呪われた廃都市《ベルトライオール》と、マスカレード襲撃の爪跡

 人間族が治める一国、エメロードの《タベン王国》には呪われた廃都市が存在する。


 名は《ベルトライオール》。

 現国王即位前の王位継承権争いのあおりを受け、広大な土地持つこの街は一度焼かれている。

 復興し、人の数がまた増えたときにあっては人ならざる者達に命刈り取られて滅んだ。


 ここは人間族の国。

 人間族以外の者は奴隷に堕とされるのが当たり前の中、二度滅んだ都市は今や人間族以外の者達によって占拠されている異常事態。

 それが呪われた廃都市と呼ばれる由縁だった。


「そんな街にいるのよね私……」


 廃墟と化した大きな街。その一角の、何の変哲も無い民家の一つ。

 エメロードは窓から外を眺めていた。


 声に緊張が混じるのは仕方ない。

 人間族にしてこの国の公爵令嬢。つまりこの街の住民にとって、殺しても殺し足りない憎むべき存在なのだから。


「エメロード様、あまり窓の近くへ寄りませぬよう。外から見つかる可能性がございます」


「人間族もいるようだけれど」


「この街の人間族は、旦那様以外、皆が元奴隷でした。全体の割合としても人間族は数が少ない。だから皆が互いの顔を知っている。見慣れぬ者は、よそ者とすぐわかってしまいます」


 ただ窓の近くに立っていただけで、背中に掛けられたのは注意。

 青少年の、声変わり途中特有の高いような、それでいて低い声によるものだった。


「……あなたも、奴隷だったの?」


 エメロードは振り返り、声の主を認めた。特級ものの美少年だ。

 その気品に満ち溢れた容姿の美しさからは、とても奴隷だった話が信じられず、思わず聞いてしまった。


「言ったはずです。旦那様以外のすべての人間族が……」


「ご、ごめんなさい」 


 機械的な回答。冷ややかに見やる少年執事リュートの美しさは、初めてエメロードが見た時には、ハッと息を飲んだほどだ。

 衝撃は、エメロードが公爵令嬢ゆえだった。


 家の格が高すぎるから、そもそも使用人には奴隷を使わない。

 奴隷とは汚らわしい存在。そう教わっていたエメロードだからこそ、知識が足りず、汚らしい印象のある奴隷像と、美しい顔立ちのリュートが結びつかなかった。


 シャリエールやヴィクトルと同じ。彼も今では一徹の使用人。 


「謝るのですか? 貴女が?」


「え?」


 元奴隷の肩書あるリュートと距離の取り方が分からないゆえのエメロードの発言に、リュートは怪訝な顔を隠そうともしなかった。


「いえ、なんでもございません。ご昼食をお持ちいたしました。温かいうちにお召し上がりください」


 どこまでも冷淡、それでいて丁寧な口ぶり。

 リュートとの心の遠さを感じるから、エメロードは慌てて話題を変えた。


「や、山本一徹は?」


「旦那様でしたらヴィクトル、シャリエールを伴ってただいま外出しております。3日間眠っていらしたお嬢様は、昨夜お目覚めになられた。今後の予定を立てたいと」


 それでも、リュートはあまり食いついてくるそぶりは見せない。

 皿に盛られた料理数種類の乗った盆を、部屋の机に乗せたのちに深く一礼。踵を返した。


「では私はこれで。ご用命ありましたらお呼びください。失礼いたします」


 エメロードは扉が閉じるのを、無機質なバタンという音を耳にしながら認める。

 部屋に一人残されたことにため息を一つついたのち、出された料理、まずはその一つのスープに手を伸ばした。


「……おいしい……」


 体にしみ込んでくる素材と塩っ気にしみじみと言が零れる。

 ほどなく他の料理にも手を付けた。


「これを、アレが作るなんて」


 この料理を作ったのは、人間族外ではない。

 昨晩目覚めた時、一徹から料理番として体毛のない醜悪な獣顔した忌子を紹介された。

 エメロードはそのとき大いに錯乱し、悲鳴をあげた物だった。


「やめよう。そんな言い方」


 目覚めたことに嬉し気に笑った一徹。だが……


山本一徹あの人が、悲しんでしまうから……」


 エメロードの反応に、寂しげな表情へと転じたのをエメロードは見逃さなかった。


 醜悪な獣顔した忌子の男。

 それは今姿消した美少年執事リュートと同様で、一徹にとって大切な、四人の使用人最後の一人だったのだ。

 

