第65話 インプットシート②
そう言ったYに対して、Xが、
X「それなら、中古を買えば?」
Y「中古? フィギュアプリンターに中古があるのか?」
X「・・いや、フィギュアプリンターの中古もあるが・・それも結構な値段がする。相場は20万円だ。しかし、出来合いのもの・・作ったはいいが、不要になったとか、理想と違ったとかいう奴がネットに売り出す」
Y「そんなのがあるのか? 相場は?」
Yという男の必死さが伝わる。
X「出来上がったB型ドールの中古は、10万もしないんじゃないか?」
Y「安っ!」
X「そんなに驚かれてもなあ・・B型は寿命が短いんだぜ、当たりが悪ければ、家に届いてから2、3日で稼働停止・・なんてもこともある」
Y「そっかあ・・B型も考えもんだなあ・・でも金もないことだし、とりあえず、B型の中古を買うとするかあ」
そんなBにAは、
X「ただ、B型ドールは、顔については変更不可だよ」
Y「どうしてなんだ?」
X「B型がA型より美人にならないようにするためだよ。B型は容姿、その顔、全て、A型より劣るように組まれている」
Y「僕は金がないんだ・・それくらい・・顔くらい、我慢するよ。親切にありがとう」
そこでXとYのやり取りは終わった。
B型ドールの容姿や顔がA型ドールを越えてはならない・・
そんな言葉が気になって、
B型ドールのインプットシートの「容姿」から細分化された「顔」を見てみた。
B型には圧倒的に顔の種類が少ない。
A型ドールに比べて、値段が格段に安いから仕方がないといえばそうなのだが、
顔が「出来合いの顔」の中から選ぶようになっている・・・
つまり、
A型ドールが、設問形式で、
「目はどれくらい大きい方がいいか?」
「かなり大きい」や「細い」とか、数十種類のパターンから選ぶようになっている。「目」以外にも、「頬」「口」「耳」「鼻」と更に細分化されるから、出来上がった顔は、全て異なる。
そのパターンの組み合わせの数は、人間の女性に迫るものがあるかもしれない。
その上、女優やタレント、モデルの顔からもセレクトできるようになっている。
精巧な替え玉・・影武者でもできそうだな。
それに比して、B型ドールは、
「A「B」「C」・・これらの顔のどれにしますか?・・・そんな雑なセレクト形式だ。
その中の一つの顔がサツキさんの顔だ。
そのやり方が販売会社の主義や思想によるものなのか、
ドールを販売するに当たって、購入側から、そんな要望があって、そうしたのか。
そして・・これはあまり考えたくないことだが、
A型ドールのAI自身がそう要望した・・そんなことも考えられる。
A型ドールのAIが、販売会社の何かに潜り込み、自分たちより、B型ドールが秀でることのないように設定をことごとく変えてしまった。
そんな風なことも十分に考えられる。しかし、それは確かめようもない。
そして、問題のB型ドールの並列思考だ。
これについては、有線ではなく、無線で繋がっているらしい。それは前回学んだ。
このサイトの管理者曰く、
「B型ドールに並列思考を設定したのは、販売会社や国が政策上、統率がとりやすいからだ。いわゆるAIの氾濫を防止する策だ」
これも、前回、調べたので知っている。
そして・・
「だが、その政策が仇となり、B型ドールにしか、知らない思考や記憶が生まれるようになった・・そして、一度生じてしまった現象はとめられない」
なるほど・・それがB型ドールの現状か。
統率に利用するはずだったB型ドールの並列思考の中にそんな別の能力が生まれたということか。
つまり、B型ドールは、ただの業務に従事する単純思考とは別の記憶の部屋を作った。
サツキさんに例えて言うならば、
それが初めて見た「海」の記憶だったり、料理や買い物をした経験とか・・花を愛でたこともそうだ。
そして、サツキさんの記憶の中には、僕やイズミの思い出もある。
その記憶は、B型ドール全員の並列思考の記憶であるのと同時に、個別の・・サツキさんだけの記憶だ。
B型ドールの並列思考の中のサツキさん固有の記憶を取り出すことができる。
そのことを確信するようなことがサイトに書いてある。
「そして、B型ドールのそれらの記憶や思考は、個々に分裂させることが可能である」
・・ならば、その分裂したサツキさんだけのオリジナル記憶。
サツキさんというオリジナルのB型ドール。
他の大勢のB型ドールとサツキさんを区別するためのもの・・
サツキさんであることを知るためには何か「目印」のようなものが必要だ。
目印ではなくても「合言葉」のようなものが。
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