その2
半ば
もしかしたら、自由にしてやりたい
リジクは
レスティリア学園の所在地は王都内で、自宅から一刻もかからない
そしてついに、ローザリアは侯爵邸の門から
初めての外の世界だが、
今日は記念すべき、学園編入初日。
制服は、品のいい
ワンポイントのネクタイは
「ローズ様、よくお似合いです」
「そうかしら? わたくしはこの通り目元がきついから、こういった
大きな姿見の前でスカートを押さえながらクルリと回ってみせると、ミリアが断固とした口調で否定した。
「何をおっしゃいますか! ローズ様は清楚さと高貴さの中にも
「よく分からないけれど、結局似合っていないという結論でいいのかしら?」
部屋の
「グレディオール?」
「命令ならば、ローザリア様を傷付けると承知の上で本心をさらす
「よく分かったわ、もう結構よ」
ローザリアに
本来ならば
おかげであまりの
貴族の子どもばかりが集まるこのレスティリア学園でも、『
「ともかく、早くカディオ様にお会いしたいわ。落とすためにも」
「
「そうね。まずは王弟殿下にご
王族の護衛はほとんど付きっきりだ。
学生のように放課後もないし、食事
同じく学生であるローザリアにできるのは、王弟殿下とお近付きになるくらい。カディオの
「殿下と同じクラスなら、機会もすぐに
「問題はそこではない気もいたします。最近折り合いが悪いアレイシス様と、例の特待生の少女と同じクラスなんて、本当に
「心配することなんてあるかしら? わたくしは、フォルセ様もアレイシスも
『薔薇姫』という問題を
ほとんど顔を見せなくなったのは、去年の春
アレイシスにしてもそうだ。
一族の直系がローザリアしかいなかったために、当主となるため
昔の彼はよく、外出のできない
アレイシスは入学当初、週に一度の休日のたびに帰省していた。ローザリアとリジクの顔を見るためなら苦にならないと言って。なのに今では、長期
その原因が彼らの口の
彼女は
「……その特待生の少女に、本当に
弱々しい
「あったら
「ローズ様は物分かりがよすぎます!」
「そうかしら?
特待生の少女には、
一人の女性に三人の男。彼らの関係はまともに成立しているのだろうかと、むしろそちらの方が気になってしまう。
その程度の感想しか
窓の外、朝日に
赤レンガでできた歴史ある
ずっと仕方がないと
これも
「ミリア。人生を捨てていたのは、昨日までのわたくしです。今はやりたいことが、いくらでもあるのですから」
東向きの窓から差し込む
自信に満ち
ミリアは感動と共に自らの主を見つめたが、宣言の意味を
「やりたいことって、どうせ
「街で話題になっている食べ物や定番の甘味を分かりやすくまとめた資料作り、
そこそこ深刻な
「ローザリア様、そろそろ登校なさいませんと授業に
「あら、もうそんな時間なのね」
グレディオールから通学
「では、行ってくるわ」
「くれぐれも、お気を付けて」
整然とした
うららかな季節を
ダイアンサスの小さな花に根元を
けれどローザリアは、咲き乱れる花よりも注目を集めていた。
五月の半ばという
「ごきげんよう、王弟殿下」
声をかけて礼をとると、すらりと背の高い青年が
太陽のように
レンヴィルド・ヴァールへルム・レスティリア王弟殿下。背後にはカディオも
レンヴィルドはローザリアを認めると、温かみのある笑みを
「おはようございます。あなたが今日から編入されるという、ローザリア・セルトフェル
ということは、リジクに無理を言って編入を実現させたことも聞いているのだろう。ローザリアはさらに深く頭を下げた。
「『
長い歴史上、数名ほどの『薔薇姫』が
幼少時にフォルセと婚約を結んだのも、王家の後押しがあったからこそ。
ローザリアは彼らの
けれどレンヴィルドは、あくまで笑顔のまま首を振る。
「私はどんな理由であれ、たった一人の人間に全てを背負わせるような解決法は
ローザリアが『薔薇姫』であると承知しているにもかかわらず、王弟
「ありがたきお言葉にございます、王弟殿下」
「今日から私達は学友となります。どうぞ気軽に、レンヴィルドと」
「では、わたくしのことはぜひローザリアと」
微笑みを
目が合うと、彼もすぐに笑顔を返してくれた。
「わたくしのことを覚えていらっしゃいますか、カディオ様?」
「はい。その節は大変お世話になりました」
ローザリア達の親しげな会話に、レンヴィルドは目を
カディオが
自らの護衛の失敗に
彼らの信頼関係を見ていると、数ヶ月前から
カディオは照れくさそうな笑顔を、今度はローザリアに向けた。
「でも、よかったです。お礼をしようにも、自宅に何か送り付けたら迷惑になるだけですし、どうしようと思っていました。編入なさったならいつでも会えるので、何とかなりますね」
「まぁ、本当にお気持ちだけで十分ですのに。カディオ様はとても
「いえ、そういうわけでは。そうだ、よければ今度、俺の買い物に付き合ってくれませんか。もしローザリア様の気に入るものがあれば、俺の方から
思いがけない、まるで
それでもお近付きになる絶好の機会を
「レンヴィルド様、カディオさん! おはようございます!」
振り返ると、
「おや。おはよう、ルーティエ
「おはようございます。今日もお元気ですね、ルーティエさん」
「はい! 元気が取り
昇降口前で交わされる
──彼女が、例の特待生なのね。
名前を聞かずともそうだろうと思っていた。
貴族
女性側の意見として言わせてもらえるならば、
だからこそ、さりげなくレンヴィルドの
本人はこれに気付いていないのか、はたまた気付いた上でこの態度なのか。だとしたら、かなりの食わせ者かもしれない。
冷静に周囲を観察しつつ、ローザリアは
「カディオ様、そちらの方は?」
「あぁ。彼女はルーティエさんと言いまして、この学園
カディオは説明中も、少女へ親しげな笑みを向けたままだ。今朝までは何とも思っていなかったルーティエに対し、急速に危機感が芽生える。
華やかな過去の女性
けれど相手が平民では、高位貴族からの
特に、天真爛漫に見える
ルーティエの
「そうなのですか。ルーティエ様、わたくしはローザリア・セルトフェルと申します。仲良くしていただけると
ようやくルーティエの視線がこちらに向けられた。
金色に赤の交じったストロベリーブロンドに、パッチリと大きい
顔立ちは可憐で、一見すると深窓の令嬢にしか見えない。けれどひと度動き出せば、教育の行き届いた令嬢との差は歴然だ。所作の一つ一つに気配りが足りない。
なのに溌剌とした表情や仕草から目を
彼女は、なぜか
「おかしいな。あのゲーム、こんなに早く『薔薇姫』が出てくる設定だった……?」
口中での
ローザリアが
「ごめんなさい、あんまり
「ええ。分からないことばかりで、ご迷惑をおかけするかもしれないけれど」
「こちらこそ! 平民なので、不快にさせることもあるかもしれません」
当たり
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