テストテストテスト232

―嘘、美味しっ―


―ま、驚く事じゃあない。ただの肉入り塩スープ。こんなの普通だろ?―


―普通じゃないから言ってます! 人間族が、こんな美味しいものを作るなんて―


―いやいや、普通だよ?―


 食レポなら、最優秀な反応を見せる味見役のナルナイに、一徹は力なく笑う。

 評価したナルナイはじっと一徹を見つめて気落ちした。


―どーしたの?―


―前提条件が崩れていく。「男子厨房に入らない」というのが魔族の男子の掟に置いて、人間族は……―


―ハハッ。待っただよ。この国のレストランに置いて、「男子厨房に入らず」かな?―


―え?―


―そんな訳ないはず。料理。母親。女性。そういうイメージがある中で、意外とプロは男が多い。頑固一徹じゃないけど、味に拘り固執するのは意外と男の方さ。職人気質なんだろが、こんなのが一旦ストーカーに回ったら大変だね―


―なるほど、じゃあ貴方は偏愛者なのね―


―否定はしねぇよ?― 


―ふっ……フフッ♪―


―ポイントは3つだ。大振りの肉を使う事、万遍なく筋を断ち切ること、度の強い酒に沈めること。暫く置いてからいい塩梅の調味料入れ煮込みゃぁ良い肴になる。ねっ? 簡単でしょう?―


 シャルティエが目の前でラーブを奪い取って見せたことで、失恋に伏せたナルナイのリカバリーをするのが一徹の本日の仕事だった。


 アルシオーネが「親友を慰めるの手伝って」と言ってきたものの、何をすべきか分からない一徹が選んだのは、とにかくなにか作業すること。

 それがこのお料理教室開催のキッカケだった。


―確かにただの肉入り塩スープにゃ違いねぇ。でも脂部分はトロトロ。肉はホロホロ。この食感はなかなか出ないだろ。やるじゃねぇか師匠! ウメェ! おかわりを持……アテっ!?―


 ラーブ向け花嫁修業に勤しむナルナイと違って、アルシオーネの感想は気楽な物。

 幾ら女の子とは言え、一徹は遠慮せず頭を叩いた。


―強火で煮ると固くなる。弱火で温め、ポコポコ泡が出始めた酒面より、辛うじて肉が浸るくらいで調理すると良い―


―だから、火が通りながら硬すぎずトロトロになると?―


―虫の集めた蜜とか、砂糖とかを大量に入れられたなら甘辛くなったり味に深みが増したりもする。肉も柔らかくするんだが―


―砂糖は高級品です―


―だな。だから酒につけたんだ。これだって肉を柔らかくしてくれるからね―


―あぁ、そう言えばそんなことも聞いたような気が―


―因みに、『だから酒なんざ飲むな』って言う奴もいるよ。同様に、筋肉を作る重要素を酒が阻害する。筋肉は付きづらくなるし、筋肉を脂肪に替えちまう―


―へぇ?―


―どうだ? 耳寄りな情報だったろ?―


 グレンバルド邸のおかって。

 お料理教室のお題は、男の胃袋を掴むマストアイテム「肉料理」。


―良い事は知りましたけどね、意味はなさそうです。兄様は、私に興味がないとまで仰っていましたから。あの忌子の娘が良いのだと。作って振る舞うことは、きっと出来ないでしょう―


 しゅんとしょげる俯いたナルナイを横に、「なんとかしてやってよ」と張り詰め顔をアルシオーネが向けてくるから、一徹は明後日の方向を向きながら肉の欠片を口に入れ咀嚼した。


―どうかな。今回の一件は、却ってナルナイには良かったかもしれないぞ?―


―こ、これのどこが?―


―曲がりなりにも君の感情はラーブに知ってもらうことができた。それは重要じゃない? 待てど暮らせど、いつまで経っても、思いを伝えられない片想いの例なんざ、世間様にはゴマンとあるんだぜ? そうして伝わらずじまいで終っちまう―