 エメロードは知っている。

 己が種族こそ至高とうたってはばからないこの世界。

 

 一徹は多種多様な種族との間に、決して壁を作らない男だ。

 世界の常識から見ると、一徹は人間族にとっての裏切者コウモリに違いない。


 だが一徹がそんな男だと知ってなお、今のエメロードは、一徹を忌避することをしなかった。


 思えば先日のパーティの時の、エメロードを前に人間族たちへの諦めを匂わせたセリフ。

 一徹の、何か信念のようなものから来たものではないかとも伺えた。


 「……おいしい……」


 あぁ、一徹は本当に人間族外と生きているのだという事実。故にこのような呪われた街に拠点を持っているのだという現実。


 エメロードは打ちのめされながらも、何とか適応しなければと思いながら、料理を静かに口に運んでいった。


 信念ゆえのセリフを、どうして彼があの時口にしたのか。

 なぜそのような信念に至ってしまったのか。


 その真意を考えながら……


 ☆


「主催者の一人が黒幕?」


「相当かと。襲撃者たちは一様に農民、町民の格好を装っていましたが、こと、従者待機所での襲撃では身なり小ざっぱりしたどこぞかの家の使用人……に扮した戦士によるもの。私もあわや人気なき部屋に連れていかれ殺されるところでした」


「それを、証明できる何かは?」


「残念ながら。奴らは我ら従者が待機所を出る前に全て斬り伏せたゆえ。待機所も《レズハムラーノ》への連絡のために火も放ち」


「証拠もろとも炭クズか。フィーンバッシュ侯爵だろうな」


「アルファリカ公爵ということもありましょう?」


「いんや。父親としてあそこまで娘を危険にさらすことは、悪役としちゃそりゃあっぱれだが、そんな印象は受けなかった」


 エメロードが一人、一徹の家の与えられた部屋で食事をとっているその頃。

 ヴィクトルからの報告を聞きながら、一徹は冷めた目で天井を仰いだ。


「ラバーサイユベル伯爵なわけもない。どうかな? 案外あの馬鹿馬鹿しいダンスマラソンも、参加者の体力をそぐという意味では本当に作戦として組み込まれていた物かもしれない」


 魑魅魍魎跋扈ちみもうりょうばっこする、《ベルトライオール》中心部にそびえ立つ城。

 かつての王位継承権争いで滅ぼされたとある公爵家が、それまではこの街をはじめとした周囲一帯を領主として治めていた頃の居城。


 新王が登極(王がその位につくこと)してからは、その命を受けたどこぞの大貴族が実権を振るった場所。


 かつての栄華をうかがい知ることが出来るのは、この街を襲った2度の災厄の影響に半壊してなお、荘厳とした部分もかろうじて残っているからだ。


 だがこれら崩落した部分は、がれきを取り除き、失った部分を修復することで、美しかったころの姿に元通りとなることはきっとない。


「それで? 正気かよ一徹兄弟。まだ一週間と経っていないというに」


「迷惑をかけるつもりはないよフローギスト兄弟?」


 今の城の主、この街の長を務める男は、見栄よりもじつを優先する男。

 人ではない。

 かつて人間族の街だった《ベルトライオール》を、人間族を蹂躙して奪うことで治めるようになった人間族以外の者たちの街長だから。

 

