第64話 インプットシート①
◆インプットシート
部屋にはこれまでなかった花の香りが漂っている。独身一人暮らしの殺風景な部屋が、活けられた花で彩られている。
サツキさんは「ユリ・・大好きです」と言って、ずっと飽きることなく花瓶に活けた花を眺めている。
イズミもイズミで、「これは見るだけですか? 髪には付けられないのですか?」と言っている。それは無理だろう・・と思ったが、今度島本さんに訊いてみることにしよう。
そんな心温まる部屋の中で、
僕はパソコンの掲示板やフィギュアプリンターの販売サイトを念入りに見ている。
特に、国産型のA型ドールとB型ドールについてだ。
まず、その製作方法。
ドール作成に当たってのデータのインプットシートを閲覧する。
これについては、国産型ドールの販売サイトでは、公表されていないみたいだ。 フィギュアプリンターを買った者だけが見ることのできるものだ。
それ故、購入者のサイトに行くと、インプットシートを閲覧できる。
A型ドールは、飯山商事の山田課長の自慢した通り、かなりの項目が並んでいる。
全て見るのも容易ではない。
体型、容姿に関するデータ。仕事に関するもの。性格についてまである。
それぞれの項目が枝分かれしているから、全部合わせると、1000項目まではいかないが、それに近い数字だろう。
僕が購入した中○製の思念で創れるフィギュアプリンターの楽さ、その深み、などとは全く異なるものだ。
中○製と国産のドールは全く違う、と考えた方がいいだろう。
そして、両者が決定的に違うのは、国産型は性的目的で購入する人の割合が高い、ということだ。それに関してはB型ドールも同様に思える。
次に、B型ドールのインプットシートを見てみる。
その項目はA型ドールの3分の一にも満たない。
特徴的なのは、業務、仕事に関するものはA型と大差ないが、性格や容姿に関する項目は大幅にカットされている。
僕は気になっていた「掃除・清掃」に関する項目を探してみた。
「業務」又は「家事」から細分化した項目を探す。
・・ない。
なぜ、ないのか?
そのサイトの管理者によれば、
浄化作業や、デザイン系の仕事、又は絵を描いたり、報告書を作成したりする業務はない、ということだ。
それらの能力は、見る側の評価によってA型ドールの能力を超えて映ることがある、
B型ドールはA型ドールを決して越えてはいけない。
管理者は文章をそう締めくくっている。
そんな能力もそうだが、その腕力、つまり運動神経、そして、容姿・・
A型ドールを超えるプロポーションや、美貌は許されない。
あるドールの掲示板にこんなやり取りがある。
X「俺、A型ドールを大枚はたいて買ったんだけど、最高だよ。俺の場合は完全に性目的だけどね(爆)・・と言っても、
この国産A型ドールは元々、そんな性目的で創られたらしいぜ」
Y「・・だな・・けれど、その稼働性や、運動能力・・成長する思考回路に企業が目をつけて、企業対応できるようにデータを加えていったらしいな」
X「だから、A型のドールは最高なんだ」
Aの貼ったリンクでAのホームページに飛ぶと、
そこには絢爛豪華なデザインで彩られたページがあり、その中に、「ドールと暮らす日々」と題された表題の中には、A型ドールを様々なコスチュームに着替えさせた写真や、お出かけした際の記念写真等がある。
完全に個人の趣味だな・・それに気持ち悪い。再び掲示板に戻る。
そんなAに対してBは、
Y「僕は、A型ドールを買う金なんてないから、B型ドールの購入を検討しているんだが、どう思う?」
X「どう思うって・・訊かれてもなあ・・B型ドールを持ってる奴に訊いた方がいいとおもうぜ」
Xはそう答えた後、
X「俺が知ってる話をすれば、B型はA型の安価版・・その能力も大幅にカットされていると聞くよ。それに、顔がワンパターンだから、飽きる人も多くて、性目的で買う人は少ないらしいぜ。ということで、あんたが性目的でドールを買おうとしているのなら、断然、A型を勧めるぜ、金ならローンを組めばいい。それに、B型はアップグレード機能がないから、すぐに寿命が来るらしいぜ」
Y「そうか・・しかし、ローンも組めない僕はどうすればいい?」
X「だったら、B型だろ」
B型用のフィギュアプリンターは、確か50万円前後だ。
Y「B型の50万もきつい」
X「なんだ・・B型も買えないのかよ」
Aが呆れ返る。
Y「なんとかなる方法はないのか?」
Yが教えを懇願する。
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