第8話 赤

 あたしはカラスへゼロ距離で言った。

「これはあたしの青春だ。だから全部あたしが背負うから、この罪も思い出にしていいよ」

 咥え煙草が邪魔をする、だから、触れるだけのキス。初めて触れた唇なのに、煙草のせいか、あたしと似たような味がして、不思議と嫌じゃなかった。義父とは嫌々で、死にたくなったのに、どうしてだろう。

「プラトニックかと思ってた、」

 カラスは言う。確かに、ああいう一方的に消費させられる行為は好きじゃなかった。所詮あたしは喰い物にされる側だから。

「今でもあたしに欲情する?」

「正直、アズサはいい女だと思うよ」

「それはどうも」

 それでも手を出さなかったのは、カラスがあたしの事を気遣ってくれていたからなんだろう。そこだけは、感謝している。でも、これでお別れ、おしまい。カラスは旅立つ、渡り鳥、もちろん比喩表現の方だけど。

「迎えに来るよ、絶対。今度は別な形で会えることを信じて欲しい」

 あたしの思い出は火に焼べた。カラスの思い出はあたしが大事に抱えている。そういう約束になってしまった。だから、あたしはカラスの思い出を取り置きしとかなきゃいけないようだ。

「束縛系は嫌われるよ」

「アズサ以外に嫌われたところで今更なにも思わないさ」

「わぁ、盲目。コワい男」

 しょうがないから笑ってやった。カラスの煙草はフィルターに届いたようだ、あの赤色が静かに消えた。カラスは吸殻を踏みつける。あたしも自分の煙草を一気に喫い込み、噎せて、煙に涙がぽろぽろ零れて、これは煙草の煙に泣いてるんですって、言い訳の意。――別に、サヨナラを惜しんでいるわけではない。


(続く)

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