第17話 事件の犯人
ミクルア森林前 小屋付近
フィリアから頼まれていた用事は済んだ事だし、か弱い少女をつれてこれ以上森を歩く理由はない。
元々は一日がかりで取り掛かるつもりだったのだが、終わってみればまだ数時間しか経っていなかった。
さすがのフィリアも、まさかこんなに早くクロード達が依頼を終えてくるとは思わなかっただろう。
驚いた顔を想像して脳裏に思い浮かべれば、日ごろ無茶ぶりされている鬱憤も少しは晴れるというもの。
厄介事は一つ増えてしまったが、それは日常茶飯事なので仕方ない。
そういうわけでクロード達は来た道を引き返し、ユーフォリアを連れてフィリアの家へと戻った。
家の前には当然いなかったので、以前渡された合鍵を使って中へ。
人の気配は無かったがクロード達に押し付けて確保した時間を、他の事に当てようとしていたのだろうか。家の中にはその他の事に向けての準備道具が散乱していた。
絵具、鉛筆、刷毛に、キャンバス。
彩色道具関係のものが、床の上にごちゃごちゃと散らばっている。
まさか、ずっとこのままという事ではあるまい。
「相変わらず汚い部屋だなぁ」
「人の事は人の事」主義であるクロードでも、その部屋の惨状は一言物申したくなるほどだった。
性格と元職業に似合わず、絵を描く事が趣味であるフィリアは、ありったけの画材を引っ張り出して、散らかす様に設置するから、客が困るのだ。
一見しただけではとても規則性のある配置には思えないのだが、本人にしか分からない特殊な分類法で並べられているのだろう。
以前足の踏み場がないと言って片付けようとしたら、雷のごとく怒られたのを覚えている。
「フィリアさーん、倒してきたよー」
イリアが良く聞こえる様に大声で呼びかけながら、家の中を巡っていくが返事がなかった。
やはり留守の様だ。
「出かけてるのかなぁ?」
「この部屋がこんな状態になってるって事は、そう遠くにはいってないだろうし。すぐ戻って来るんじゃない?」
「そうだね」
どう見ても、「そうだ絵を描こう」「いや、他に用事があったな。まずはそっちを片付けるか」っていう感じの様子だし。
だが、その中で違和感が目につく。
「……?」
何か変だと思いつつも、その違和感の正体がなかなか掴めない。
眼の前にあるのはフィリアらしい、よくある部屋の様子なのだが……。
それに気づいたのはイリアだった。
「あれ、この資料」
「どうしたの?」
声を上げた彼女の方を見ると、何かの調べ物でもしていたのかその時のままになって書物が散らばっているテーブルがあった。
イリアはその中の一つに目を通して首を傾げている様だ。
「見た事あるなって思ったの。どこだろう」
そう言ってイリアが見せてくれるのは、治安部隊で導入されているという機械。
「もしかして、昨日見た奴なんじゃないの?」
「あ、そうそう。そうだよ。あーすっきりした」
喉の奥の魚の骨が取れたような顔。
試しに言ってみた言葉にイリアは躊躇いもなく頷いた。
適当に言っただけだったと言うのに、まさか当たるとは。
しかし……。
そこから考えを発展させようとしない彼女に告げるのは、あの出来事について。
「ちょっと、待ってイリア。その機械、昨日見たって事は、爆発の犯人って」
「あ……」
この家の中にいるには珍しい、無言の空気が満ちる。
治安部隊の機械がいたという事は、つまりはそういう事になるのだ。
「でも、そんな事。何かの間違いかもしれないよ」
「……そうかもね。まだこれだけじゃ、確信はもてないか」
急いて真相を求めても仕方がない事だ。
疑惑は残るが、それに関しては、一旦置いておこう。
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