第49話 佐山さんとファミレスにて①
◆佐山さんとファミレスにて
それから数日が経った。
仕事中・・外回りの最中に、僕の携帯に経理の清水さんからのメールが入った。
何かのお誘いか、と思いながら浮ついた心で「清水美穂」のメールを開くと、全く色気のない内容だった。
しかもメールの宛先が僕以外にもあって、佐山さん、そして、植村の計三人宛てだ。
「井村くん、植村くん、佐山さん・・
お仕事中なのにごめんなさい。この前は飲み会、楽しかったわ。
その飲み会の時のことなんだけど、ひどいことがあったでしょ。憶えてる? もちろん憶えてるわよね。
あのドールを乱暴に扱っていた人達の会社がわかったの。幹事の人の顔を覚えていたから、調べたのよ。そしたら、うちの会社の取引先の飯山商事だったわ」
飯山商事(株)と言うのは、あの山田課長がいる会社だ。
すると、あのA型ドールは山田課長以外の人間が所持するドールで、B型ドールは機械作業に従事しているドールということだな。
清水さんは更にメールに続けて、
「なんか、いやよねえ・・・私は経理だから、あの会社と接することはまずないけれど、佐山さんは営業で飯山商事に行くこともあるものね。井村くんも植村くんもだよね」と綴って、最後に「一応、報告でした・・また誘ってね!」と締め括られていた。
また飲み会に清水さんたちと!
嬉しく、心が躍りそうな反面、僕の元来の性格「面倒くさい」が顔を出す。イズミに指摘された通り、僕という人間はやはり人付き合いは苦手なのだ。
しかし、それにしてもそんな僕の性格をAIドールであるイズミに指摘されるとは、人間として情けなくはないか?
それから30分ほどして、メールの着信を知らせるバイブ音。
今度は佐山さんからだ。
「井村先輩、相談があります!」と題名があった。
僕に相談? 仕事又はプライベート? それに「先輩」っていう呼称、高校の時の部活を思い出す。
佐山さんには、この前の飲み会で「先輩の家に遊びに行ってもいいですか」とか大胆なことを言われたな。そんなことが一瞬で頭をよぎる。
佐山瑞樹さんからの受信メールを開くと、
「井村先輩、ご相談があります!」ともう一度書かれてあり、
「今日の午後、外回りの時、時間が作れないですか? どこかで落ち合って、お茶でもできたら、と思います。厚かましいお願いですが、よろしくお願いします」
メールはそこで終わっている。
今日の午後の時間。数社の打ち合わせの間に時間は30分・・上手くいけば一時間は作れる。
僕は返事に「今日の3時に神戸駅北側のロイホでなら」とファミリーレストランの「ロイヤルホスト」を指定した。
佐山さんからの返信がすぐに着いた。「ありがとうございます! 先輩!」とあった。
先輩・・何度読んでも心地よい響きだ。
それにしても、相談って・・仕事の相談なのか? 仕事しかないよな。
僕は午前、午後の営業のスケジュールを調整しながら、全てを午後三時に向かって合わせた。
営業は電車を使ったり、そのケースに合わせて社有車を使ったりもする。今日は車を使ってお得意さんを回った。渋滞に遭わなければ3時には間に合う。
と、思ってはいても予定は狂うものだ。
例の山田課長に引きとめられ、またA型ドールの自慢を聞かされた。
10分遅刻してしまった!
と思いながら、車をロイヤルホストの屋外の駐車場に入れた。
駐車場に入る際、店の窓際に佐山さんの横顔が見えた。その奥にもう一人の女性がいるようだ。清水さんではないだろう。彼女は事務職なので、この時間に外に出ることはない。
なんだ、佐山さんだけじゃないのか。そう思いながら車を停め店内に入った。
窓際の席で佐山さんが「こっちよ」という風に手を振っているのが見えた。
佐山さんはうちの会社の制服姿、外で見ると新鮮だ。もう一人は・・
あれ? 飯山商事の女性社員の制服だ。山田課長の会社の。
二人のテーブルに近づくと、もう一人のOLがAIドールだと認識できた。おそらく、彼女は国産B型のドールだ。
「井村先輩。驚かせちゃって、ごめんなさい」
佐山さんは顔を合わせるなり、そう謝った。
僕は席に着くなり「佐山さん、いったい、どうしたんだ?」と訊いた。B型ドールなんて連れて来て・・
B型ドールの無表情な顔が僕を見ている。
佐山さんは「これには色々と訳があるんですよ」と言って、B型ドールがここにいる理由を説明しだした。
佐山さんの話によれば、
サツキさんは、飯山商事に勤務していたB型ドールだということだ。それは彼女の制服で何となく推測はできたが、問題はその先だ。
話の途中、オーダーを訊きに来たウェイトレスが、「B型のドールさんですね」と言ってニコリと微笑んだ。
B型ドールはウェイトレスに「サツキです・・よろしくお願いします」と言って会釈をした。
佐山さんはその様子を見ながら、「彼女の名前はサツキさんって言うの」と紹介した。
僕は「ドールに名前があるのか?」と尋ねた。
山田課長はそんなものはない、と豪語していた。
すると佐山さんは「私がさっき付けてあげたの」と答えた。「名前がないなんて、かわいそうじゃない」
どうしてB型ドールのサツキさんがここにいるのか・・
「サツキさんは、廃棄される寸前だったのよ」
つまりは、佐山さんは廃棄寸前のドールをもらってきた・・そういうことだ。
佐山さんはその経緯を説明した。
B型ドールは一体が約50万円ほどで、保守経費もさほどかからない。
会社の経費削減に当てられている。人間の社員であれば、年間経費一千万するところが、B型ドールなら、100万を僅かに超える程度だ。経費が10分の一で済む。
しかも、物覚えが人間に比べて早い!
仕事のデータも引き継げるから、教えることなく即業務に従事させることができる。
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