第292話 抑制②

 その後、水沢さんの幽霊話を聞いた加藤が部室で言っていた。

「純子の目。あれは幽霊に恋をしている目だよ」

 幽霊・・それは、僕だ。

 水沢さんは僕の心を感じ取ったのだ。

 だから、水沢さんは花火大会の日に言ったのだ。

 ・・私、鈴木くんのこと、好きかもしれない、と。


「答えてくれないのね」水沢さんは悲しそうに言った。

 そんな水沢さんに僕は言った。

「違うよ。僕は幽霊じゃないし、消えたりもしない」僕はそう答えた。つきたくない嘘だ。

 すると水沢さんは、「そう・・」と頷き、

「さっき、鈴木くんの心が、飛び込んできたから、てっきり」と小さく言った。

「えっ、僕の心は何て言っていたの?」訊かないわけにはいかなかった。

 知りたい・・


 水沢さんの言葉を待っていると、

「・・こんな僕なんて、この世界から消えてしまえばいい、って」そう水沢さんは言った。

「え・・」

「だから、あの時の幽霊のような人も鈴木くんかと思ったの」 

 それって、僕が自主透明化しようとして呪文のように唱えたセリフじゃないか。

 時間がずれている。

「でも、間違いだったみたいね」

 水沢さんはそう言って、「そんなこともあるのね」と自分の間違いを自嘲した。

 そして、僕の顔を真っ直ぐに見て、

「でも、よかったわ。お父さんや男子生徒みたいに、イヤらしい心じゃなくて」と優しい笑みを浮かべた。

 助かったあ・・僕だって男子だ。考える時はある。けど、水沢さんの前では、絶対に考えないでいることにする。絶対にだ! 

 でも、考えずにいられるか? 

 そう思いつつ、水沢さんの能力について一つ分かったことがある。

 心を読む能力には、時差のようなものがあること、

 そして、

 水沢さんは、人の最も大きく考えていることを優先して読むのではないだろうか。

 人の心は様々だ。水沢さんは、その中で最も強く思ったことを読むのだと思う。

 例えば、僕が、透明化と、いやらしいことをほぼ同時に考えていた場合、僕の心が、透明化の方に重きを置いていると、透明化のことを読み取ってしまう。そういうことだ。

 そういう意味では助かる。男として助かる!


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