 いまや公爵城ではない。領主城でもない。

 太守城。

 それが街長として日々活動している、フローギストなる名のカエル顔獣人族が自称する立場で、妻と共に住まう場所。


「エメロードは明日にでも国境を越えて《メンスィップ》に連れて行く。この街にいるべきじゃない」


「それはそうかもしれんが……」


 この街に住む者たちの中に人間族もいないわけじゃない。だが皆、元この街の住人たちにかつて使役され、蹂躙された奴隷ばかり。

 それを考えれば、そんな過去を持っていない人間族の一徹が、フローギスト街長の傍にいるのは相応しくない。


「何々? 心配しちゃってくれてんの? 兄貴あーにき?」


 「兄弟」という関係性。


 身長が2メートルや3メートルを超えることも珍しくない獣人族にあって、170センチ後半しか身長が無いフローギスト。

 その身に異常なほどの筋肉にくが詰まった彼の戦いぶりに、一徹はこれまで何度も救われてきた。


 その力と義侠心に惚れ込んだ一徹は、経済的な知識面から弟分としてサポートして来た。


 親友を越え、兄弟とまで呼びあうに至るまで相互的な協力を重ねてきたこと。

 一徹がこの街に住むことが許されているのも、街長フローギストと二人、同じ場所に立つことが出来ることも、二人の絆の上に成り立っているのだ。 


「あまりご主人をからかってくれるなよ一徹。義弟を、家族を心配する。何が悪い」


 だから一徹は少しおどけて見せた。

 しかし別の者の声と、刀剣のような鋭い眼差しを受け笑みを苦くした。


 後ろで結った長い銀髪、褐色の肌。

 目を見張るほどに顔立ちは美しく、均整に絞り込まれた四肢は、されど女性らしいところはしっかり主張する。


 美女だ。間違いない。


 だが、全身にくまなく呪詛のような模様が走っているのが、エルフと他種族の血を受け継いだことからなる忌子ダークエルフの特徴。


「あーいや、ごめんごめんガレーケの義姉あねさん」


 一徹と繋がりの強いフローギスト。その妻ガレーケとて、一徹にとっては他人じゃない。

 さすがに、義兄の嫁の冷ややかな視線には緊張が走った。

 

 先日己が出席したパーティで襲撃があったこと。

 その結果エメロードを保護する為、この街の者なら殺しても殺したりないほど憎悪の対象となりうる貴族家の令嬢を街に連れてきたこと。


 一徹がこの場にいるのは、弁明と報告をフローギスト夫妻にする為だった。


「先ほど『迷惑を掛けたくない』と言ったな一徹。『義姉あねさん』だなんてしらじらしい。気負わなくていいよ。いつもお前は私を呼び捨てじゃないか」


「エメロードは公爵令嬢。貴族のお姫様だ。んなのがこの街にいてみろ? 下手すりゃこの国の社交界は、『人間族外が占める街、《ベルトライオール》が公爵姫を人質に取った』と見なす。そりゃこの街に人間族が武力で攻める口実になる。双方にとって万に一つの得もない」


 気の抜けた口調ではある。だが会話の内容はシリアス。

 普段はやる気なしを地で行く一徹だが、ことフローギストと、その妻を前にしてはそういうわけには行かなかった。


 一徹にとって大事な存在。

 これまで一徹は二人といろいろあったから、自身の問題で彼らに迷惑を掛けたくなかった。


「それにこの街にいるのはエメロードにとってもいいとは言えない。彼女は《メンスィップ海運協業組合ギルド》にはまだ受け入れられたが、この街はちょっと沿革セカイが違いすぎる」


「なるほど。かもね?」


「幾ら俺が街長太守の弟分だからって、流石に人間族、それも貴族級を連れてこの街歩く勇気はない。だからこの街にいる以上、彼女には軟禁を強いなくちゃならないし、それはあのの為にもきっとよくない」


「弟分が心配なのはわかるけどね。一徹の発言にはまぁ、道理もあるよ御主人」


 取り巻く空気、そしてフローギストとガレーケの表情。

 一徹には久しぶりの感覚だった。


 かつて全てを投げ出し・・・・・・・・・・スローライフを決め込む・・・・・・・・・・・その前は・・・・、よくこうやっていろいろな算段を彼らと取り交わし、重苦しい空気を作っていたものだった。


