第449話 最後の問い④

 確かにそうかもしれない。

 加藤に打ち明けた透明化の話は、僕のことだけで、速水さんの透明化のことは一切言っていない。関係ないと言えばそうだろう。

 けれど・・全く関係ないとは言えない。

 この春、僕が透明人間になったと分かった時、僕はすごく孤独だった。

 もうどうしていいか分からなかった。親にも妹にも言えなかった。

 そんな時、図書室で速水さんが話しかけてきた。

「私もそうなのよ」

 速水さんが僕と同じ体質を持っていること知った時、初めて仲間が出来たようで、嬉しかったんだ。

 速水沙織は、「私も初めて、透明になった時、他人の目はあんな感じだったから」とか「鈴木くんよりの人間」と言ってくれたのだ。

 更に速水さんは、「鈴木くんは、私の仲間ね」と言った。

 そんな人と関係がないとは言えないじゃないか。


「そろそろ、沙希さんか和田くんが来るでしょうから、もうこの話は・・」

 速水さんが会話を切ろうとしたので、

「まだ話は終わっていない。もう一つ、あるんだ」と僕は言った。

 速水さんは「これ以上何の話があるの?」という顔をした。

「ついこの前、佐藤に会ったよ」

 僕は駅前通りで佐藤に偶然会った話を切り出した。

「あの顔の面白い人ね」速水さんはそう言った。「顔が面白い佐藤くんがどうかしたの?」と言いたげだ。

「佐藤から聞いたんだ。ヤヨイさんのことを」僕は強く言った。

 一瞬、速水沙織の目が大きく見開かれたが、「どうせ根も葉もない噂話でしょ」と言った。

「噂であってくれればいい。そう思ったよ」

 知りたくない話を速水さんからではなく他の人間から聞くことが辛い。

 僕がそう言うと、速水さんは「何の話を聞いたの?」と小さく言った。

「ヤヨイさんは、刃物を使った傷害事件を起こしているそうじゃないか」と、僕は言った。

 だから、速水さんは危険な場所にいるんだ。


「それも鈴木くんとは関係のない話よ」速水さんは強く返した。

「そうだな、僕とは関係がないのかもしれない」

「ええ、私は何度でも言うわ。私のことにはかまわないで欲しいし、私と鈴木くんとは何の関係もないわ」

 何度も交わされた会話だ。

 速水さんにとっては僕の気持ちは要らぬお節介みたいなものとして捉えられている。


「じゃあ、言おう」

 僕は一呼吸つき、

「君の為じゃない・・僕の為だ」と強く言った。

「鈴木くんのため?」

 速水さんは怪訝な顔をして、眼鏡のブリッジを押さえた。

「そうだ。僕のためだ。だったらかまわないだろう」

 僕がそう言うと、彼女は深く息を吐き、「言っていることの意味が分からないけれど」と前置きし、

「私は鈴木くんに利用されているというわけね」と言った。

「そう思ってくれてもかまわない」僕はそう返した。

 僕は前に進みたいんだ。


 そして、速水沙織の方も一呼吸ついて、

「それが鈴木くんの出した答えというわけね」と言った。

 僕は「そうだ」と頷いた。

 そして、

「一つだけ、教えて欲しい」僕は強く切り出した。

 速水さんは「何なの?」という風に僕の目を見た。

 その顔に僕は言った。

「あいつら・・速水さんの義父のキリヤマと、義姉のヤヨイは、まだ君の家にいるんだな?」

 そう改めて訊いた。

 これが僕の問いだ。

 おそらく速水沙織に対する最後の問いだ。


 速水沙織は声を出さず、黙ってコクリと頷いた。

 この瞬間、僕のとるべき行動は決まった。

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