第8話 水沢純子

◆水沢純子


 好きになるなんて理由はいらない・・

 そう誰かが言った名言めいた言葉もある。

 けれど、僕が水沢純子に恋をしたのには理由はあった・・ような気がする。

 

 その容姿・・特に特徴はない。あるとすれば、ポニーテールくらいだ。

 けれどそれも、ある日突然、違う髪型になれば、彼女だと気づかないかもしれない。


 数えたことはないが、クラスの男子の内、10人は彼女のことが好きだと言っていたし、実際に告白して・・ふられた奴もいると聞いた。

 何故、水沢純子がモテるのか? よくわからない。


 可愛いのか? 綺麗なのか? 好みのタイプなのかさえもわからない。

 特に顔にこれといった特徴がない。目が大きいとか、鼻が高いとかもないし、派手すぎず地味でもない。


 僕の後ろの速水沙織のように眼鏡をかけていたり、左の席の加藤ゆかりのようにスポーツ万能女子のオーラを放っていたり、というわけでもない。

 だが学業の成績はトップだ。

 教師に「この問題が正解だったのは水沢だけだ」と言われることがよくある。


 しかし、ただ学校の成績がいいからといって好きになったりはしない。そんな理由なら、いつも成績二位の速水沙織にも恋をしてしまうことになる。

 

 それに、加藤ゆかりほどまではいかないが、スポーツもそれなりにできる。

 美術や、音楽の点も高いと聞く。

 つまり、水沢純子には目立つような大きな欠点がない。

 

 いったい僕は水沢純子の何を見ているのだろう?


 幽霊っぽい・・

 水沢純子はそんな透明な存在だった。(僕のような透明人間ではないことは確かだ)

 彼女を頭の中に浮かべると、

 なぜか、彼女と手をつなぎたくなる。

手をつないで、草原を駆けたくなる。

 映画や遊園地に行ったりするのではなく、そんな自然と戯れる遊びをしてみたくなる。

 

 けれど、そんなことができない僕は、

 ひたすら夢想するしかない。


 全く、僕が妹のような大らかな?性格なら、すぐに告白して・・僕の場合はあっけなくふられて、またいつもの受験勉強に精をだせるのに。


 いつまでも告白しないでいると、思いは募る一方だ。

 思いだけが先走りをして、実像を追い越してしまいそうだ。


 水沢純子には誰か、好きな人がいるのだろうか? 

 もしくは誰かとつき合っていたりするのだろうか?

 知りたい。

 それは、今の僕の体を透明化できる僕の能力があれば知ることができるのだろうか?

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