面倒事ゴタのさなかにいるって、そういうことかよ」


「何か言ったか? 一徹兄弟


「うんにゃ。だからお前のところから、子分兵隊の2、3人も貸してもらいたい」


「ところで、先ほどの襲撃の発端はどこぞかの家の使用人という話。旦那様はあの使用人襲撃者たちはフィーンバッシュ侯爵の手の者かとご推察なされた。ラバーサイユベル伯爵にはその情報を展開なされるので?」


「いや、いい」


「……よろしいので?」


 そう思うと嫌な感覚だった。


 先日の一件で、改めて髪飾りリングキーに呟いた「今回が最後」という言葉。


「それは《種族感》というコトワリから離れて生きる俺達には関係のない話だ。人間族の面倒事ゴタは人間族で処理すべき話。俺たちが干渉すべきじゃあない」


「承知しました」


 だが……


「この異世界が俺の世界になってここまで。壊すわけには行かねぇだろうが。やっと手にした平穏無事な生活セカイだぞ?」


 いま感じている空気に、本当にあれが最後になるのだろうかと、一徹自身が小さな不安に苛まれた。



「まずい、影響が大きすぎる……」


 ラバーサイユベル伯爵統治下の領、その領都レズハムラーノのラバーサイユベル伯爵邸内談話室では、足を組んで座り、金属の盃を煽ったアルファリカ公爵が苦々し気に呟いた。


 あの襲撃から4日。


 一旦はこの《レズハムラーノ》にて保護されたパーティ生存者は、主催関係者、すなわちアルファリカ公爵、フィーンバッシュ侯爵を残し、皆、自領、己の街に既に帰っていった。


「あの襲撃、謎ばかりが残った」


 いまアルファリカ公爵がいった通りだ。あの襲撃は謎だった。


 アルファリカ公爵の言葉に、表情に、フィーンバッシュ侯爵も、ラバーサイユベル伯爵も瞳をギラリと光らせ視線を送った。


「詳細を詰めようにしても、襲撃者のただ一人として生存者は無し」


 不可解なことだからアルファリカ公爵は頭に手をやった。


 そう、実は生存者はただ一人としていなかった。

 領兵たちが最後会場内まで押し寄せたのは、外で交戦していた襲撃者全てを殲滅したからだった。


「救援部隊が会場内に入ってからは、襲撃者はお互いを刺し貫いたという。全員だぞ⁉」


「徹底が過ぎます。襲撃者たちの体つきにもバラツキがあった。襲撃者たちの殆どは農民、町民でしたがその中には……」


 アルファリカ公爵の推察に、考えを重ねようとしたのがラバーサイユベル伯爵。


「問題は、目的もそうですが先は現実を見るべきかと」


「現実?」


 しかし言を挟んだフィーンバッシュ侯爵の考えに、


「ええ、残念ながら……この領の民が乱を起こしたという現実」


「な、フィーンバッシュ侯爵閣下!? 貴方はこの私をっ!?」


「吾輩も責めるつもりはない。が、この事実を見てしまうと、どうしても伯爵の責任追及は免れない」


 一転ラバーサイユベル伯爵は声を荒げた。


「違う! 襲撃者の中には戦闘経験のある戦……」


 反論を試みようとしたが、それはフィーンバッシュ侯爵がかざした掌に止められた。


「それに、その、なんというか……対、《タルデ海皇国》交渉側は、その《タルデ海皇国》を含めていろいろ不備が多すぎるのだ」


「ふ、不備……ですと?」


「貴殿が交渉しているパイプ役、ハッサン・ラチャニーなる男は、当日のパーティに欠席していた」


「それが何だというのです!?」


「その者は《ルアファ王国》交渉担当官、トリスクト伯爵代行と因縁があるというではないか。そのうえ、今回襲撃に見舞われたパーティ自体もそもそもがその男の発案だったと聞く」


