第13話 竜との戦闘



「クロード、援護お願い」

「はいはい、分かりましたよ」


 逃げまどう少女と、暴れ回る竜の間に割って入ったイリア。

 彼女を支援すべく、クロードは念のために持ってきた愛用の飛び道具を取り出した。


 ソウルイーター。

 一度に十発銃弾を撃ち込める銃だ。

 それは、名のある航路に住む竜が、通りかかったいくつもの隊商を餌食にしたとかいう竜の通り名だ。


 ソウルイーターは、その鱗を素材として使っている武器だった。

 百人の魂をくらいその身に宿らせているだろうことから、その銘がついた。


 正直、ただのしがない観測員でしかないクロードには、かなり手に余る武器だと思うが、誕生日にフィリアに直々に押し付けられたので、無下にする事も出来なかった。

 そういうわけでこれは、今の今までなし崩し的に所持している武器なのだ。

 彼女は気に入った人間には、ひたすら自分の都合を押し通すタイプだから、返品する方が面倒くさいというのもあった……。

「私のプレゼントが受け取れないのか」なんて、さんざん脅したあげく、自宅まで直接送りつけられては諦める他ないだろう。


 永続回避の恩寵を持っているクロードが前に出れば、敵の攻撃は絶対当たらないだろうが、前衛はあえてイリアに任せる。

 なぜなら彼女では、背後から戦況全般を見渡しして判断する事も、誰かを細かくフォローする事もできないから。


 この役割分担は、適材適所という奴だ。


 目の前、イリアは大きな図体の竜と渡り合う為に、体格差を生かして小回りの効く挙動で相手を翻弄している。


「こっち、あたしが相手だよ!」


 そんな、少女から狙いを外すという思惑は成功した様だ。


 イリアは、己の所持している武器……昆を振り抜いた。

 彼女の方の武器は打撃の攻撃を放つ昆だ。


 サンシャイン。

 イリアの性格にぴったりのその昆は、クロードの武器と同じく竜の素材を使って作られたもの。


 寿命で死んだ太陽色の竜サンシャインの、鱗を使用した武器。 


「やぁぁぁぁ!」


 イリアは、敵へ走り寄ってドラゴニクスへ昆を叩きつける。

 人や小動物ならともかく、ただ叩いたくらいで敵が倒せるのかと思うが、そんな常識を簡単にひっくり返してしまうのがイリアだ。


 小さな人間の与えたその一撃は、相手にとって予想外の一撃を生み出す。

 その瞬間、あきらかにあり得ないエネルギーがドラゴニクスへと伝わり、まるで巨大な鉄塊でもぶつけられたかのように、大きな巨体をぐらつかせた。


 目を疑うような光景。

 だからといって彼女が特別怪力なわけではない。


 イリアは、力の使い方が人より美味いのだ。

 どこに、どんな風に力を加えれば敵に最大のダメージを与えられるのか、その勘を掴むのが圧倒的に上手い。


 彼女は少ない力を何倍にする方法も、熟知していた。


「鬼さんこちら! 泣いても知らないよー」


 それに加えて戦闘センスも良いものだから、体裁きなんかの獲得も早いし、度胸もあるので竜種なんてものを目の前にしてもまったく動じない。


「イリア、あんまり前に出過ぎないでよ!」

「平気平気」

「平気平気じゃないよ、もう……」


 ただ、たまに調子にのるのが残念なところではあるが、それを見越してフィリアはクロードにカバーしろと言ったのだろう。

 足りない所は、上手くクロードが埋めるしかない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る