第12話 予想通りの行動



 土に汚れてしまった少女に反省を促すためにも、呆れたため息をついてみるも、イリアは尻もちをついたまま誤魔化し笑い。

 おそらく、この失敗が次の機会に活かされる事はないだろう。


「まったく、ほら。大丈夫?」

「えへへ。ごめんね、ありがとう」


 助け起こしながら同じようなやり取りを何度したか数えようとして止めた。

 絶対に数えられそうにない。


 そんな風に、土と石と草地のでこぼこ道を苦心して歩きながら、時にイリアが調子に乗ってこけらり、時にクロ―曽我それを助けたり、時に雑談を交わしながら歩いていると、ふいに音が聞こえて来た。


 大体クロード達が森に入ってからの、小一時間程経った頃合いだ。

 耳を済ませながらイリアが喋る。


「何か、声が聞こえるね」

「人の声? 女の子の声だ」


 よく聞いてみると、それは間違いなく女性の声だった。

 それも、クロード達と年齢が同じくらいか少ししたくらい。

 そして、どこか聞き覚えのあるもの。


「誰か迷い込んじゃったのかな」

「そんなわけないでしょ、こんな密林の深くに」


 鬱蒼と生い茂る森の中に、少女一人。

 想像してみて、あまりのありえなさに瞬時にその光景を振り払った。


 一体どんな事になればそんな状況になるのやら。

 だが、いくら怪しいと言っても知らんぷりするにしては、その声は切羽詰まった声音過ぎた。


「何かに襲われてるのかも。様子を見に行こうよ!」


 聞こえて来た方角を心配そうに見つめるイリア。

 懇願するような瞳を向けられては、ため息をつかざるを得ない。


「はぁ、止めたって無駄なんでしょ。好きにすれば」

「うん!」


 ここで制止した所で、イリアの性格からすれば「じゃあ一人で行く」くらいの事は言いそうだったし、前に似たような状況になった時は実際そうなったので、抵抗したとしても全くの無駄なのだ。


 意気揚々と走りだした幼なじみの背中を追うようにして、クロードも走り出す。

 ほどなくして声の主が確認できた。


「あれ、あの子」


 声から分かる様にその人物は女性だったのだが、その姿には見覚えがあった。


「確か昨日の……」


 コンサート会場で空から墜落してきた少女だ。

 どう考えても訳ありに見えそうな人物。

 あの後治安部隊の者達に保護されたはずなのだが、なぜこんな物騒な所にいるのだろうか。


 視線をずらす。

 そんな少女と面するのは、小さな竜だった。


 少女は、今まさにクロード達が探していた竜種に襲われている最中らしい。

 森に立ち並ぶ木々と同じくらいの身長、長い尾。空を飛ぶ為の翼、そして、全身が固い鱗に覆われた体表。


 まちがいない。

 ドラゴニクスだ。


 何か逆鱗に触れる事でもあったのか、ただ単に虫の居所が悪かったのか、視線の先にいるドラゴニクスは激怒した様子でいて、積極的に少女を攻撃しようとしていた。


 足で踏みつけるなり、己の顎でかみ砕くなり、はたまた鋭い爪の生えそろった手で摑まえるなり。

 湧き上がる敵意のままに害をなそうとしているのだが、少女の方もただではやられない。


 身のこなしが素早くそれらを回避していって、龍は容易に捕らえられないでいるようだった。


「慣れてるのか? そういう状況に」


 そんな様子から、分かるのはその少女が戦闘に慣れているらしいという事。


 しかし、だからといって勝機があるようには見えなかった。

 少女は全身傷だらけで、疲労困憊と言った様子で、時々ふらついていたからだ。

 冷静に分析するクロードとは違って、隣にいるイリアはそんな光景を目にして我慢できなかった様だ。


「大変、助けなきゃ」


 案の定、真っ先に飛び出して行こうとするのだった。


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