第401話 恋の行方⑤

「話はだいたい分かったよ」僕はそう言って、

「その後、ヒカルはどうしたんだ?」と訊いた。

 和田くんに何か言ったのか?

「オレはあいつにこう言ったんだ」ヒカルは、そこで一呼吸つき、

「沙希は、隠れたよ・・そう言ったんだ」

 隠れた・・つまり、和田くんの気持ちに応えることなく、殻に閉じ籠ったということか。


 ショックを受けた和田くんにヒカルは追い込むように、「それがどういうことか、分かってやってくれ」と言った。

 それは残酷な言葉だ。

 和田くんは僕と同じように普通の男子だ。女子に告白することも初めてだったのかもしれない。

 その初めての相手に告白をした瞬間、相手の人格が消えたら、どう思うだろう。

 更に別の人格が現れ、

「彼女は隠れたよ」とか言われたら、どんな気持ちがするだろう。

「振られる」よりも深く傷つくかもしれない。絶望のドン底に落ちるかもしれない。少なくとも僕はそうなる。

「残酷だな・・」僕はポツリと言った。それ以外の言葉が出てこなかった。

「仕方ないだろ」ヒカルもポツリと言って、

「オレは、あくまでも沙希の気持ちが最優先なんだ」と続けた。

 そうだ。多重人格者のヒカルもミズキもその本体である小清水沙希のことを第一に考える。小清水さんが嫌がることは決してしない。


「ヒカルは、この話をするために部室に来たんだな」僕が訊ねると、

「ああ」と頷き、「鈴木には伝えておいた方がいいと思ってな」と言った。

「僕が部室にいるって、よく分かったな」

「探したんだ」

 和田くんたちには「将棋部室に行く」とだけ言っておいた。部室に行くとはいってない。

「部室以外に考えつかなかった」ヒカルは、そう言った。

 それもそうか。他に行くところもないし。

「ところで、和田くんは・・どうなった? 帰ったのか?」

 それから、和田くんはどうしたのだろうか。和田くんの寂しさを考えた。

「知らないよ」ヒカルは素っ気なく言った。

 ヒカルにとっては、和田くんの行動は二の次だ。大事なのはあくまでもご主人さまの小清水沙希本体だ。

 するとヒカルは、

「それよりさ、鈴木!」と強く切り出した。「あんた、気づいているんだろ?」

「えっ・・」

「沙希の気持ちに気づいているはずだ」ヒカルは僕の目を見据えて言った。

 答えを失った。

 僕は知っている。

 その返事は小清水さんにしている。

「僕は、水沢さんを好きなんだ。だから、小清水さんが、僕を好きだとしても・・小清水さんを好きになることはない」

 だから、ヒカルに改めて問われてもどうすることもできない。


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