第334話 石山純子論②-3
部員たちの話を聞き終えた真山さんは、
「女性としての話と、将棋の勝ち負けは別だよ」と笑った。
二人の美少女は、そんな論争が行われているとは夢にも思わず、お互い顔も合わせず、将棋盤に目を落としている。
「でも、石山は・・あの西崎とつき合っていたんだよな」阿部がポツリと言った。
「西崎」の名は、プール仲間の岡部たちから聞いている。
西崎は石山純子と別れた後、「ちょろい女だ」と言い触れ回った男だ。
そもそも石山純子が誰かに遊ばれ、そして、男に振られるということ自体があり得なく、嘘の世界の出来事のように思えた。
だが、それは振られた男の勝手な願望に過ぎないのかもしれない。他の男も僕と同様にこっぴどく彼女に振られれば、自身が納得する。勝手にそう思っているだけなのだ。
「西崎って、遊び人だろ。あまりいい話は聞かないな」と森山が批判するように言った。
石山純子は、そんな男とつき合うような人には見えなかった。もしそうなら、僕には女性を見る目がないということになる。
すると森山の言葉を受けて阿部が、
「どうせ、西崎の負け惜しみだろ」と言った。
「負け惜しみって?」真山さんが訊いた。
「だって、遊び人のプライドなんじゃないの? 振られたなんて知られたら、格好悪いだろ」阿部がそう言った。
「だよねぇ」と榊原さんが笑った。
阿部は更に、「そもそもつき合ってすらいなかったかもしれないぜ。西崎の奴、完膚なきまでに石山に振られちゃったとか」と笑った。
僕はみんなの想像上の会話を聞いて、「なんだ、そういうことか」と思いつつ、勝手に想像を巡らせても仕方ないと思った。
様々な事実を知っても、僕の終わった恋・・片思いを打ち明け、振られたことだけは曲げようのない事実だ。
「石山に振られた中には、未だに思い続けてる男もいるらしいぜ」と阿部が言った。
すると、茶髪の阿部さんが、
「別にいいんじゃない? そんなの人の勝手でしょ」と言って、
「私なんか、幼稚園の時の男の子のこと、未だに思っているよ」と笑いながら言った。
「榊原さんは特別ですよぉ」と小川さんが笑って「榊原さんは、一度思うと、とことんいっちゃうタイプですから」と言った。
真山さんも、「そうそう、榊原は、こう見えても尽くすタイプだしね」と榊原さんの評価を広げた。
「結論を言えば、誰かのことをずっと思っていてもかまわないということだ」と断言が好きな森山が言った。
「でも、それじゃ、前に進めないんですよ」と僕は皆の会話に割って入った。
すると榊原さんが、僕の方へ体をせり出し、
「なになに? 君は前に進みたいの? それは誰とかなぁ? 水沢さんと?」と、からかうように言った。
「ち、違います!」
と僕は強く否定したが、どうして否定したんだろう?
榊原さんは「何もそんなにムキにならなくても」といった表情をして、その目を将棋観戦に戻した。
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