第351話 決着へ②
部室内では他の対局も行われているが、見物客の関心は、水沢さんと石山純子の対局に注がれている。それは二人の容姿もさることながら、神戸の名門校と我が校の対決という側面もあるのだろう。
以前、小清水さんが、水沢さんにはオーラみたいなものがある、と言っていたが、確かにそう見える。それは水沢さんばかりではない。相手の石山純子にもオーラのようなものが感じられる。
つまり、他の生徒が霞んで見える、ということだ。
そういう意味では、小清水さん曰く「不公平」ということだ。
当の二人は、何も思っていないのかもしれないが、この光景はまさしく高校の対決であるのと同時に・・僕にとっては初恋対決だ。
対決と言っても、どっちが勝ったり負けたりしても、何が変わるわけでもない。
仮に石山純子が勝っても、僕の恋心が変化することはない。
石山純子は終わった恋だ。いくら顔を見て条件反射的にドキドキすると言っても、物語が進展することはない。
物事の勝負と恋愛は関係はないが、別の何かが変わるような気がしていた
将棋とは別に、僕は校庭でのキリヤマとの争いや、その娘のヤヨイのことも考えたりしていた。
速水沙織は、あんな連中と同居しているのか・・
そう思うと、堪らない気持ちになった。速水さんの家がどれほどの大きさか分からないが、あんな奴らと顔を突き合わせて暮らすなんて、少なくとも僕には無理だ。
ああ、速水さんに訊きたい。
君はつらくないのか?
誰かの助けが欲しくはないのか?
だが、速水さんなら、こう言うだろう。
「私の家のことは、鈴木くんにとって他人のことよ。そこへ入り込むなんてしない方がいいわ」
その通りだ。速水沙織はいつだって正しい。反論できる余地はない。
けれど、あの一家を見る限り、普通の家とはレベルが違い過ぎる。
知らない顔をして、放っておけるはずがないじゃないか!
静かな緊張感が漂う中、水沢さんの指が駒を進めた。
数秒後、石山純子の表情が険しくなった。
その様子を見た真山さんが、「うん、良い手だ」と言った。
僕にはさっぱり分からない。
「真山さんは、将棋に詳しいんですか?」と僕が訊くと、
「少しかじった程度だよ」
真山さんはそう答えたが、将棋というものは少しかじったところで分かるものではない。おそらく真山さんも将棋が強いのだろう。
真山さんは続けて、
「最初はね、石山が優勢だったのだよ。水沢さんは石山相手にかなり苦戦していた」と、これまでの状況を説明した。
真山さんに続いて、大人しい小川さんが「無理もないですよね、石山さんは負けたことがないですから」と言った。
小川さんの言葉に榊原さんが「うんうん」と頷き、男子二人が、「俺たちも石山には完敗したからなあ」と言った。
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