第406話 青山先輩からの電話②

 話の内容的に、ナミに聞かれたくなかったので、そのまま廊下に移動した。

「青山先輩、プレゼントって・・」

「水沢さんだよ。私からのささやかなプレゼントだよ」

 青山先輩が言っているのは、「鈴木くんと学祭巡りをするよ」皆の前で宣言しながら、その実、僕と水沢さんを引き合わせたことだ。

 それについてはお礼を言わねばならない。

「ありがとうございます」と僕は言って、「驚きましたけど、青山先輩の気持ちが嬉しかったです」と続けた。

「それで、どうなったんだい? 私にだけ、結果報告をしてくれないか?」

 青山先輩は興味深々だ。

「どうもならなかったですよ。ご期待に添えなくてすみません」

「少しくらい進展はあっただろう?」

 青山先輩はどうしても、僕の恋の成就を見届けたいみたいだ。

「あれから、一緒に将棋観戦をして・・あ、そうそう。水沢さん、神戸高校の女の子と対戦して、見事に勝ちましたよ」

「おお、それは私も見たかったなぁ」

「青山先輩が水沢さんが将棋好きだと教えてくれたおかげですよ」

 と礼を言って、

「青山先輩も将棋が強いらしいじゃないですか」と訊いた。

「え、なぜ、君はそれを知っているのだ?」

「なぜって・・速水部長から聞いたんですよ」

「いつ?」

「いつって・・今日ですけど」

「君は沙織と会っていたのか?」

 それは、「どうしてだ」という強い口調だった。

 青山先輩にしてみれば、水沢さんと僕を引き合わせたはずなのに、僕が速水さんと会っていたことが腑に落ちないのだろう。

「はい、会いました。速水部長はいつもの通り、部室で一人、沈黙読書会をしていましたよ」

「水沢さんはどうなったんだ?」

 僕が「水沢さんは、帰りました」と言うと青山先輩は、

「君は水沢さんと別れて、沙織のいる部室へ行ったのか?」と静かに言った。

 それは「せっかく私が引き合わせたのに」という言い方だった。

「だって、それは、速水部長が心配だから」

 僕はそう言って青山先輩にかまわず言葉を続けた。

「速水部長はいつも一人なんですよ。こんな楽しい学祭をやっている時に、一人で部室で本を読んでいるんですよ。おかしくないですか? 誰だって心配しますよ。声をかけたくなりますよ・・放っておけない、というか・・」

 ダメだ。なぜか声が・・心が空回りをする。これは青山先輩の望む言葉ではないことを知っているからだ。

「・・・」

 青山先輩の沈黙。

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