―私の想いも終わってしまいました。伝わろうが伝わらなかろうが、どちらも終わりなら同じじゃないですか―


―なら君は、ラーブへの想いを終らせたい?―


―それは……―


―『憧れの近所のお兄ちゃん』って言うからには長い事想って来たはず。そんな急に、無理してまで何でもない風を装う必要なんて無いんだぜ?―


―私に、どうしろっていうんですか?―


―悪い。言うだけ言って責任は取れないから、その質問には答えられない……が……少し、ラーブの話をしようか?―


 肉入り塩スープを皿に盛り付け両手で皿を持つ一徹。クイッと顎でテーブルを指し、ナルナイ、アルシオーネの移動を促す。


―単刀直入に言って、シャルティエとラーブの関係は君が不安するような物じゃない。安心していい―


 テーブルに座った少女二人の前にスープの入った皿を置く。此度一徹は自分用のスープを取りに鍋に向かった。


―どうやらラーブは恋愛における最大のテーマ、『私と仕事どっちが大事?』との問題に直面したとき、仕事を取ったようだ―


―仕事?―


―仕事ではなく、使命という言葉を当てはめようか。恋愛か使命か。ラーブならどちらを選ぶと君は思う?―


―使命の方だと想います。精錬で真面目な方ですから―


―そう。カタブツだから遊びがない。だが常に油断なく真剣な顔をするのはナルナイにしてみたら格好良く映るんだろ?―


 自分の皿にスープを盛って戻った一徹も席につく。

 開食の掛け声なく徐ろにスープに手を付けた。


―寧ろ、ラーブが使命を捨てて君に行っちゃう様な奴だとして、それは君が大好きな近所のお兄ちゃんになるのかね?―


―それは……―


 一徹に問われて口を閉じたナルナイ。

 程なく付け合せのビスケットのような硬いパンを手に持って千切るから、一徹はフッと笑った。


―あの娘が兄様の使命。どうしてそんなことに? 家名まで与えたりして。使命が大事なのはナルナイの兄様らしい。でもこともあろうに、忌子を迎えいれるなんて―


―まぁ、奴さんは奴さんで色々あるのさ。ただ……そうね、忌子と共にあることは、君のラーブへの評価を失墜するものじゃないといいが―


―私が兄様を見損なうなんてありえません! 何があっても私は兄様の味方です―


―うっ……―


 ブレない想いをぶつけられて、一徹は気まずそうな顔で、ナルナイから視線をそらした。


「一徹の奴、君とのキスを思い出してるね? シャリエール」


「そうだと良いんですけど」


 温かな食事を囲む三人を眺める、この記憶にダイブしたルーリィは困ったように、同じくダイブシャリエールは呆れたように笑う。


―確かに、色々聞きますもの。兄様は若手士師筆頭。将来を期待される最有望株……として名前が上がっていたのに、「忌子と共にいるなんて何を考えているんだ」って―


―そうだろうな。わかるよ。俺にも似たような覚えがあるからね。ただそうなると……アルシオーネはどうだ?―


―お、俺?―


 急に話を振られたことで驚くアルシオーネは、スープを完食し、「お代わり」と席を立った所だった。


―人間族の俺がいる。肩身の狭い思いを、グレンバルド家はすることになった。マスターグレンバルドなんて、各方面で色々言われているらしいが、お前はどうだ?―


―ん〜……やっぱり増えた。師匠からOK貰えたから、士師養成機関じゃ師匠を嫌っているで通して今まで通りだけど。士師養成機関外じゃなぁ―

  

―ナルナイからも嫌われて?―


―わ、私は嫌っていませんし! チョット驚いただけで!―


―ハッ、冗談だ。ナルナイは得難い存在だぞアルシオーネ。例え元は親友同士にあっても、種族枠のゴタで破綻する。そんなの枚挙にいとまがない―


―言われるまでもねぇんだ。大切だよ。たまに、なんで俺が女なのかわからねぇときあるもん。俺が男なら、ナルナイのこと放ってやらない―


―ククッ格好良いこと宣うじゃないか?―


 答えきってニッと笑いながらキッチンに到着してレードルに手を掛けるアルシオーネの頼もしく広い背中をジッと見つめた一徹は、


―な? つまりそういうことなのさ―


 女の子同士の告白を受けて顔を赤らめるナルナイに微笑んだ。


―今こそ付き合うことをやめてあげない。異種族や忌子と触れ合うラーブが周囲から忌避され始めたなら、野郎を孤独にさせない《誰かさん》が、奴にとっては掛け替えものになるだろう。その《誰かさん》には、誰がなるのかな?―


