その3
彼女の発言は、周囲で聞き耳を立てている令嬢達に対して失礼
しかし、最も
ローザリアの名前を聞いただけで『薔薇姫』と理解するなんて、
──いいえ。名前を聞いてというより、わたくしの顔を見て判断したような……。
とはいえ、カディオと
彼らのこのちぐはぐさは、一体何なのだろう。
全くの平民であるはずなのに特待生として入学できるほどの学力を保有し、また貴族の常識にも詳しいルーティエと。
何より、彼らの印象は全く逆であるはずなのに、同一の空気を感じるのはなぜなのだろう。
「──せっかくですし、教室までご案内しますよ」
空気を変えるようなレンヴィルドの一声に従い、ローザリア達はようやく校舎に入った。
印象をよくするため、すかさず礼を言う。
「レンヴィルド殿下のお
「殿下は必要ないですよ、ローザリア嬢。けれど、少々意外でした。アレイシス
「義弟は、殿下にご
頬に手を
王族らしい気品に満ちた雰囲気が、
「失礼しました。ローザリア嬢は、ちゃんとお
お義姉さん、という言い方が
王族であることとは別に、きっといい兄弟関係を築いているのだろう。
「レンヴィルド様も、いい弟さんなのでしょうね。あの子にも見習ってほしいくらいです」
品行方正であれとは言わないが、
「アレイシス殿は、おそらく
レンヴィルドの視線が、
やや
ローザリアは意外に思って目を
「こうして、心から心配してくれる義姉もいることですしね」
いたずらっぽく付け加える彼には、
それでも、温かな心遣いが嬉しい。
「……ありがとうございます。わたくしもアレイシスとの
「はい、私もそう思いますよ」
レンヴィルドの笑顔に、ローザリアは何の
開け放たれた
葉先が陽光を
青い空も緑の色も箱庭にいる時と少しも変わらないはずなのに、何もかもが違って見える。
──やっぱりわたくし、勇気を出してよかった。
窓の向こうの景色を
外の世界は何もかもが
胸を
知らず足を止めていたローザリアを、レンヴィルドが見つめていた。微笑み、再び歩き出す。
それからしばらく進むと、ようやく教室が見えてきた。一学年に二クラスしかないため
「──義姉さん」
聞き慣れた声が耳を打つ。
教室の奥から近付いて来たのは、
彼はレスティリア学園には
銀というより灰色に近い
アレイシスはレンヴィルドにそつなく
「……久しぶり、義姉さん」
「久しぶりね、アレイシス。あなた、また背が伸びたのではない? それに制服をあまり
笑いかけると、アレイシスの近寄りがたい雰囲気がほんの少し
「別に、そんなのどうだっていいだろ。それより手紙で聞いてはいたけど……義姉さん、学園に編入するなんてどういうつもりだよ」
非難するような
「心配しなくても、迷惑はかけないわ」
「そういうことじゃねぇ。何が目的か聞いてんだ」
「アレイシス、
「繁華街にちょこちょこ顔出してるからな。って、そうじゃなくて」
話が
「……少し、場所を変えよう」
確かに衆目があれば、本音でのやり取りは難しいだろう。特に意中の女性の前であっては。
幸い始業時刻まで、まだ時間がある。心配そうに見守るレンヴィルドに小さく
連れられてきたのは歴史学の資料室だった。
教室と同じ校舎だというのに人の気配はなく、
資料室の
「義姉さん、一体何考えてんだよ。危険だから外には出ないって、リジクお
情けなく下がった
「アレイシスったら、大きくなっても泣き虫は相変わらずなのね」
「当たり前だろ! 何年
「ありがとう。でも、体を動かす授業があるわけではないし、危険は少ないわ」
「『
どうやら彼だけは、『薔薇姫』が周囲に
ローザリアは目を瞬かせて小首を
「わたくし?」
「
「あら、そちらの心配だったの?」
ローザリアは察しのいい方だが、アレイシスの
「あなたって昔から過保護よね。そもそも
「比喩じゃない。義姉さんは、俺が今まで出会ってきた誰よりも綺麗で、
「おかしな
それなりに
長年不自由な
ローザリアは口角を上げると、意地悪げに目を細めた。
「けれど、美しさよりも心を揺さぶるものに出会えたのでしょう?」
人は、美しさだけに心を
家族だけの場になると、アレイシスは
「ルーティエ様が好きなのね」
「……うん」
長身で
「好きすぎて、わたくしやお祖父様のことなんて頭から
「
「ものには限度があるでしょう。あなたときたら、長期休みにまで顔を出さないのだもの」
「う、ごめん」
義弟は大きな体を縮めて頭を掻いた。
「あまりに顔を出さないから何かあったのではと心配になって、ついミリアにあなたの身辺関係を
「それは、
「ひどいわ。わたくしがやりすぎだと言いたいの?」
「あー、すみませんでした」
十分に八つ当たりは済んだので、義弟のこれまでの不義理は水に流すことにした。
「
「分かってる。そんなところも義姉さんみたいで、いいと思ってる」
「あら。わたくしには遠く及ばないわよ」
ローザリアは、不敵な
「ライバルは多いわ。わたくしに構う
「ライバルにフォルセ様がいらっしゃるから、不安なの? 確かに強敵だけれど、わたくしにできることがあるなら協力するわ」
昔は、フォルセの
けれど、毎日
「フォルセ兄上は、
「手紙でお伝えしたけれど、さほど興味もないのではないかしら? あなたも知っての通り、あの方はルーティエ様にご
サラリと今後の予定について打ち明けると、アレイシスは目を丸くした。
「え? 婚約破棄? フォルセ兄上と? え、ちょっと待って。本気で意味が分からない」
「そうよね。あなたも子どもの
「いやそれは将来
フォルセが訪問している間だけ素直な義弟を演じていたことには気付いていたが、呼び方にまで気を
「えぇと……婚約破棄? そういえば、何が目的で学園に来たのか、まだ聞いてなかった」
アレイシスは顔を
頭のいい彼のことだ。点と点が繋がって、今
ローザリアは義弟の不安を
「もちろん、好きな
「それでは、同級生としてこれからもよろしくね」
ローザリアは笑みを深めると、
ずっと
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