第456話 「夜の底が白くなった」③

 その疑問にはおそらく回答はない。

 僕は、「その話も読書会に出ると思うから後で話すよ」と言った。

「本当!」

 加藤は嬉しそうに言った。

 話しながら、加藤とは話題がどんどん増えていくな・・そう思っていた。


「加藤・・」僕は改めて言った。「今回、残念だったけど、僕は加藤と本の話をしたいんだ」

「私と?」

「ああ、そうだ」僕は一呼吸つき、

「今度、僕と二人で読書会をしないか」

 僕はそんな提案をしてみた。それまで思いつきもしなかったが、加藤と話していると、そんな読書会をしてみたくなった。

「ええっ、鈴木と二人で? 他の部員たちは?・・沙希ちゃんとか」

「二人だけだよ」僕はそう言った。

「読書会って、何をどうする、とか決まりはないんだ。もちろん誰とするかも決まりはない」

 加藤は何と答えるだろうか?


 続けて僕は、「陸上の大会が終わったら、少し時間ができるんだろう? その時に一緒に本の話をしよう。場所は部室を借りてもいいし、加藤と一緒に行った喫茶店でもかまわないよ」

 僕がそう言うと、

「私と一緒に行った喫茶店って、どこの喫茶店のこと?」

 加藤はそう訊いた。

 そう言えば、加藤とは色んな喫茶店に行っている。

 僕が初めて女の子と喫茶店に行った相手も加藤だ。

 あの時、加藤には恋愛ごとの相談をされた。

 加藤が片思いをしていた佐藤についてだ。だがあの後、加藤は佐藤という男のいい加減な性格を知ってしまうことになり、加藤の涙を見ることになった。


 それからも加藤とは、喫茶店に行った。

 あれは波の出る大プールの帰りだ。あの時、加藤には花火大会に誘われた。それは水沢さんと三人で行くというものだった。

 今でもあの日の会話をはっきりと思い出すことができる。

「ねえ、鈴木、花火大会に一緒に行かない?」

 あの時、加藤は僕を花火大会に誘った。

「ええっ、なんで僕なんかと?」驚いた僕は言った。

 最初は水沢さんも一緒だと知らず、加藤と二人きりだと勘違いをしていたのだ。

「あのねえ、世の中には影が薄い男の子の方が、好き・・」

 加藤は、そこまで言って「ち、ちがう・・」と言って訂正し「そんな男の子の方が気を使わなくていい、っていう女の子も大勢いるんだよ」と言い直した。

 加藤、あの時の言葉を僕はきっちり憶えているよ。

「純子が、『鈴木くんと3人で花火を見に行こうよ』って提案したんだよ」加藤は言い訳するように言った。

 その後、冗談ともつかない本気ともつかない口調で、

「私は本当は、鈴木と二人だけの方がよかったんだけどねえ」と残念そうに言った。

 けれど、その後すぐに、「冗談、冗談っ・・今の言葉、冗談だから、取り消しっ」と手をパタパタと振った。「こんなこと言ったら、純子にまた怒られるよ」加藤はそう言って笑った。

 あの日の加藤の言葉・・ずっと憶えているよ。

 

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