―あ……―


―うん?―


―わ、私がなりますっ―


 一徹はなにか言葉を口にすることはない。背もたれに思い切り背中を預けて、ナルナイの目を見つめた。


―あ、あの……このスープ少し貰って行っていいですか? 兄様に、お裾分けしたいと思うんです。男性の一人暮らしでは、プライベート時にちゃんと召し上がれているか気になりますし―


―好きにしな。あ、間違っても俺が作ったって話は隠しとけよ。今回のシェフ山本クッキング教室、『美味しくなーれ、萌え萌えキュン』の俺の愛を食ったなんてアイツも知りたくないだろ―


―私たちが今食べてるのはただのスープです。愛とか、やめてください。気持ち悪いですから。年頃の娘二人に、恥ずかしくないんですか?―


―OH、若い女の子に嫌われるオジサンままだねどうも―


 鮮烈痛烈衝撃的。

 参った一徹は、ズルリ……椅子から滑り落ちそうになる。

 そんな一徹を前に、「しょうがない」とばかりにナルナイは笑った。また、笑った。

 今日という日。

 ナルナイが一徹と出会ってから、一徹に向けて笑った初めての日。



――ナルナイ恋愛成就キャンペーンにて否応なしにラーブと会うようになった一徹だから。

 嫌いあい啀み合っていたのも開き直って、話すべきは話し、聞くべきは聞くをラーブに対しても実現できるようになった。


―貴様は本当に遠慮が無くなったな―


―お気に召さないようならナルナイを連れて帰ろうか? あ〜あ可愛そうなナルナイ。今日のためにバッチリ化粧してお洒落までして、それでなおお前が嫌だってなら、泣き崩れるだろうな―


―ヌグっ!―


―あ、俺が嫌なら俺だけ抜ければいいのか。ナルナイのこと、あとは宜しく頼んだ―


―おい!―


 しかしそれはラーブも同じらしい。なお嫌な顔をしてる。二人共とてもとても悪い顔をしている。

 

―とまぁそういうわけで、君を助けるために装備の大半を失った。責任は取ってもらうよナルナイ―


 これは口実だ。

 失った各種装備品の新調は事実としても、


―わかっています! わ、私になにかあればラーブ兄様が黙っていませんから! ラーブ兄様はあなたなんかよりずっとずっと強い人なんですから!―


 その為の店に案内させるナルナイの、何処の馬の骨ともしれない山本一徹からの魔手を防ぐ護衛名目でラーブが必要というのは、おためごかしだった。


―でも、フランベルジュ特別指導官とアルシオーネは別として、なんで貴方達がいるかわからないんですが?―


―宜しくってよぉ! 山本氏ほどの益荒男を武門名家のストレーナスさんが連れて行く。最っ高っ級〜ブランドショップに違いなくてよぉ!? 今後ガミルナから商談を持ちかけるためにも、挨拶は必要でしてよぉ!―


