第23話 いつものように



 ユーフォリアの話を聞いて何とかしたい。そう思った。

 イリアの手助けをする目的もあったけれども、クロード個人の意思として、一人の人間として、目の前の少女を放っておいてはいけないと思ったからだ。


「許せないね」

「うん、絶対許せないよ。そんなの、ひどい! ユーフォちゃんを犠牲にするなんて、駄目。私は反対だよ、クロード!」

「うん、そんなに声を荒げなくたって、イリアの気持ちは分かってるよ。その為にこうして逃げてきたんだろ?」

「そうだよ。私絶対そんなひどい奴らなんかに渡さないから。絶対に守るから。だからユーフォちゃん、安心してね」


 イリアはユーフォリアを安心させるように、力強く抱きしめた。


 ここまで聞いておいて、今更イリアが治安部隊の肩を持つなんてありえないだろう。分かっていた。


 想像した通りの反応が返って来た事に少しばかり苦笑してしまう。


「でも、何か動くにしろフィリアには相談した方が良いと思う。性格は滅茶苦茶だけど、たぶんあっち側につく事はないだろうし」


 脳裏につい数時間ほど前に会ったばかりの人物を思い描く。

 味方になってくれると言うのなら、彼女程頼もしい人間は他にはいないだろう。


 元、とはいえ治安部隊ではそれなりの地位にいただろうし、フィリアを使って証拠を暴き出すのも良いかもしれない。


 そんなクロードの提案にイリアは納得したように頷いた。


「そっか、フィリアさんなら安心だよね。あ、ユーフォちゃんは知らなかったよね。フィリアさんは私達の師匠でとっても強い人なの。昔は治安部隊にいたんだけど……」


 息巻くイリアがユーフォリアに簡単な人物説明。

 途中から脱線しそうになるのを見計らってストップさせ、話に戻させるのはクロードの役目だ。


「はいはい、分かった。もう十分だから。話続けるよ」

「はーい」

「で、力を借りるとしても、これからあの人の家にかくまってもらうのも限界があるんだよ。その後、どうするかってのが問題。いっそフィリアが復帰して、手っ取り早くその研究潰してくれなかな」

「クロード、人任せは駄目だよ」

「分かってるって、言ってみただけ」


 フィリアだって、いたくないから治安部隊から抜けたのだろうし、一つの職に就くとか就かないとかは、人の一生に関わる選択だ。何も知らない自分達が強要して良い事ではないだろう。


 治安部隊にはアドバイザーみたいな形で今でも出入りしているらしいから、やってもらうならそっちの方面で期待するしかない。


(まあ、僕らが何か言ったところで、フィリアが大人しく言う事聞くなんで、そんな事絶対にありえないんだろうし、そこまで内部に入り込まなくったって彼女は器用だから、大丈夫のはず……)


 これからの事を話し合いながらも、取りあえずの方針として、頼もしき元職業軍人である女性兵士と合流すると言う目的を立てる。そんな風に機密基地もとい洞窟の中で話を進めていくのだが……。


 背後、入り口の方からふいに物音がした気がした。


「誰か来た?」


 振り返って、洞窟の先へと目を凝らす。

 だが、聞こえて来た音は小さく距離はおそらくまだ遠い。

 いたとしても人の影すら見えないだろう。

 一瞬聞こえた、物音の様なものが気のせいだったかどうか、早急に確かめなければならない。


 こんな狭い場所で戦闘になったら、こちらが圧倒的に不利になってしまうし、派手な事をすると生き埋めになりかねない。


 音の正体を確かめようと歩き出すのだが。


「人が来てる」


 そこで、ユーフォリアがそんな発言をした。


 それを聞いたイリアが驚いて尋ねた。


「分かるの? ユーフォちゃん」

「生き物の気配なら、大体は」

「へぇ、凄いね。竜の血ってすっごく不思議。凄いからかな」


 よく分からない結論に落ち着くイリア。

 凄いから凄いっていうのは、凄く馬鹿っぽい思考だ。


 思うが、ユーフォリアはそんなものが分かるのならば、逃げ込んだ森の中でドラゴニクスに接近される前に、なんとか逃げられなかったのだろうか。


 いや、クロード達と違ってユーフォリアには味方はいなかったのだし、一度は捕まった治安部隊から逃げ出した後で、疲れてでもいたのだろう。


 ひょっとしたら、休息をとっている時に襲われたのかもしれない。


 とにかく、戦うのなら早めに行動しなければ。


「呑気に感心してないで、イリア。武器持ってる?」

「当然!」

「じゃあ、いつものようにやるよ。中で戦闘すると、崩落が怖いから、出来るだけ外に出るの優先でね」

「オッケー。張りきって行こー!」

「ユーフォリアは出来るだけ隠れて後ろで!」

「うん……」


 イリアとユーフォリアを促して、洞窟の入口へと向かう。


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