第58話 祝福の日々②

 そんな風に思ってネットの掲示板を繰っていると、

「B型ドールのフロンティア一覧」というのが出てきた。

 フロンティアの一覧だと?

 そのページを開いてみる。

 そこには日本地図があった。マップの上に赤い丸が数個記されている。その中で、ここから一番近い兵庫県北部の箇所をズームアップさせる。

 あった!


 その時、

 ドタンっ! と大きな音がした。

 台所を見るとサツキさんが倒れていた。

 イズミがサツキさんの顔を見て、

「ミノルさん・・サツキさんは充電切れのようです」と告げた。

 サツキさんはピクリとも動かない。成熟した女性の停止した体が仰向けに転がっている。

「おい・・イズミ」

「オイ、イズミ」とイズミは僕の言葉を復唱した。


「B型ドールは充電が切れる前に、自分で分からないのか? 電気の残量とか」

 僕がイズミに尋ねると、

「イズミは残量が分かります・・それは他のドールも同じです・・シカシ、サツキさんの場合は、その機能が停止する寸前まできているのです・・従って・・充電の残量を知るというよけいな機能は断ち切られています」

 そういうことか。

「それなら、サツキさんに充電をしてあげてくれ」そう僕は言った。

 僕の指示を受け、イズミはサツキさんの制服のブラウスをたくし上げた。

 その綺麗な背には充電用の差し込み口があった。

 充電の準備をすると、イズミは「充電にはしばらく時間がかかると思われます」と言った。

「ミノルさん・・お料理の製作の続きはどうされますか?」

 イズミの輝く瞳が僕を見る。

「それなら、料理の続きをイズミがしてくれ」とは言えない。

 イズミの目がまだ僕を直視している。

「さっき、サツキさんを手伝っていたが・・イズミは、料理の続き・・できるのか?」

 一応、ダメ元で訊いてみる。

「デキマセン」

 簡潔明瞭な返事がイズミの可愛い口元から洩れた。

「なんだよ、それ。『どうされますか?』とか訊くから、僕はてっきり、イズミがやる気を出して作るのかと思ったじゃないか!」

 僕の文句を屁ともせずにイズミは、

「シカシ・・できないこともないです」と言い改めた。

「できるのか?」改めて僕は訊いた。

「ワタシはデキマセン」

「なんだよ・・できないのかよ」

「けれど、ワタシがサツキさんとデータ交信すれば、ワタシが作ることが可能です」

 イズミはそう説明した。

 なるほど・・

 植村のお母さんドールと交信したように、5000円のケーブルでイズミとサツキさんを繋いで料理のデータを送ってもらうということか。

 僕がそう確認すると、

「そうです。ミノルさんがお買い求められた5000円のケーブルを使えば何とかなります。ケーブルを買っておいてよかったと思います」

「そうだな」

 と答えたが、何だかイズミのセールス術中にはまっている気がするが、まあよしとしよう。

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