第385話 君だけがいる部屋⑤

 速水さんは、部室に長くいるのに飽きてしまったので、少し校内を散策したそうだ。速水さんは、「校内では、相変わらず下らないことをしているのね」と感想を交えながら語った。

「いや、しょせん高校の行事だからな、それは仕方ない。それよりどこで佐藤に会ったんだ?」と僕が訊くと、

「私、喉が渇いたので・・ほら、渡り廊下の下に自販機があるでしょう。あそこのベンチで少し喉を潤していたのよ」と言った。

 その場所・・さっきまで水沢さんといた場所じゃないか。あのベンチ、少し温かいと思ったら速水さんのお尻の・・いや、そんなはずはないか。

「その場所は、さっきまで僕と水沢さんがいた場所だ」

「あら、道理で影の薄い鈴木くんのお尻、もしくは可憐な水沢さんのお尻の温もりが・・」と言いかけた速水さんの言葉を切り、

「いや、ベンチに座ったのは、僕たちが後だ!」とキッパリと言った。

 速水さんは「あら、そうだったの、残念」と言った後、

「私がティータイムを楽しんでいるところへ、佐藤くんが嬉しそうにやって来たのよ」

「本当に嬉しそうにか?」

「ええ、嬉しそうに・・」速水さんは強く言った。

 速水さん、佐藤を完全にバカにしているよな。

「彼、喫茶室でお茶でもしないか、そう言ってきたのよ」

「で、何と答えたんだ?」

「今まさに、お茶を飲んでいるところなのよ。私の穏やかなお茶の時間を邪魔しないでくれるかしら・・と言ったのよ」

 そうか、佐藤は、速水さんが自販機コーナーで缶のドリンクを飲んでいたところに声をかけたというわけか。

「佐藤に言ったのは、それだけか?」

「その後に、その面白い顔で私に近づかないでちょうだい、と言ってやったわ」

 思わず吹き出しそうになったが、そこは我慢した。

 佐藤は男前の部類に入る男だが、速水さんの視点で見れば面白い顔になるのかもしれない。

「佐藤の奴、怒っただろう」

「ええ、血相を変えて、どこかに消えたわ」

 速水さんはそう言って、

「おそらく、私に振られた腹いせに、他の女の子を引っ掛けに行ったんじゃないかしら?」と続けた。

「速水さん・・それ、当たっているよ」と僕は言った。


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