第4話 帰宅
◆帰宅
自宅まで、徒歩20分、つくづく電車通学でなくてよかったと思う。透明だったら改札はどうなることやら。
けれど、問題はここからだ。
家に帰っても母に見えなかったらどうする?
声は出るだろうから・・
念のため「あああ・・」と出してみる。ちゃんと声は出る!
母に言って病院に連れて行ってもらうべきか、それとも一人で行くべきか・・
いやいや・・
僕は頭を振った。
頭が変だと思われるし、それに、透明のままだったら、しかるべきところに通報されるだろう、とそう思った。怪しい組織まで現れ、人体実験なんかされたらたまったものではない。
その時、
「ちょっと君!」
振り返るとただの中年男だった。
え?・・僕が見えてるの?
「財布落としたよ。これ、君のだろ?」
サラリーマン風の中年男は僕の財布を差し出した。
さっき慌てて尻のポケットに突っ込んだままだったから、抜け落ちたのだ。
「すみません。ありがとうございます!」
僕は深く感謝した。
腰を折りながら、またさっきとは違う涙が溢れていた。
元に戻っている!
僕は透明じゃない!
僕は嬉しくて思わず、財布を拾ってくれた男に抱きつきそうになる。
男は「礼なんていいよ」と言って先を急いでいった。
男が去った後、念のため、両手を広げて、見る。透明じゃない!
今度は太陽にかざしてみる。更に喜び倍増だ。
生きている、そんな実感が沸いてくる。
もう帰ろう。家でいつも通り、母の手料理を食べ、風呂に浸かり、いつものように勉強をしよう。
そして、明日は・・
しかし、また今日のようなことが・・いや、今は考えないでおこう。
家に帰ると、母が「何? こんな早い時間に・・熱でもあるの?」と訊かれ「ちょっと、気分が悪くなかったから、先生に言って早退させてもらった」と答えた。
不可抗力の嘘だ。母には嘘のつきっぱなしだ。
「しばらく部屋で寝る」と言って勉強部屋に入った。
そして、本当に眠り込んでしまった。
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