「だ、だからと言って……!」


「ラバーサイユベル伯爵でなくそのハッサン・ラチャニーの算段だったにせよ、やはり我が国としてはその責は……」


 爵位の差。

 それに特例中の特例で伯爵位下賜され最近伯爵になった事もある。

 慌てるラバーサイユベル伯爵の反論を、フィーンバッシュ侯爵は取り合おうともしなかった。


「それはない……」


 が、フィーンバッシュ侯爵は言を述べる途中で、アルファリア公爵が威厳たっぷりに否定をしたことで閉口した。


「ならばラチャニーは、名代として黒衣の男を送ってはこぬよ」


「あのパーティに黒衣の男が来たのは、当日の襲撃を中から先導する為でございましょう?」


「先導役でありながら、あそこまでその指令先である襲撃者たちを薙ぎ倒していったのだとしたら、大した裏切りっぷりだ」


「擁護なされるか閣下! 冗談を言うべきところではありませんぞ!?」


「冗談で言っているつもりはない。ワシが断言できるのはな、ラチャニーを誠疑っていないからだ。故に奴の名代に……エメロードの保護を託した。それともけいは、ワシの選択が黒衣の男、ひいてはハッサン・ラチャニーの人となりを見抜けず騙されたゆえだと言いたいのかな?」


「それは……申し訳ございません。ラバーサイユベル伯爵、たったいまの発言、許されよ」


 が、アルファリカ公爵がこの場では最高位。

 断言があったから、フィーンバッシュ侯爵はそれ以上何も言えなくなった。


 ドンッ! と、拳で机をアルファリカ公爵が叩く。


「各々がた、気を引き締められよ」


 フィーンバッシュ侯爵もラバーサイユベル伯爵も視線を集めた。


「今こそ我ら三家の絆を強くするとき。互いを疑い始めては、我が国の3か国同盟はおろか、2国間での同盟すら締結するのが危うくなる」


 ギラッと、アルファリカ公爵の瞳に強い光が宿っていた。


「それは同盟推進派の瓦解につながってしまう。襲撃理由は、貴族を憎む民の怒りが引き起こしたもの……いや、ワシはそうは思わん」


「同盟に関係する者の懇親の場で起きてしまった事実ですね?」


「いかにも」


 ラバーサイユベル伯爵は、公爵の強い目力にめげず、確認した。


「故に貴殿ら、アーバンクルス殿下、トリスクト伯爵代行、ラチャニー以外、今回は仮面舞踏会マスカレードという来場者同士で正体を明かさないという条件付きで、同盟に興味を見せる招待客を集めたつもりだ」


「ですが、そんな場に事件は発生した。この一件で確実に我が《タベン王国》全貴族家で、『同盟に組みする者には危険が及ぶ』ととらえられることになってしまいます」


「さよう、ラバーサイユベル伯、それは同盟構築に対する社交界内の世論を変えてしまう」


 言い切ったアルファリカ公爵を、ラバーサイユベル伯爵は真っ直ぐ見据え、フィーンバッシュ侯爵は恭しく頭を下げた。


「……と、いうのがワシの考えだ。さて、ラバーサイユベル伯爵。いつか、あの黒衣の男にも正式に礼を述べたいと思う。エメロードを救ってくれたその礼を」


「ご心配なさらぬよう。我が命を懸けお誓いします。お嬢様は安全に保護されております。それで、お嬢様にはいつ頃お迎えを?」


「もう少し、ことが落ち着いてから迎えを出そうと思う」


「よろしいかと」


「それで? そちらの方はどうなっておられる。《ルアファ王国》の側は」


 下げた頭に降ってくるのはアルファリカ公爵とラバーサイユベル伯爵の談義。

 頭を垂れながら黙っていたフィーンバッシュ侯爵は、ここで問われて頭をあげた。


「引き続き、殿下はトリスクト伯爵代行についておられます」


「フゥム、もう……4日か。あれから、トリスクト伯爵代行が眠りについてから」


 ルーリィ、アーバンクルスの二人も、あれからこのラバーサイユベル伯爵邸に滞在していた。


 その話を耳にしてアルファリカ公爵が遠い目を見せたのを、フィーンバッシュ侯爵は鋭い目で睨みつけていた。 

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