第50話 鈴木家大パニック①

◆鈴木家大パニック!


 今日は、わが妹ナミの誕生日。母にケーキを買ってくるように頼まれていた。

 一応、前回の僕のセレクトの評価が高かったようで、母は父に頼まず、僕に頼んだ。

 というより、父は帰りが遅いので、ナミは待ってられない、という訳だ。


 ナミのバースデイにはいつもケーキを用意して、ささやかながら鈴木家の誕生会をする。それが鈴木家の恒例行事だ。プレゼントはない。一度、母が見当違いの物をナミにプレゼントしてナミの苦情がでてから母はプレゼントはやめている。


 ということで、鈴木家・・僕と母、そして、ナミ、この三人のいつもの家族団欒が訪れる。

 だが、・・これはどういうことだ? 

 リビングに入ると、

 メンバーが一人、多いじゃないか。ケーキが足らないぞ!

 ソファーのナミの席の横に男・・中学生が一人座っている。

 この前、駅で紹介されたナミの彼氏だ。

 おい、別れたんじゃなかったのか?


 そう思って、ナミに目で言った。

「おい、話が違うぞ」あくまでも目で言った。

 すると、ナミは、僕の言わんとすることがわかったように、

「ああ、あの話ね・・この彼、ケンイチがさあ・・別れたくないって言うんだよ」

 ナミ・・僕の心を読んだのか? すごいな。これも兄妹のテレパシーか。

 そんなナミの言葉に、ケンイチと呼ばれた中学生は頭を掻きながら「すんません」と言った。何で謝るのか、よくわからない。僕も「どうも」と答えた。これもよくわからない。


 そんなことことより、今はケーキが減る、ということが言いたい。

 すると、僕が言いたことがわかったように、キッチンの向こうから「ああ、それなら大丈夫よ・・モリグチくんが買ってきてくれているから」と言った。

 お母さんもすごいな。以心伝心というやつか?

 ナミの横の中学生が、また「すんません」と言った。


 ナミの彼氏・・モリグチケンイチ、という名か。森口か、守口だな。あと、健一、賢一くらいが当たりそうだな。ま、どうでもいい。どうせ、また別れた、とか言いそうだ。覚えても仕方ない。


 しばらくすると、母とナミがテーブルに紅茶やケーキを配しだした。

 僕の前に中学生のモリグチくん・・何か、気まずい・・それに、こいつ、体が大きい。高校生みたいだ。


 更に時間が経つと、話の中心はナミ、モリグチくん。そして、母になり、僕はすっかり蚊帳の外に置かれた。ケーキを食べ終わり、紅茶も飲み干すと、することもない。話すこともない。眠い・・勉強部屋に行こうかな・・そう思った時だった。

 しまった!

 すっかり忘れていた。僕は透明化能力、この役にも立たない能力を持つ男だったんだ。

 今更のように思い出した。

 うっかり、眠気を追い払おうとしていた。

 ダメだ!

 この状況、役者が揃いすぎている。ここは学校ではない。逃げ場もない。


 ナミが「兄貴が!」と声を上げたかと思うときょとんとした表情になり、

「ふぇ~ッ」と変な声を上げた。

 モリグチくんが「鈴木!」と言った。お前意外、みんな鈴木だぞ!

 モリグチくんは僕の方を見ながら目を擦っている。こいつ、突然、僕が消えたことをどう思っているんだろう?

「ナミ、どうかしたの?」と普段通りの母。


 そんなことより、今の状況は一体?

 

 僕が透明化しても、

 母には僕が見える・・と思う。

 ナミには半透明に見える・・のはずだ。

 他の奴・・つまり、モリグチくんには透明・・僕が見えないはずだ。

 一瞬で現在の状況を整理した。


 そして、今度は状況を確認する。

 まず、母の顔を見る。

 母は怪訝な顔をして「何か、顔についてる?」と言った。間違いない。母には僕が見えている。

 今度はモリグチくんを見る。念のため凝視する。表情に変化がない。

 ・・彼には僕が見えていない。急に目の前からいなくなったのを怪しんでいるかもしれない。


 一番困ったのは妹のナミだ。

「兄貴が・・」気のせいか、ナミのツインテールがだらんとしているように見える。

 こうなったら、ヤケクソだ!

 僕は思い切って声を出した。

「ナミ、僕がどうかしたのか?」


 僕の声に誰よりも驚いたのは、モリグチくんだった。

 モリグチくんは「ひッ!」と女のような細い声を上げた。

 当然だ。何もないように見える所から声が出たのだから。それにしても今の声は何だ?


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