第68話 巨大ホール①

◆巨大ホール


 目の前を何台ものトラックが排気音を響かせながら行き交っている。

 辺り一帯が荒涼たる風景だ。人の温もりなど、一切受けつけない場所・・そんな心情さえ浮かび上がる。

 数台のトラックが、ムーブを乱暴に追い越していく。トラックの運転手の顔・・国籍が不明だ。日本人らしき運転手がいない・・

 空は雲一つない晴天だ。だが、今はそんな青が残酷な運命を語る色に見える。


 車を停車させるとイズミが、

「ミノルさん。大量のB型ドールの存在を確認しました」と告げた。

 普通なら、そんなことがわかるイズミの能力に「すごい!」と思うところ、

 希望の光が差すような言葉のはずなのに、悪い予感しかしない。何の希望も見い出せない。

 なぜなら、目の前に広がっている光景は、どう見ても、巨大な廃棄処分場、又は何かの処理工場にしか見えないからだ。

 その中心に円筒状の建物が見える。誰かの感情など一切受けつけない、そんな形を描きながら、青空に向かって高く伸びている。

 そして、思った・・

 ここはフロンティアではないだろう。

 おそらく、ここはB型ドールの墓場だ。B型ドールを捨てる所だ。


 けれど、念のためにイズミに聴いた。

「その大量のB型ドールに・・生命反応はあるのか?」

 イズミは、しばらく思考を巡らせていたようだが、

 イズミの返事より早くサツキさんが、

「生命反応は・・あります」と応えた。

 B型ドールの並列思考で、わかるのか?

 だが、その声には力がない。

 しかし、生命反応があるのなら・・まだ希望がある。

 そこで、サツキさんのフロンティアが待っている。


 その時、イズミが助手席から僕の袖をくいくいと引っ張った。

 僕が「なんだ?」と問うと、

「ミノルさん。生命反応はあることはありますが、全て、壊れています」

 イズミはそう言った。

「壊れている?」

「ハイ・・ドールは全て壊れています・・イズミは、そう認識しました」

 イズミは確信しているように言った。

 すると、後部席からサツキさんが、

「もういいのですよ・・イズミさん・・」と言って、

「イムラさんは、この場所のことをおわかりになられたようです」と続けた。


 え?・・

 僕がサツキさんの言葉に戸惑っていると、

「イムラさん・・黙っていて、ごめんなさい。私はイムラさんがフロンティアのことを、お調べしていたことを知っていました」

 僕がパソコンのネットで廃棄場の地図を見ていたのを、知っていたのか。

「イムラさんは、ご存知でしたのに、私には言わなかったのですね」

 サツキさんは背を起こし、そう言った。


「イムラさん・・ここは、私たちの墓場であるのと同時に、私たちのフロンティアでもあるのです」

 どういうことだ?

「だったら・・知っていたのなら、サツキさんはどうしてここに来たかったのですか?」

 僕は後部席を振り返り、サツキさんに訊いた。

「言いましたように、ここは私どものフロンティアなのです」

 けれど、同時に墓場・・ということか。理解できない。


「そして、私は、ここに来ることが出来ただけでも、幸せなのです」

 サツキさんはそう語ると、

「ここに来ることもできず、稼働を閉じたドールもたくさんいます」と続けた。

 いつか、街で僕が見かけたB型ドール、黒服の男たちに担がれ、どこかに連れて行かれたドール・・それよりは、遥かに幸せということか。


 サツキさんは、「イムラさん・・あの右手に見える所に車を停めてください。あとは徒歩になります」と指示した。

 よく知っているな、と思いつつ、言われる通り、大きな広場のような駐車場に車を停めた。車は他にも数十台停まっている。

 ああ、そうか。サツキさんはB型ドールの並列思考で、その場所が分かるんだな。

 そして、場所以外にも、この場所の持つ意味も知っている。


「外に出ます」と言って後部席のサツキさんは、車を降り立った。

「サツキさん・・歩けるのですか?」

 僕が訊ねると、

「最後のエネルギーを全て、注ぎ込みました」と応えた。

 サツキさんは、フロンティアと呼ばれる廃棄場に行き、そこで稼働を止める。

 そこまでの僅かなエネルギーがあればいい、そういうことだと理解した。

 そう・・サツキさんが稼働を終える時、

 ・・寿命が尽きるのは、数時間後だ。

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