第459話 「夜の底が白くなった」⑥

「けれど・・」僕は切り出した。

「けれど、何?」加藤は僕の言葉を促した。

「けれど、そいつ、水沢さんに振られて、そのショックを癒すために、本当の意味で加藤と友だちになりたい、そう思ったかもしれないじゃないか」

 つまり、僕が中学時代に石山純子に振られたことで、水沢さんに恋をしたように。

 だが加藤は、

「それは違うよ」と、ぽつんと言った。

 続けて、「その人、私と友だちになりたい、と言った後に、私の返事など待たずに、水沢さんの家にはよく遊びに行ったりするの? とか、どれくらい親しいの? とか訊いてきたりするし、こっちが黙っていたら、水沢さんの好きなタイプを教えて欲しいとか・・」

 そこで加藤の声が詰まった。

 ああ、そいつが誰かは知らないけど、最低の男だ。呆れて物も言えない。

 女の子として、誰かに告白されることは嬉しいと思う。

 だが、少なくともそいつの言葉は一人の女の子を傷つけただけだ。


「私と友だちになれば、純子と親しくなるチャンスができると思ったんだろうね」加藤はそう言った。 

「結局、そいつにはどう返事をしたんだ?」

 僕が訊ねると、加藤は明るくこう言った。

「私には好きな人がいるんだ・・そう返してやったよ」

 電話の向こうにいる加藤・・彼女の笑みが見えるようだった。

「でも、そいつは加藤と友だちになりたい、って言ってきたんだろ?」

 つまり、つき合って欲しいとは言ってなかったんだろ?

 すると加藤は、

「理由もなく男の人と友達になんてなれません・・と言っちゃった」と笑った。

 そうか。

「加藤・・」僕は改めて言った。

「何? 鈴木」

「その好きな人の名前・・加藤の好きな男子の名前を今度、教えてくれるか?」

 僕は勇気を出して言った、すると加藤は少し間を置いて、

「うん、いいよ」と快く応えた。

 その返事を最後に、

「加藤・・電話をくれて、ありがとう」

 僕は礼を言って、電話を終えた。


 陸上の大会・・絶対に見に行くからな。

 何があっても・・

 何が起こっても・・

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