第2話 通販サイト②

 そのPOPをクリックすると、本物のような女性の写真が拡大されて映った。

 いや、これ・・たぶん人間だろう。よくある手だ。

 そして、説明書きには、こう書かれてある。


「フィギュアを組み立てたその日から、フィギュアはあなたの理想の「女性」として生まれ変わります。

 年齢も体型も、そして性格まであなたのお好み次第!

 あなたの心をフィギュアのハートにインプットしてください。

 翌日から、彼女はあなたのパートナーに・・」


 その辺りから読む気がしなくなってきた。

 胡散臭い!

 胡散臭すぎるぞ・・たぶん、これは中○製か何かだろう。


 ネットの通販には、呆れるほどの中○製が出回っている。たとえば、音楽プレイヤーやタブレットなども、日本の規格だと、数万円するものが数千円で買えたりする。


 だが・・この「フィギュアドール」というフィギュアプリンター・・値段がそこそこする。

 定価は30万円・・

 それが、「今なら20万円でお買い得!」

 10万円以上の値引きって・・これも胡散臭い。


 おそらく、材料費だけで高くついているのだろう。

 想像するに、安価な3Dプリンターで女性を模ったシリコン製の人形か、

 可動式フィギュアのようなものだろう。

 そして、中には音声の出るAIが仕込まれていて、こちらの受け答えをするように出来ていると予想される。

 カタログの写真はおそらく出来の悪いCGか何かだ。


 買う気もないが、好奇心にまかせて説明書きに目を通す。

 まず、フィギュアドールのサイズ・・身長も変更可能。

 どうやって身長を変えるんだろう?

 よく読んでみると、身長はおろか、バストやヒップも全て変えることが出来るようだった。

 当然ながら、髪の長さ、スタイルも自由自在。

 そして、その顔も・・あなたの理想に・・

 そうか・・組み立てるといってもプリンターだから。その辺は自由に作れるということなのか。


「フィギュアといっても、見た目は普通の人間と何ら変わるところがありません」

 更にその下には、こう書いてあった。

「このフィギュアドールをあなたの思い出の人に変えてみませんか?」


 あなたの思い出の人・・だと?

 僕にそんな人が・・誰か、いるだろうか?

 僕の数少ない女性史を紐解いていく。

 大学時代につき合った彼女。

 会社で知り合い、二年ほど交際した相手。

 計・・三人ほどだ。どちらかと言えば少ない方・・いや、圧倒的に少ないのだろう。

 でも・・

 でもだ・・そんな彼女たちを今更、フィギュアとして蘇らせてどうするんだよ!

 全く! バカらしい。

 僕は、そのページを閉じ、

 いつもの本の通販サイトに戻ろうとした。


 いや、待て・・

 思い出の人・・というか、

 ・・いるじゃないか。

 もし、彼女が現実にいたとしたら・・


 念のため、レビュー欄にも目を通してみることにした。

 レビューの人数は、100人を超えていた。それに、★・・点数が異常に高い。

 

「最高でした・・長年の夢が叶えられました・・ミズキは僕の言うことなら何でも聞いてくれます」23歳、学生。

 長年・・って、年齢が23才じゃねえかよ! ミズキって、フィギュアに名前を付けているんだな。


「私の場合は、数年前、亡くなった妻を組み立てました。今ではお茶の相手をしてくれています」74歳、無職。

 妻を組み立てただと? おかしいんじゃないか?

 74歳か・・年金で買ったのかな? それにしても、男っていうのは何歳になっても女性が・・話す相手が欲しいものなんだな・・


 その他にも、

「思いのほか、精巧に出来ていて、びっくりしました。人間の文明は天井知らずですね(笑)」58歳・自営業。


「私は、これで人生をやり直しました。彼女に『直子』と名付けて、一緒に暮らしています」40代・サラリーマン。


 人生をやり直した・・だと・・フィギュアでか? 通販で買ったものでか?

 このレビュー・・本物だろうな? サクラかもしれない。


 しかし・・

 人生を・・

 失われた過去を取り戻す・・って・・そんなことが可能なのか?


 そう思った次の瞬間には、

 僕の右手はマウスを左クリックしていた。

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