第458話 「夜の底が白くなった」⑤

 僕が冗談っぽく返すと、

「そっかなあ・・そういう話って普段から気にしていないと、聞こえないもんだよ」

「勝手に耳に入って来たんだ」僕が頑として返すと、

「鈴木って、人の噂話を深読みしたり、赤の他人に関心を寄せる癖があるからね」と加藤は笑いながら言った。

 確かにそんな部分があることは否めないが、

「いや、それは相手によるだろ」と僕は強く言った。

 いや、今の言い方だと、僕が加藤に関心があるように思われる。ちょっとまずい。

「そっかあ。鈴木は、私に関心があるんだね」

 予想通り、加藤は照れるような嬉しいような声で言った。


「相手は誰なんだ? とは聞かないよ」と僕は言った。

 それは加藤に告白した男の名誉に関わることだ。

 だけど、その結果は知りたかった。加藤はその男子に何と答えたのか。知りたくてしょうがなかった。けれど訊けない。

 けれど、加藤は続けて話した。

「これ、私の勘だけどさ・・」

 加藤はそう前置きして、その告白した男子のことをこう言った。

「その人さあ。純子のことが好きなんだよ」

「えっ、そいつは水沢さんのことを?」

 どうして水沢さんを好きな男が、加藤に告白するという展開になるんだ? 全くもって理解できない。

「そいつ、加藤に好きだって打ち明けたんだろ?」

 僕が訊ねると加藤は「うーん」と考え込むように唸った後、

「その人、告白っていうか、私と友だちになりたい、って言ったんだよ」

「それは『まずは友だちから』というやつだろ」

 それが告白の正攻法だ。ごく普通だ。


 僕がそう言うと、加藤は寂し気な口調で、

「違うよ。その意味の友だちじゃないよ」と小さく言って、その意味するところを説明した。

 加藤と友人になっておけば、水沢さんと近しくなれる。その意図でその男子は加藤に近づいてきたのだ。

 どうして、加藤にそれが分かったのか?

 答えは簡単だ。

 つい最近、そいつは水沢さんに告白していたからだ。その事を加藤は知っていた。

加藤と仲良くしておけば、水沢さんに近づくことができる。一旦は振られたが、水沢さんと友だちになれる可能性はある。

 加藤の勘が当たっていれば、それは不純な告白だ。いや、そもそも告白ですらない。

 水沢さんみたいに心は読めなくても、それくらいは加藤には分かったのだろう。

「やっぱりね、って思ったよ」

 加藤は小さく言って、

「私なんかと、友だちになろうなんて男子はいないよ」

 加藤はいつもの調子で言っているが、それは女の子としては寂しい言葉だ。


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