第24話 人が悪い助っ人
向った洞窟の入り口で見たのは、昨夜も見た同じ服を着た組織の連中。
襲って来たのはやはり治安部隊だった。
彼らは、ユーフォリアの確保を優先んしているらしく、彼女めがけて次から次へと殺到してくる。
昨日姿を見かけた時は、その姿に頼もしさを覚えたのだが、敵にすると実に恐ろしい。
それなりの規模の組織にある統率された動きという者は、互いが互いの死角や欠点を好きなくカバーして来るし、多人数が巨大な一人の人間のようにも見えて心理的な圧迫感を感じる。非常に、厄介な相手だった。
クロードは、そんな連中に対して躊躇いなく戦闘に出た大概なイリアに注意を飛ばした。
「イリア、前に出過ぎ」
「ごめん、でももうちょっと」
「もうちょっとって何!? 出過ぎに猶予なんてないから。ああもう、言った傍から……」
イリアの援護にまわりながらも、相手の脅威にこちらは舌を巻く思いだ。
(ほんとよく訓練された、集団はバラバラの強者よりも質が悪いよ)
長い間共に戦ってきた彼女と二人でなかったら、とっくにやられていてもおかしくなかった。
永続回避の加護よりも、こんな時はフィリアの必中の加護が欲しい。
狭い洞窟の中で、味方を巻き込む可能性がある攻撃はやはり躊躇ってしまうからだ。
「くそ、キリがないな」
「クロード、ねえ、外に出れないよ。どうしよう」
未だに現在地は洞窟の中、このままここで戦闘を続けるわけにはいかない。
早く出なければ、と気ばかりが急いてしまう。
だが前進するどころか、相手の勢いに押されて後退していっている始末だ。
「このままだと、こっちが押し負けるな。何か状況をひっくり返す手段を探さないと。そうだ」
仕方がないが、ユーフォリアの手を借りようと、声をかける。
バレているだろうとは思いつつも、あまり彼女がここにいる事は知られなくなかったが。
「ユーフォリア、力を貸してくれる!?」
竜を倒す事を前提として作れらた彼女なら、この集団をなんとかできるのではないかと思ったのだ。
だが。彼女の返事は芳しいものでは無かった。
背後からかかる声は、暗い。
「力が強すぎるから、私のだと」
つまり、使ったら巻き添え。もろ刃の剣という事だ。クロード達も同時に危なくなってしまうというわけか。
彼女のそれは竜なんて、巨大な物を倒す為に用意された力だ。
洞窟くらい軽々と壊せる様な力を出さないと、世界を破滅させるような敵にそもそもダメージを与えられないのだろう。
戦力に数える事は出来そうにない。
だが、幸いにもクロード達が追い詰められる事はなかった。
「ふ。メモを残して言った事は誉めてやろう。だが、私の助力を当てにせず戦ったのは減点だな」
なぜなら、フィリアがそこにいたからだ。
治安部隊の背後。
いつのまにそこまで接近していたのか。
ユーフォリアが気づかなかったと言うのなら、気配すらしなかっただろう。
無音で地を蹴る彼女は、こちらへ接近。
そして閃光の如き活躍を見せ、あっという間に己の武器である鞭で、敵達を経散らしてしまった。
落ち着いたフィリアは汗一つ掻いていない。
クロードは湧いて出た一つの疑問を口にする。
「ここの事、誰にも言った事ないんですけど。何で来れたんですか」
基地の事は子供の頃から、イリアと二人だけの秘密だった。
当然フィリアにも、他の人にも話した事は無いと言うのに。
「なぜ? そんなの決まっているだろう。こいつらを見つけてからつけて来たのさ」
つまり、大分前から見てたと言うわけだ。
人が悪い。
大方危機になっている頃合いに駆けつけて、格好良い登場をしたかったとかそういう馬鹿な理由なのだろう。
イリアも似たような事をしそうだが、彼女の場合はごっこ遊びに留まる範囲でだ。
善意が欠けている分、フィリアのはかなり質が悪かった。
……などと、そう思っているこちらの意思も筒抜けだろうが、その上で意地悪く笑って見せるのだろうから、余計にだ。
「フィリアがいると分かってたら、真っ先に言ってましたよ。もっと早く助けてくれればよかったのに」
「ふ、何だ。その年に取って、師匠に甘えるのか? それでは一人前とは言えないな」
口を尖らせるこちらとは正反対に、素直に助力を受け取ったイリアはかなり能天気だった。
「フィリアさん。助太刀ありがとうねっ」
「よしよし、よく頑張ったな」
不公平だ。
クロードのそれが甘えだというのなら、普通なら助力に喜ぶイリアのそれも甘えになるのではなかろうか。
だから……。
助けを求めなかったのはイリアも同じなのに不公平だ、と。そんな風に言えばフィリアは、イリアの頭なでなでを止めてこちらに言い返してきた。
「イリアは良いんだ。なぜならイリアだから」
それに対するこちらの感想はただ一言、甚だ遺憾である。
(何その、物理法則とか規則とか常識とか無視した発言。僕も時々言ってるけどさ)
割と窮地に陥った後のはずだというのに、助かった事を素直に喜べないのは、彼女の性格の故だろう。
そんなこんなでフィリアと合流した後は、また追加の部隊に目を付けられないうちにと、秘密基地である洞窟から出ていくのだが……。
「人の気配がたくさん」
「少々厄介だ。囲まれているな」
ユーフォリアとフィリアの言葉で、やや厳しい現状を把握するのだった。
クロード達には分からないが、前者は竜の力で、後者は長年の経験で、増援の存在を察知して知らせてくる。
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