―全然良くない。趣旨も違う!―


―あ、僕はガミルナさんに駆り出されただけです―


―弱い! 自分の意思を持ちなさい!―


 つまりは一徹の武器新調は建前で、ラーブとナルナイがデート出来るように一徹は取り計らったのだが、ガミルナ、オニィお邪魔虫が湧き出て、結局大集団になってしまった。


―テメェら、姉妹分のデートを邪魔したら容赦しねぇから!―


―ハハッ、アルシオーネが、これがお前とナルナイのデートだって公言してっけどラーブ―


―五月蝿いぞ山本。黙れ。貴様は武器選びに集中しろ―


―そうさせてもらうよ。火傷なんざしたくねぇしなぁ。とまぁ……何か勘違いしてるようだけど、そういう事だからシャリエール―


 なお同じく共に行動するシャリエールも、お洒落して化粧を自身に施した。


 間違いなく、一徹がシャリエールと出逢ってからの中で最近が一番美しかった。

 もとから類稀な見目を持っていた。一徹の元で使用人をしていた頃の化粧は最低限の薄いもの。


 今は違う。

 魅せる為の化粧。見る者の意識を最大限に惹く為の。

 薄すぎず濃すぎない絶妙な塩梅。

 自分を如何に一番良く見せられるか研究に研究を重ねたシャリエールがやっと辿り着いたメイク。


―……ハイ。申し訳ありません―


 お陰で、道を歩けば男達はシャリエールに振り返った。男の子すら立ち止まらせた。

 なのに、シャリエールが見てほしい男性だけは振り返らない。


―少し、辛く当たりすぎじゃないのか山本―


―チッ、ナルナイの件の仕返しか? 徹新を通じて俺がわかったように、シャルティエを通じてお前もわかったんだろうがラーブ。シャリエールはないよ―


―ッッ!?―


―魔族だとか、ありえない―


 言葉とは難しい。 

 各要素がそなわって、初めて正しい意味となる。


 人間と魔族が交わればどちらかが壊れてしまう。付き合う相手に……だから「魔族だとか、ありえない」となるはず。

 自分の手で相手を壊すのは、自分の手で殺すこと……だから「シャリエールはない」のだ。


 前提がないから、知らぬシャリエールは力強すぎるフレーズを受け止め、絶大なダメージを受けてしまうのに。

 俯き、黙ってしまったシャリエールを不憫そうに見つめる一徹だったが、それからなにも言わないまま先を征く。


―ここか?―


 そうして、デモニール一人、デモニア3人、ゴブリン一人、魔族と獣人の忌子一人と人間族一人の珍カンパニーはシックで高級感のある店前にたどり着いた。

 武器屋というよりブティックに見える。


―んじゃま、失礼して―


 まず口火を切って扉に手をかけ店内に入ったのは一徹。


―頼もうか? 《獣帝ジンブジャックボー陛下》側近の一、山本一徹と申す―


 まさか店内に人間族が入るとは夢にも思わない店員たちはギョッと目を剥いた。


―我の身分に関しては、この証書に綴られた通り。それでなお我の身元にいまだ不審あれば、魔王城はダクマロク・ツーバナン冢宰閣下に問い合わせるのが宜しかろう。冢宰閣下おん自ら認められた証書に、誠疑いあらば……の話だが―


