第25話 地上へ



「フィリア、この際聞いておきたいから余計な所に話はそれるけど。僕達にドラゴ二クスの討伐を依頼した理由って?」

「お前の考えた通りだが、何か」

「いや。もうちょっと話してくれると助かるなって思ったけど、別に僕の思った通りなら話してくれなくてもいいや」

「素直じゃないな、それなら話してくれと言ってるようなものじゃないか、それもそんなに恨みがましそうに見て。そんなんだからお前には愛嬌がないんだ」

「悪かったですね」


 愛嬌がないのはクロードのせいではない、生まれつきと環境のせいなので責められれるいわれはないのだ。

 だが、想像通りだと言うのなら、本当にクロードの推測通りなのだろう。

 今巻き込まれている事の一連の事件については。

 フィリアはおそらく、ユーフォリアの脱走をどこからか聞きつけて、クロード達に保護させようとしたのだ。


 計算外だったのは、本当に竜種がいてそいつと出会ってしまったという事。

ユーフォリアだけと最初に出会っていれば、戦闘なんてせずにすんだのだろうが、今さら言っても意味のない事だった。


「それで、どうするんです?」


 こうなった以上、フィリアの家でひっそり隠れるのは無理となってしまった。

 顔は割れているし、連中を口封じに殺さなかった以上、黒幕に伝わってしまうのは時間の問題だ。


 家でかくまってもらっていても、意味がない。

 逃げて退路を断たれるくらいなら、自分達から動いで現状を打破しなければならないだろう。


 だが、相手は、それなりの力を動かす事ができる連中だ。

 対するこちらはたった四人だけ。

 力不足がかなり深刻だった。


 しかし、そんな少しの間に、考える素振りを見せたフィリアは、肩をすくめてこちらを見た。

 どこか悪戯っぽい感じの意味深な目つきだった。


「何も考えがないわけないだろう。お前達は行く場所がある。味方をつけてやるべき事をする為にまずは、……地上を目指せ」


 にやり、と不敵そうに笑って言い放たれた彼女からのその言葉に、クロードは思わず間抜けな声を出してしまった。


「はぁ?」


 しかし詳しく考えている暇はない。

 時間をかけ過ぎた。

 周囲には、どこからか集まってきた治安部隊の人間達。

 だが、動じないフィリアは彼等を前にして、クロード達に指示をする。


「そろそろ連中も潮時だろうしな、合流させるか。港のどこかに協力者の船が止まっている。奴等に助けを求めろ。心配するな、そこそこ信用は出来る奴らだ」


 自信に満ちた言葉からは、準備はそれなりに万全である事をこちらに窺わせた。

 港。

 確か、反政府組織が潜んでいるとか聞いていたのだが、まさかその連中と繋がっているのだろうか。


 しかし、フィリアが言っていた「地上」という言葉が気になる。

 何かの比喩?

 それとも……。

 いや、ありえないだろう。


「え、地上にいけるの、ほんと? すごい!」


 言葉の裏とか考える事が出来ないイリアは本当に単純で、今だけ少しうらやましい。

 疑問も、聞きたい事もかなりあるが、状況がそれらを解消する事を許さない。

 何はともあれ、他に当てがない以上フィリアの指示に従うしかないのだろう。


「はぁ、分かったよ。船を探せば良いんだね。まったく場所くらい決めておいてよ」

「決めておいたらいざという時情報が流れるだろう」

「ですよね」


 まあ、分かった。

 治安部隊に長年勤めていただろうフィリアがそんな事が分からない程、馬鹿ではない事ぐらい。


 文句を言いたかっただけだ。

 クロードを、イリアを、こんな面倒くさい事に巻き込んでくれた事への。


 しかしフィリアだって、これでいてイリアの次に正義感が強い方だから、ユーフォリアの事を知ってしまったら放っておけなくなる心情は、分からなくもない。


 結局こちらに拒否の選択肢はないのだ。


 彼女等に願われて無視できるはずがない。


「ほら、行くよ。イリア。ユーフォリア」

「うん」

「分かった、って、え? ちょ、ちょっと待ってクロード。フィリアさん、置いてっちゃうの?」


 そこで、その指示に従う事の意味に気が付いてイリアが抗議の声を上げた。

 視界の先ではもう、フィリアはその場にやってきたあらたな敵との交戦に入っている。

 ここにいつまでもいたら、巻き添えを喰らってしまうだろう。


 それでは意味がない。


 イリアはしかし、そんな戦闘の様子を心配そうに見守っている。


「だって一人で戦うなんて……。もし、フィリアさんに何かあったら」

「心配なんてするだけ損だよ。フィリアの強さはイリアだって知ってるだろ」

「でも……」


 急いでここから逃げなければならないというのに、イリアはそこから動こうとしなかった。


 そんな状況が戦闘品からでも分かったのか、前方にいるフィリアがイリアへと言葉をかける。


「イリア。私はお前の師匠だ。私を信じろ」

「フィリアさん」

「お前の師匠はちょっとやそっとの事で倒れる様なヤワな人間じゃない、違うか」


 その言葉にイリアは迷いを振り切った様だ。


「……うん、そうだよね。あたし、フィリアさんの事信じてる、だから行くね。怪我しないでね、頑張ってね。無茶とかしちゃ駄目だからね」

「難しい注文だな、だが最愛の弟子たってのお願いだ。……承った」


 力強くそう宣言したフィリア。

 その言葉を聞いたイリアは、決心するように頷いて、そして走り出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る