初恋フィギュアドール ~ 哀しみのドールたち
小原ききょう
第1話 通販サイト①
◆通販サイト
ふと気がついたら、ネットで買い物をするのが習慣になっていた。
習慣・・いや、もはや中毒という域に達している。
本屋に出向いて本を探すよりも、ネットで買う方が楽だし、効率的だ。
本屋で本を選ぶとなると、新聞の書評や、帯のPOP、裏表紙のあらすじなど、限られた情報で購入を検討するのだが、ネットだと、レビューを読んでから判断できる。
これはいい、と思ったものをクリックするだけで、翌日には自宅に届く。
しかもネットで買えるのは本ばかりではない。
ゲームや玩具はもちろんのこと、電化製品、日用品・・
最近ではお坊さんまでネットで手配できるようだ。
僕がこれまで気づかなかっただけで、色んな物・・いや、「事」がネットで発注できるようになっている。
家事代行から、宿題代行まで、
そして、友達代行・・友達が多いことを別の知人に見せるために、代行業者を呼んで写真を撮影し、ネットにアップする。
考えてみれば、現代は寂しい時代なのかもしれない。
そんな発注の画面を見ていると、
家族代行サービス・・恋人代行などもある。
恋人代行・・だと? 何をどう代行するって言うんだ! そこに愛はあるのかよ!
愛とか、ご大層なものでなくても、そんな精神的なものを偽りの塊のような業者に任されて、どう満足するっていうんだよ!
僕は30代、まだ独身だ。
家族は遠くに住んでいて、僕はこの小さなボロアパートに一人住まいだ。
仕事は小さな会社で営業と事務を兼任している。
仕事はできる方だと思うが・・女子にモテない。まず服装も野暮ったく、話すのも下手。遊び方も知らないし、その上、上司や同僚との付き合いも悪い。残業でもない限り、真っ直ぐ家に帰る。
モテないせいなのか、どうかはわからないが、僕は一人でいることが好きだ。
要するに僕は孤独な人間・・いや、孤独を愛する人間だと言っても過言ではない。
そんな僕だから、当然、恋人・・つき合ってくれる人なんていない。
3年前、そんな相手がいるにはいたが、将来性のない僕を悲観して去っていった。
その彼女に言われたことがある。
「あなた、そんな性格だから、誰も寄りつかなくなってしまうのよ」
それは、それほどひどい言葉でもない。
彼女のセリフの通り、僕には誰も寄りつかない。
彼女は正直にそう言っただけに過ぎない。
20代の頃にはそんな状況が寂しいと思っていたりはしたが、30歳を過ぎた頃には、その環境が心地いいとさえ感じるようになっていた。
誰とも関わらない方が面倒がなくていい。
人との付き合いがないと、お金も使わなくなる。
・・そして、その分をネット通販に使える。
気がつくと、給料の大半はこれらの通販に消えていた。
夜、12時過ぎ、僕は登録してある通販サイトを眺めていた。
目についた本を二冊ほど買い、
ついでに子供の頃、見たかった洋画のDVDも買う。
たまにはアニメの良作を見ようと、その辺りも検索してみる。
すると、関連したアニメのヒロインのフィギュアなども多く並んでいるのが目についた。
アニメのキャラクターが色んなポーズをとって陳列台に並んでいる。
昔に比べてフィギュアは精巧に出来ている。
そう感心しながら、ネットサーフィンを続ける。
フィギュアのサイズはそのほとんどが1/8サイズだ。
中にはかなり大きいサイズもあるが、等身大はさすがにない。あったとしてもそれは別の目的に供される。
フィギュア・・当然女性の・・更にページを繰っていく。
そこに何か不思議な・・いや、怪しげな商品があった。
「フィギュアプリンター」という名の商品だ。
何だよ、フィギュアプリンターって・・
フィギュアを作成するプリンターという意味か?
パソコンの画面の写真を見て、フィギュアだと思って見ていたが、よく見ると、 それはもう完全に人間の女性に見えた。
たぶんこれは、性欲目的のラブドールか、何かだろうと思った。
これはおそらく成人指定だな・・
ネット社会・・
今では子供もこんなものを見るのか・・いや、見たくなくても目につく・・制限されていても頭のいい子は、どんどん見る・・今はそんな時代だ。
その見出しを見ると、「フィギュアドール」と書かれ、「フィギュアプリンター」という商品名称が書かれてある。
「フィギュアプリンターで、あなたも『フィギュアドール』を作りませんか」
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