第15話 片思いの二人
◆片思いの二人
「珍しいことがあるもんだな・・鈴木がクラブに入るなんてな」
登校時、佐藤はそう言った。
佐藤が部活が無い時には、よく下校を一緒にした。家の方角もだいたい一緒だし、佐藤といるのは苦痛ではなかった。
ただ、これからは、一緒に下校する機会は減ることを佐藤に言ったのだ。
何せ、今日から僕は文芸サークルの数少ないメンバーのうちの一人だ。
で・・文芸サークルってどんな活動をするんだ?
「文芸サークルって、確か速水さんがいる部だよな・・あの速水沙織・・」
そう佐藤は僕に訊いたのだ。
速水さんが文芸サークルにいるってよく知っているな。少なくとも僕は知らなかった。それより佐藤は速水さんの存在を・・
佐藤は一組だ。一年の時にでも速水さんと一緒のクラスだったのかな?
「俺、前に鈴木に言わなかったか?」
「何を?」と僕は佐藤に訊ねた。
「俺、速水さんが好きなんだ・・」
佐藤には悪いが、朝から僕はブッと噴き出しそうになった。
そうだっけ? そんな話、佐藤から聞いてたっけ?
僕が忘れていただけなのか? それとも聞き逃していたのか?
「速水さんとは一年の時、一緒のクラスでさ・・」と説明し「俺、あういう知的な女の子、タイプなんだ」と言った。
まあ、眼鏡をかけて・・うーん、あの雰囲気は知的と言えば、そうだな。
それじゃ、文芸サークルに入れば? とも思ったが、既に佐藤は思いっきり体育会系の部に所属している。それに佐藤の頭には「文学の『ぶ』の字もない。
「鈴木は、水沢さんがタイプなんだろ?」と佐藤はふいに言った。
また噴き出しそうになるが抑える。
僕はそんなことを佐藤に言ったか?
「な、何で、そう思うんだ?」
「前に鈴木は水沢さんの話をしていたじゃないか」
「そうだったかな?」
「数学の先生が出した超難問を解いたのは水沢さんだけだったとか・・色々、聞かされたぜ」
うーん。少し思い出した。確かに佐藤にはそう言った記憶がある。
でも、好き・・片思いだとは言っていない。
まあいい。佐藤にそう言われても気にはしない。
だって、水沢純子のことが好き・・あるいは、タイプだと言っている男子は大勢いる。僕はその内の一人に過ぎない。
「お互い、頑張ろうな」
佐藤はそう言って僕の肩を叩き、一組の教室に向かった。
何を頑張ると言うんだ?
佐藤と別れて影の薄い僕は二組の教室の席に着く。
窓際の左の席には加藤ゆかり、その前には水沢純子・・
水沢さんとは今は同じクラスで、席も近いけれど、3年になれば、同じクラスになるとは限らない。それに、お互いに受験勉強で忙しくなる。僕の方はそうではなくても、水沢さんの方は・・
ああ、知りたい・・水沢さんが、今、何を考えているのかを。
一時間目の授業が始まる前に、左の加藤に「今日は消えないでよ」と笑顔で言われ、速水さんにペンで背中を小突かれ「今日から部活・・いえ、サークル活動よ」と言われた。
右隣の男子、佐々木が「鈴木、お前、なんか最近、影が濃いな」と言われる始末だ。影が濃いってどんなんだよ?
そして、水沢さんはといえば・・
もう勉強する体制になっている。他の女子とは一線を画したイメージがある。
斜め後ろからでは、水沢さんのポニーテールしか見えないが、またそれがいいのかもしれない。だって、真正面ではまともに目も合わせられない。だから、この角度がいい。
そんなことを考えていると、左の加藤ゆかりが「鈴木、今日も、また散歩するの?」と訊いてきた。
この前、あんな言い訳をした以上は「うん」と頷くしかない。
それでもまだ納得していないような表情を見せたあと「あれから、純子、鈴木のことを話してたよ」と言った。
えっ!
それは、その話は、ちゃんと聞いておかないと・・僕がそう思ってると、加藤の前の水沢さんが「ちょっと、ゆかり、変なこと言わないでよ」と制した。
「別にいいじゃん。純子が『鈴木くんって、面白いわね』って言ってたぐらい」
そう加藤は言った。
「ちょっと、ゆかりっ」水沢さんが再び加藤を抑えた。
授業が始まり、そんな他愛もないやり取りは終わった。
僕が面白い・・?
僕、何か面白いこと言ったっけ?
と、思いながら僕はカフェインで満たされたスッキリした頭で授業に挑んだ。
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