第454話 「夜の底が白くなった」①

◆「夜の底が白くなった」


 雪でも降りそうなほどに寒い。まだ冬ではないが、重ね着をした生徒たちが目立つ。

 だが生憎と部室には暖房のような気の利いたものはない。


 土曜日の午後、そんな寒さとは関係なく、いつものように読書会が始まる。

 読書会は月に二度ほどある。我が文芸サークルのメインの行事だ。一応全員参加となっている。

 読書会は持ち回りで、一冊の本を題材にして意見を交換する。その本を基に感想を言ったり、話が脱線したりする。これが読書会の形だ。

 今回の本は、寒い時期に相応しい川端康成の「雪国」だ。これは僕が選んだ本だ。

 文芸サークルに入部してから、最初の頃に読んだ本だから、愛着もあるし、印象的な場面もよく覚えている。

 よく持ち歩いたりしているので、もうボロボロだ。

「雪国」だけではない。読書会で扱ったフィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」もそうだし、夏目漱石の「三四郎」「それから」も同じく手垢に塗れている。

 これがこの数か月で得た僕の文学に関する収穫なのかもしれない。


 速水部長は欠席か? と思ったが、ちゃんといつもの速水さんらしい雰囲気を醸し出しながら上座に座っていた。

 小清水さんが長机の左サイドに座り、その手前に和田くんが座っている。

 そして、右には僕と青山先輩先輩がいる。青山先輩は受験生ということもあって不参加と勝手に思っていたが、出席となった。

 加えて、顧問の池永先生が隅に邪魔にならないようにいる。

 相変わらずのタイトミニで、座ると更にスカートの裾がずり上がり、目のやり場に困るのはいつものことだ。


 残念なのは、今回ゲスト参加する予定だった加藤ゆかりが、欠席となったことだ。

夜、自宅に加藤から電話があった。学校で言えばいいものをわざわざ電話をかけてきた。

 陸上部の予定だから仕方ない。元々そんな予感もしていた。


 先日・・

「兄貴、電話だよ!」

 二階の部屋で受験勉強に勤しんでいると、妹のナミが電話の子機を持ってきた。

 気を使って子機を持ってきてくれたのは良いが、ニヤニヤ意味ありげな笑みを浮かべて、

「彼女さんからだよ」と言った。

「彼女」というのが誰を指すのか分からないが、妹の顔を見ていると何となく推測できた。

 それは加藤ゆかりだった。


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