第301話 学園祭の催しについて②
青山先輩の眼力のある瞳に、和田くんは恐縮しながら、
「いや、そういうことじゃないけど、文芸部だったら、教室に小説家の写真を展示したり、本を並べたり、普段、僕たちのやっている活動を報告形式で発表したり・・」と言った。
「和田くん、悪いけど、そんな展示をしても誰も見ないよ。まだ模擬店をやった方がましだ。だが、模擬店は準備が大変だ」と僕が言った。
「そうかなあ」和田くんが納得していない様子をしていると、
小清水さんがニコリと微笑み、
「そうですよねえ。文学の展示なんて誰も見ませんし、模擬店は手間がかかるし、読書会だと、他の高校の文芸部が普段どんな活動をしているのか、勉強になりますよね」と優しい口調で意見を述べた。
「そうだよね! 小清水さんの言う通りだ」
そう強く協調したのは和田くんだ。すごく分かりやすい性格だ。
学園祭の日程は、土曜日曜の二日間だ。学校内だけで催しを執り行う土曜日と、一般公開の日曜日に分けられる。
一般公開の日曜日は、その名の通り誰でも受け入れる。父兄はもちろん、他校の生徒や近所の子供たちも流れ込んでくる。大学の学園祭ほど派手ではないが、それなりに賑わう。
それと学園祭にはもう一つ重大イベントがある。
それは、学園内をぶらりと散策することだ。各クラスの催しや講堂でイベントを見たり、模擬店で飲食したりすること。
去年の僕は、クラブ活動をしていないこともあって、そんなことは一切していない。自分のクラスが喫茶室をすることになったので、それを手伝ったくらいだ。用が終わればさっさと帰宅して、妹のナミに、「兄貴、普段より、帰りが早いじゃん」とからかわれたのを憶えている。
この学園内の散策には、年頃の男女にとって重大な意味を持つ。それは、誰と一緒に学園内を見回るか? だ。もちろん、男同士、女同士がほとんどだろうが、中にはカップルで回る生徒たちも少なくはない。
僕が人混みを嫌いだからと言って、読書会だけの出席というわけにもいかない。
それ以外の時間は、部室で過ごすか、校内を一人で徘徊するかだ。
誰も僕の姿を気には留めないだろうから、途中、眠くなって透明になっても気づかれることはないだろう。むしろ面白いかもしれない。
「鈴木くんは、読書会以外の時間は誰と過ごすのかしら?」
さりげなく話を振ってきたのは、上座にいる速水部長だ。僕が当然、誰かと校内を散策するのが前提で訊いてきた。
まだ先の話だ。今、訊くことはないだろ。だがそうは言わず、
「速水部長、僕は読書会だけの出席でもかまわないか?」と言って、
わざわざ部長に承認を取り付けることもないが、「終わったら帰るよ」と僕は宣言するように言った。
すると和田くんが「ええっ」と驚きの声を上げ、「鈴木くん、それはいくら何でも消極的過ぎるよ」と言った。
なんで和田くんに言われなくちゃならない、と思ったが、
「そういうわけじゃないが」僕は「消極的」という言葉を否定し、和田くんに、
「僕は、賑やかな場所が苦手なだけだよ」と言った。
それは本当だ。体育祭もそうだし、花火大会のような人が大勢の場所は嫌いだった。
花火大会という苦手な場所に赴いたのも、加藤に誘われ、水沢さんがいたからだ。
一人だとまず行かない場所だし、家族間でも避けたい行事だった。
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