第407話 青山先輩からの電話③
「なんだか、君、おかしいな。いつもの鈴木くんらしくない」
「えっ、そうですか? 僕はいつも通りですけど」僕は少しうろたえながら言った。
「君はそんなに口数が多い方ではなかっただろう。それなのに、さっきからペラペラとしゃべって、君らしくないよ」
「そんなことないです。青山先輩の考え過ぎです」
やっぱり、青山先輩には隠せないな。
「君は、ワザと本題から外しているんだろう?」
今度は僕の沈黙。
「言いたまえ」青山先輩が促した。
僕は観念した。やはり青山先輩には正直に言うべきだ。僕は深く息を吸い、大きく吐いた。
「・・あの女に会ったんです」
「あの女というと?」
「ヤヨイさんです。キリヤマの娘の・・」
僕が言うと、しばらく沈黙が流れた。
「その女についてなら知っているよ」
青山先輩は知っていて当然だ。青山家なら、過去につき合いのあった速水家のことなら色々と調べていることだろう。
そんな青山先輩には安心して、今日会った出来事を話そうと思ったけれど、
説明過ぎるには困難を極める。
なぜなら、ヤヨイの話には僕や速水さんの透明化が関わってくるからだ。だから言いたくなかった。
キリヤマを殴った時は僕は透明化していたし、ヤヨイが水鉄砲を使って速水さんをからかっていた時、速水さんは透明化していた。
とてもキリヤマを殴ったなんてことを青山先輩には言えない。
僕たちの透明化能力が煩わしい。せっかく青山先輩に相談しようと思っても、透明化能力が足かせになってしまう。
悩みを聞いて欲しいのに上手く話せない。
青山先輩にヤヨイのことを伝えるには、ある程度の「嘘」が必要になる。
「キリヤマと一緒にいたから、間違いなくヤヨイさんだと思います。彼女は僕の知り合いの佐藤という男を殴ったそうです。そう聞きました」
すると、青山先輩は「要するに、ヤヨイは佐藤を殴ったひどい女だ、ということだな」と言った。
「それだけじゃないです。僕と水沢さんが一緒にいる所にも現れました」
「それは何故だ? ヤヨイは鈴木くんのことを知らないはずだし、ましてや水沢さんのことなどまるっきし知らないだろう」
青山先輩には理解し難いのだろう。
「たぶん、同じ場所に池永先生がいたからだと思うんです。先生はキリヤマやヤヨイさんのことも知っていますし」
それ以上は言えない。
「おい、あんただろ。私の父を殴ったのは!」とヤヨイに怒号を浴びせられたことは言えなかった。言えるはずもない。キリヤマを殴った時、僕は透明化していたのだから。
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