第333話 石山純子論②-2

「動きや声が小さいから、笑顔の方が印象的になるよね」と榊原さんが言った。

 榊原さんの言葉はその通りだと思った。

 体の動きや声が小さいと、その表情、特に笑顔が前面に押し出される。

 そう言えば、誰かの詩にこんなのがあった。

「ほんの少し首をかしげて微笑む癖を憶えています・・」

 

「得だよねぇ」榊原さんが言った。「私なんて、声が大きいからなあ」

「ですよねえ」と言って、小川さんは溜め息をついた後、

「でも、私、声も小さいし、動きも小さいんですけど、もてませんよ」と言った。

「小川ちゃんの場合は、地味だからねぇ」と榊原さんが言った。

「ええっ、石山さんも地味じゃないですかあ」小川さんが反論した。

 すると、榊原さんが「心配しなくても、小川ちゃんも、それなりに人気があるよ」と小川さんをなだめた。

「『それなりに』って、どういう意味ですかぁ!」小川さんは更にむくれた。

 小川さんの言葉に黙っていた男性陣の阿部が、

「そこが違うんだよな。石山だったら、何の反論もしないと思うぜ」と言った。

「そうだな」と真山さんまで言った。

 少し小川さんが可哀相に思えたが、おそらくそういうことだ。

 阿部は小川さんに言った後、

「石山って、自分の動作が可愛いって、知っていてやってるのか?」と言った。

 すると男性陣のもう一人の森山が、

「あの雰囲気は、自然と出るんだよ。無意識、あるいは石山の本能みたいなものだ」と言った。 

「私なんて、いろんな工夫をしてるのにさ、男は寄って来ないわよ」と榊原さんが羨ましそうに言った。

 いや、榊原さんの場合、香水の匂いを何とかすれば少しは変わると思う。

 けれど、言い寄ってくる男はまた別の人種だろうか。


 石山純子に比べ、水沢さんの場合は、時折、髪に手をやったりする程度で、その動作は清楚そのものだ。顔も無表情に近く、凛としている。

 誰が見ても上品の見本のような女性だと思うし、同性ならば、そうなりたいと憧れるのではないだろうか。

「私は、水沢さんに一票!」榊原さんが言った。

「私もです。水沢さんの方が素敵です」小川さんも言った。小川さんの場合、かなり石山純子に対する反感を持ったみたいだ。

「二人とも言うと、言いづらくなるよ」ということで真山さんも水沢さん派だ。

 だが、男子は違う。

「けれど、恋をするのなら、石山の方だな」欠伸の阿部が言って、

「石山を見ていると、いい詩が書けそうだ」と森山がまた恥ずかしいセリフを言った。

 二人の美少女の評価は、男と女に見事に別れた。

 けれど、僕は決して水沢さんと石山純子を比べたりはしていない。

 僕がしたのは、初恋の上書きだ。石山純子を初恋の人と思いたくなかったのだ。

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