第16話 ユーフォリア
戦闘は終了。
怪我人はいるが、増えてはいない。
一時はどうなる事かと思ったが、こちらが被った新たな被害はゼロ。
これが学校のテストなら、及第点どころか、満点花丸をもらっても良い成績だった。
「えっへへー」
「何か、嬉しそうだね」
「そうかな。そう見えるかな。あの子には悪いけど、大きい相手を倒すと何か達成感があるよねー」
「まあ、そこは否定しないけど」
気絶している竜種の前で、そんな風に話をしていれば少女が話しかけて来た。
「あの……、ありがとう、ございます」
こちらへの距離を感じさせるように、恐る恐るといったような感じで。
クロード達がどういう人間なのか、判断しかねている様子だ。
こちらの表情を窺いながら、どんな反応を返すのか注意深く待っている。
そんな彼女を見て、クロードは思う。
(確かに冷静に考えればあやしいよな)
こちらがあやしく見えるのは分かっている。
その手の人間、治安部隊の人間にしては自由すぎて、かといって完全なる一般人というには少々力がありすぎるだろう。
クロード達は、ちょっと強い護身術に先生がいて、ちょっと機会に恵まれた程度の、才能と運があった人間なだけなのだが、それをこの場で言ったところでどこまで信用してもらえるか分からない。
何と説明すればいいのやら、だ。
だが、そんな風に考えているこちらの懸念を不死素量に、イリアがさっそくとばかりに話しかけ始めた。
彼女は、少女の状態を見ながら心配そうにしていた。
「大丈夫だった? 怪我とかしてない? 応急キットなら持ってるから、遠慮なく言ってね。あ、ここ血が出てる。動いた時に開いちゃった傷だね。ほら、ここに座って」
「大丈夫、です」
「駄目駄目、ばい菌とかが入ったら大変な事になっちゃうよ、ほら良いから良いから」
「あ……」
少女をその場に座らせ慣れた様子で、簡易的な手当てをしていく。
今までに経験した怪我の分だけ、その作業はよどみがない。
フィリアを先生にすると、その弟子は生傷が絶えない訓練になるから。
こういう時は、無駄に痛い思いをしたわけではなかったと少しほっとする。
(たまにあの人は、自分の趣味で人を痛めつけてるような気がしてくると気があるしなぁ)
消毒スプレーを吹き付け、包帯を巻いていくイリアは、自己紹介を指定兄事に気が付いた様だ。
「あ、私の名前はイリア。よろしくね! 貴方の名前は何て言うの?」
「ユーフォリア、です」
「そっかぁユーフォリアちゃんかぁ。何か凄そうな名前だよね。歴史がありそう。あ、長いからユーフォちゃんって呼んでいいい?」
「ええと」
邪気を感じさせない彼女の言動に、戸惑いつつも少女ユーフォリアからは次第に警戒の色が抜けていった。
少々面食らっている所はあるが、すぐに慣れるだろう。
それだけイリアの内心は、裏表なく透けてる見えるのだから。
もう数分もすればそんなイリアになじむだろうから、クロードがあれやこれやと心配する事はなかったかもしれない。
何だか、イリアにかかれば翻訳機なんて要らないような気がする。
身一つで異郷の地に放り出されたとしても、どこでもやっていけそうだ。
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