 牙を向き爪伸ばされる前に、一徹は動いた。


 獣人族の貴族に相応しい堂々とした出で立ち。仰々しい物言いを用いる。

 ツーバナン冢宰から受けた認めの証書を広げてかざす。

 サインだけではなく、そこにはツーバナン家の家紋象った蝋印まで押されていた。


 初手から押し込まれたスタッフ達は全身を強張らせて、やがて驚愕の顔を何とか引きつった笑顔に変えていく。


―こ、これは……いらっしゃいませお客様―


 表情変えるに、ギギッと軋む音が鳴ってそうだ。

 一人、店主らしき壮年の男が前に出る。歓迎の言葉を口にしているが、無理しているのがバレバレだ。


―本当に嫌味な奴だな貴様は―


―立場って奴ぁ最初からわからせにゃ。でなきゃ舐められる―


―育ちが悪いのが知れますね―


―この世界がそうさせた―


―なんか面白いものねぇかな―


―お前に関しちゃ突っ込んでも来ないのか―


―ちゃ、ちゃんと手袋してから触らなきゃ僕は―


―俺が睨み効かせてやる。店員には何も言わせねぇから忌子気にせず堂々と行けよ―


―早く店主からお離れになって? 商談も挨拶も出来ませんの!―


―だから、一人だけ趣旨が違うんだって―


―あの……―


―無理に話さなくたって良いんだぞ?―


 一徹の口上述べあげが終わって、後ろから同行者たちがぞろぞろ入店する。

 皆それぞれ好き放題を言うから返す一徹だが、やはりシャリエールにだけは何処となく冷たく当たってしまった。


―さ・て・だ。どんなものがあるか……だが……―


 早速物色を開始しようと、一徹はスケベ笑いで両手指ワキワキさせながら店内を見やる。


―アナタ、駄目よソコは。ソコはアナタが相応しい場所でなくってよ?―


 さぁ、まず一本目タッチの所で、野太い声に呼び止められた。

 女性口調。だが、声は野太かった。


―チョット! イイ男じゃないアンタも! アンタとそこの人間族、こっちに来なさい!―


 現れたのは……


―このハンア・ヘンア・ナイメデヤの眼鏡に適った。ラッキーよぉ?―


 吸精鬼もしくは吸卵鬼バーキュリアス種の一人。

 あえてそういったのは、キレイな顔さえしているし、言葉遣いは女のものだが、男性であること自体は直感したのだ。


 浅黒い肌は確かに魔族だ。

 アフロヘア、細身のトップスからボトムスまでどピンクと白のストライプスーツ。

 トンガリシルエットの革靴まで……ピンク。


―さて、キワモノか。それとも天才か―


 驚きはした。だが初見であるはずの人間族を忌避しない、ある意味ではこの世界に置いて異常を見せつけられては一徹も興味が湧く。


―人間族は、この店にはお呼びじゃないと?―


―御冗談!? こーんな益荒男をこのような駄作処分場所に放置出来るものですか!?―


 どうやら差別は無いらしい。

 店に入るなり武器を触ろうとした一徹の後ろから、手袋ハメてフキンを用意した店主はじめ店員の世話になるより余程いい。


―それじゃご挨拶を。この店のオーナーよ。私の作品を見に来てくれて感謝するわ。駄作ばかり見せて申し訳ないけど―


―へぇ? クラフトショップか―


 更にハンア・ヘンア・ナイメデヤなる美丈夫(?)が手を差し伸べたから尚更気に入った。


―世話になるのかな? 山本一て……―


 その手を握り返した一徹は自己紹介が止まった。


―……世話になる―


―これはこれは……こちらこそ楽しみね。ナイメデヤでいいわ?―


―こっちは好きに呼んでくれたら良い―


―では人獣・・と呼ばせて貰おうかしら? 獣人けものびとではない。人が、獣を称するのだから―


 握りの力が、細身とは思えないほどの締め付けだった。

 多分、力量を図られた。今度こそ眼鏡にかかったのか、ナイメデヤは朗らかに笑った。


―特級魔装技工師マダム・ナイメデヤ!?―


―スッゲ、初めて見た。本物だ―


 と、勝手に落ち着いた一徹とナイメデヤの空気を盛り返したのはナルナイだった。


―そうねぇ。駄作を並べただけの店が繁盛する位には腕はあるつもり―


 スマイルしながらナイメデヤはウインク一つ。

 一徹とラーブの間に立つ。


―これで私も特級のプライドはあるからね。アナタたち真の強者には、私直々に武器を組んであげる。正直、チョットどころじゃ無いレベルで値は張るけど……どう? ナイメデア特注の貴方達専用装備品オートクチュール


