第5話 叛意、鉄パイプを片手に。

 それからずっと、カラスといっしょに見えない敵と戦ってきた。痛みを感じると生きている実感が湧く、痛みを与えていると生きていける快感が湧く。こんなのはきっと間違っている。カラスが踏んでいる足元に、一週間前の朝刊が敷いてあった。ゴミ溜めから零れ落ちた新聞だろうか、地方記事に連続暴行事件の容疑者はいまだ捕まっていないと。――もしかしたら、あたし達がお縄になったらこういう媒体に載ってしまうのかもしれない。大学進学が決まっているカラスにとっては避けたい事だろう。

「初めからわかっていたさ、あたしだって、」

 そもそもカラスとは類友であって同一ではない。カラスとあたしを比べたとして、あたしのほうがより惨めで最悪で最低な出来栄えだったんだ。

「中古の女で、学歴ないし、未来がないし、犯罪者だし、メンヘラだし、」

 カラスは馬鹿なフリがうまいだけで、本当は賢い鳥なのだ。ツバメのあたしと違って世渡りが上手で、狡猾で雑食で。ツバメの敵である。

「だから、カラスに抵抗しようと思う」

 手に持っている鉄パイプへ力を込める。これで最後にしようと思う。勝っても負けてもカラスはもうあたしを思い出にする気、満々だし。

「バカな女だ」

 今更じみた暴言へあたしは静かに笑ってやった。宣言なんて、言うまでもないセリフだっただろうか。カラスも本気の顔であたしの顔を睨みつける。ポイ捨てした吸い殻に、興味はわかない。煙草なんて、吸っている時にしか興味がない。吸い殻はゴミである、ゴミは興味になりえない。だからあたしは、ツバメの吸い殻だとしても足掻くしか残されていないのだ。


(続く)

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