第310話 学祭の土曜日①
◆学祭の土曜日
学祭当日。僕のクラスは、土曜、日曜と、教室を使って喫茶室をする予定だ。去年の僕のクラスと同じだ。
喫茶室と言っても、真似事のようなものだ。大学生の学祭に比べると格段に落ちる。できることが限られているからだ。
出すのはドリップ式コーヒーと紅茶にお菓子くらいだ。他に占いコーナーがある。怪しげな占術部の女の子二人が教室の片隅にテーブルを設けて、いつ来るかもしれないお客さんを待っているというものだ。
喫茶室はクラスの内の何人かが交替で担当する。担当するのは主にクラブに属していない生徒たちが無理無理にさせられる。去年の僕がそうだった。時間帯も短いので終了後、こっそりと帰宅した。
喫茶室はそれほど長い時間はしない。昼前後の数時間だけだ。みんな午後からの軽音部やグリー部にオーケストラ、映研など、その他の催しを見に行くために、そんな時間設定をしてある。
そして、言うまでもなく、誰も文芸サークルの合同読書会には顔を出さない。
それについては、
速水部長曰く、「誰かが来ても困るわよね」だ。
それだったら、わざわざ学祭の日にしなくても、他の日にすればいいんじゃないか、とも思う。日曜日なら相手の高校も休みだ。
だが、青山先輩曰く、「それを言ったらお終いだよ」だ。
最後に、小清水さん曰く、
「相手の神戸高校も、他の高校の文芸部を知る目的以外にも、学祭を見に来たいのですよ」
小清水さんの言葉で、疑問は全て解決だ。和田くんも「そっかあ、そうなんだね」と頷いている。
要するに、神戸高校の文芸部も読書会は口実で、ついでに学祭を見学したいというわけだ。
そして、土曜日当日。
僕は文芸サークルの方の行事が始まれば、旧校舎の部室に行かなければならないが、空いている時間は、喫茶室の手伝いをしている。といってもすることが無い。 ひっそりと洗い物でも手伝おうと思っていたが、洗う物がない。
わが喫茶室はガランとしている。
土曜日は、日曜日の一般公開の予行演習的な位置づけらしいが、それにしてもガランとしている。その理由は、どこも似たようなことをしているからだ。
派手な企画の教室ではお化け屋敷とかやっているようだが、それにはかなりの準備を要する。それに比べると喫茶室が最も手っ取り早く、トラブルも起きない。無難な選択だ。
別に本当の商売ではないのだから、人が来ない方が楽なはずなのだが、やはり寂しいのはイヤだ。
外では、ブラスバンド部の大きな演奏が響き、合唱部のコーラスがどこからともなく流れてくるのと、閑散とした教室が対象的だ。占いコーナーの女の子二人がさっきから欠伸を連発している。
喫茶室としての教室にいる生徒は10人程度だ。
例えば、加藤は茶道部の催しの準備とかで、最初からいないし、速水部長は「読書会の準備があるから」と言って、小清水さんを道連れのように引っ張っていった。要するに逃げたのだ。速水さんは、部室の方が居心地がいいのだろう。
僕も同じように部室へ行こうとしたら、速水部長に眼鏡の奥からキッと睨まれ、
「鈴木くんと和田くんは、ここに居てみなさんのお手伝いをしてなさい」と言わんばかりの顔をされた。さすがに部員全員が逃げるのは不味いと思ったのだろう。
和田くんが「小清水さんと一緒に部室に行きたい」と言いたげに出て行こうとしているので、僕が「部長命令だぞ」と制止した。
いつもいる人間がいない教室。少ない生徒の数。
僕はこの状態が好きかもしれない。というのは、体育会系の生徒たちはほとんどいないし、文化部も音楽系は皆不在だ。
つまり活動系の生徒たちがいないのだ。となると至極風通しがいい。大人しめの生徒しかいない。
和田くんは小清水さんに付いていきたかったのかもしれないが、僕はそうでもなかった。
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