第7話 小生意気な妹ナミ

◆小生意気な妹ナミ


「ねえねえ、兄貴よお・・」

 リビングのソファーでジャージー姿でごろごろしながら雑誌を読んでいた妹のナミが話しかけてきた。

「私、本も読んでないし、勉強もあんまししてないんだけど、最近、目が悪くなってきてるんだよねえ」

 急に思いついたように何を言い出すんだよ。


「寝ながら雑誌を読んでるじゃないか」と僕が言うと、

「これはそんなに目に悪くないんだよねえ」と雑誌の読んでいたところを見せる。

 なるほど、写真ばかりだ。目ではなく、頭が更に悪くなりそうだ。

 妹のナミは中学生二年。

 中肉中背、容姿は・・ある程度淡麗。

 男子にはモテるらしい・・と妹自身から聞いたことがある。

 それに、スポーツ万能。子供の頃、プロレスごっこで負けた残念な思い出がある。


 けれど・・そろそろ、僕と同じようにちょっとは勉強しないとダメだろ。


「これさあ、私が目の悪いのって、兄貴からの遺伝じゃないの?」

「遺伝は兄弟からするもんじゃないだろ!」

「へえっ、そうなの?」

 本当に知らないのか? わざと言っているのか?

 僕たちの会話を黙って聞いていた母が、

「ナミもバカみたいなこと言ってないで、お兄ちゃんを見習って勉強しなさい」とナミを戒める。

「はいは~い」と言って雑誌を閉じる。ツインテールの髪が揺れる。

 雑誌を閉じたのはいいが、今度はテーブルのスナック菓子をかじりだした。

「あ、これ、美味しいよ。お母さん、これ、又、買っといてよね」

 むしゃむしゃ頬張りながら、菓子のカスを飛ばしながら母に言った。自分の小遣いで買いに行けよ。


 全く、兄の僕が透明化に悩んでいたことも知らないで・・

 お前の兄は眠いのを我慢すると透明になるんだぞ!

 !

 もしかして・・僕が透明化している時、母には僕が見えていた。同じく、速水沙織にも・・すると、妹のナミはどうなんだ? 僕と血が繋がっている血族だぞ。

 母と言う親族のカテゴリーの人間に僕が見えるのなら、ナミにも。 


 そして、

「でも、私、運動神経はいいから・・これってお父さんの方の遺伝だよねえ・・兄貴、鈍臭いし」とナミは失礼な話を連発する。

 そして否定できない兄は反論もしない。

 もしかすると、

 父→ナミ

 母→僕・・

 遺伝繋がりで、母には見えるのかもしれないな。母の音痴は有名だ。

 同じく、僕も。父は大学在籍中にグリークラブに入っていたようで、歌は上手いし、ナミも音楽の点数は高い。

 いや、でも、さっき目が悪いと言っていたよな・・僕も悪いが、母は眼鏡いらずだ。父は眼鏡が手放せない。

 わからない・・それが結論だ。


「あ、そうそう。兄貴さあ。高校生活って、面白い?」

 ナミはスナック菓子をコーラで流し込みむと、そう言った。

「なんだ。急に」

「だってさあ。兄貴さあ、もう二年なのに、部活もせずにさあ・・勉強ばっかりじゃん」

 ずいぶんと語尾に「さあ」が多い奴だな。

「ナミも勉強はした方がいいわよ」とキッチンで洗いものをしている母が間に入る。

「お母さん、違うんだよ。兄貴の場合は、もっと他に、っていうのが無いんだよ」

「他って何だ?」

「例えば、恋とかさあ」

 恋ならしてる。平均的な人よりもずっと重くしてる。

 妹の言葉に僕は、

「恋は・・してても、誰かに言ったりしないんだ」と重々しく答えた。


「そんなの変なの。私の場合はさあ、クラスのかっこいい子に『好き』って言ったよ」

 母が「あら、ナミ、お母さん、そんな話、初めて聞いたわ」と皿を拭きながら言った。

 母にとってはちょっと大ごとなのかもしれない。おそらく父にも。


「それで?」

と僕がナミの次の言葉を待つ。おそらく、母も。

「向こうも私のこと、好きだって言ってんの・・私、つき合おうと思ってるんだけど」

「ちょっと、ナミ!」母が慌てて言う。

 おそらく言葉も用意していないのだろう。まだ中学二年だしな。

 ここは、僕が、

「そういうのは恋とは言わないんだ」

「じゃあ、どんなのが恋だっていうの?」すぐに反論される。

「恋っていうのは、もっと秘めたるものなんだ」

「へえっ!・・隠さないといけないものだんだ」

 ちょっと違ったかな。


「ナミのは・・軽い!」

 たぶん、僕の恋が重すぎるだけだ。それはわかっている。僕のは重い片思いだ。


「で・・兄貴は好きな子、いるの?」

 そう突然ナミに話を振られた。

「い、いないよ」

 いるけど・・

「やっぱり、つまんないじゃん」

 ナミは話を中断し、再び、スナック菓子を口に放り込み始めた。

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