―俺は別に付いてきただけなんだが―


―相談するだけなら勿論無料なんだろ?―


―あぁん、2人共イ・ケ・ズッ♡―


 両隣二人の腕に自身の腕を絡ませ、店奥へと連れて行く。

 なお、この店には一徹が入店する前から結構な数の客がいたとは言っておく。


 性能が良くハイブランド。この店の武器を手にするのが戦士としての箔とも思って来たのだろう。

 そんな客の前で、そんな客に売ろうとしていた店員の前で、オーナーが「駄作」連呼するものだから、得も言われぬ切ない空気のみ残されたのは言うまでもない。



――クラフトショップの裏口を出てからは、前を行くナイメデヤが乗る馬車について、一徹達は彼(?)彼女(?)の工房に徒歩で向かうことになる。

 どういうわけだかラーブだけ馬車に同乗した。


―す、凄い。マダム・ナイメデヤの工房に入れるなんて―


―俺、末代までの自慢にする。いや、他言無用らしいけど―


―風が! 風が私に向いてきていますわっ! 秘密の最深部を覗いた私は、マダム・ナイメデアの裸を見たも同じ。なら深い関係を。我がカデリカとの直接取り引きを……―


 娘達が余りに興奮するから一徹は苦笑いだ。


―勢いに流されたが、有名人?―


―この国最高峰の魔装技工師の一人ですわ! あの方の作品を一振り持つことは、戦士としてのステータスでもありますの! あの機能美! 性能!―


―ブランドバッグみたいに話すねどうも―


 確かにこの国は軍事国家色が強い。

 ナルナイやアルシオーネも確かに名武門のご令嬢でお姫様なのだが、女の子が武器にトキメクのはどうなのかと一徹は眉を潜めた。


―俺は別に宝剣みたいな宝飾品が欲しいわけじゃないんだけどね―


―その点は安心していいぜ師匠。数多の実績が、その質の高さを証明してっからな―


―と言ってもだな……―


―父上の魔剣もそうですもの。アルシオーネ小父様の大戦斧も、兄様のお父上、タブア小父様の魔装も、マダム・ナイメデア工房製なんですよ?―


―なっ!?―


 予期せぬ事実。流石にそれは一徹も息を飲むしかない。

 分かってしまうと、スゥッと一徹の目は冷めたものになって前をユックリ行く馬車を見つめること相成った。


 3つ疑いが生じた。

 前述の三振りの内、二振りの所有者を殺した自分が、それら二振りの兄弟武器となる獲物を作ってもらうのかと。


 そもそも本当に作ってくれるのかと。自分が作った武器を下して所有者を殺した一徹になにかしてくるのではないかと。


 もう一つ。

 マスター・グレンバルドはかなりの年齢だが、若い頃の彼に魔装を提供したにしてはマダム・ナイデメヤは見た目若すぎる。


―いや、4つ目があったな。野郎、どうしてマダムなんだ?―


 もし危険があったなら、速攻の逃亡も考えなくてはならないだろう。


―さぁ、着いたわよ!―


 好ましくない事態になったときを一徹が想定しようとしたとき、明るい声一迅。


―ハァッ!?―


 馬車から颯爽と降りたマダム・ナイメデヤの姿に、一徹は声を上げてしまう。


―改めまして、ハンア・ヘンア・ナイメデヤよ。こっちの坊やは馬車の中で感じさせてもらったから、今度はアナタを感じさせなさい獣人―


 それはそうだ。

 そこには、マダム・・・がいたから。

 全体の細身のピンクトップスとピンクパンツは変わらない。

 だが、全身がかなり丸みを帯びていた。

 胸の膨らみは相当にふくよかで生地はパツンパツン。臀部も大きく発達していた。


―こ、これが……マダムの所以か……―


 因みに、ナイデメヤに次いで馬車から降りたラーブは、足が地面に接した途端、力失い倒れ込んでしまった。

 信じられない物を見るような顔。

 手で鼻を抑えているが、ドクドク鼻血を流しているのは認められた。


 一徹は……


―このムッツリ野郎めが―


―フガァッ!?―


 ナイデメヤへの警戒改めて、情けないラーブの様を楽しんだ。


―兄様ぁっ!?―


 そんなラーブに駆け寄ったのは当然ナルナイなのだが、ラーブと言えばあまりに不自然にナルナイから顔を背ける。


―ナルナイが近くにいながらそれは……チョット最低じゃない?―


―……へ?―


―黙れ山本! 殺すぞ貴様っ!?―


 なんとなく察した一徹は二ヘラと笑う。ラーブを見下した。


―あ、そうだったの。悪いことしちゃったわね。そういうことなら……先に貴女。ちょっと付いてきなさい―


―私ですか?―


 ラーブとナルナイのやり取りに感じるものあったナイデメアは、一徹ではない、次に指名したのはシャリエールの方だった。


―先にこの娘を借りていいかしら人獣?―


―別に構わんぜ―


 確認された一徹の返した素っ気ない答えに、明らかにシャリエールは落ち込んだ。 

 ナイメデアは面白いものを見つけたとばかりにニヤニヤして、シャリエールの手を引いて先に工房へと姿を消していった。


 



 




スマホで入力するのも半年超えました。

会社のPCで書くわけには行かないからなぁ

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