放つ。

 交戦しながら、探し物をしろとは何とも難易度の高い作業だ。

 別にクロードは彼女程お人よりではないので、相手の安否なんてぶっちゃけ気にしていないしどうでも良いのだが、全てが終わった後それだと困るので、一応手加減はしていた。


 それらは、技量があって、まだ余裕があるからできる事。

 いよいよ追い詰められてしまった時は、どちらか一方を選んで切り捨てなければいけなくなるだろうが、出来る事ならばイリアを悲しませたくはなかった。


「僕も人の事言えないなぁ」


 敵の身なんかを案じているイリアの様子を見て、そう思わずにはいられない。


「変な人達。どうして、あんな人達の心配するの……」


 けれど、そんなクロード達の行動が、ユーフォリアには不可解に思ったらしい。

 彼女の呟きに応えるのは、イリアだ。


「そんなに変かな。あの人達にもあの人達なりの事情があるんだし、言われた事をやってるだけであたしたちの事嫌いなわけじゃないと思うんだ。それにきっと、話してみたら案外気が会う人達かもしれないでしょ? もったいないよ」


 能天気過ぎる彼女の持論。

 聞いたユーフォリアは、言葉を失っている様だ。


 まさか、そんな綺麗事を何の照らいもなく、真正面から述べる人間がいるとは思わなかったのだろう。

 これが口から出まかせの嘘を吐いているのだったら、ここまで驚く事にはならなかった。

 そうじゃないのは、イリアが本心から言ってるのだとユーフォリアが分かってしまったから。


「イリアはこういう奴なんだよ。我慢して付き合ってあげて」


 苦労するだろうけど悪いやつではないから、とそう言えばふいに笑い声が上がった。


「ふふ……、本当に変なの」


 それはクロードが初めて見る、ユーフォリアの笑った顔だった。

 花がそっと綻ぶような笑顔。

 整った容姿と顔をしているだけに、それはとても絵になるものだ。

 ずっと暗い表情ばかり見ていたので、猶更思う。 


「あ、ユーフォちゃん、笑ってくれた。やっぱり笑顔が一番似合うと思うよ」

「そ、そうかな」


 似たような話を洞窟でもしたのだろう。

 ユーフォリアは照れたようにはにかんだ表情を見せる。


(仲良しで大変よろしいけど、ね)


 自分も含めて今のは、追われながらする会話じゃないな、と思った。


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