テストテストテスト169

 場所は志津岡県三縞市。

 早朝6時を回っている。


 誰かからかは定かではない。自然発生的に「四國高智がマズいことになっている」との噂は、冬の風に乗って三縞市内全てに吹きすさんだ。


【それでは高智局からの中継です。えー、映像にはショッキングな場面も含まれております。ご視聴の際は……】


 全国キー局の生放送。プロジェクターで映された動画を食い入るように見つめる、三縞校大会議室に集結した三年生は一様に不快気で、もどかしかった。


 ホットニュースだ。

 こんなことでもなければ訓練生の戦闘場面なんてテレビ報道されることもない。

 ならば衝撃映像で視聴率も取れると報道側は思っている。

 それでいてショッキングな映像については、「見る人の責任なので報道側には責任ないですよ?」と言い訳されている様にも聞こえた。


【こちら高智放送局。高智駅からの生中継です。そしてこの放送が、私達取材班の遺言になるかもしれません・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 男性現地報道員が映る映像に切り替わる。顔色はまさに顔面蒼白。


【高智で《大規模転召脅威》が発現してからもう10日。数千にものぼる地元避難員は憔悴しきり、対応する魔装士官訓練生はじめ、警察、自衛官の顏にも疲労が隠せなくなっています】


 ざわり……と現地報道を目にした、スクリーン前の三縞校三年生たちは沸き立った。


 場面は変わる。

 恐らく高智駅の屋上から遠距離で撮影されている。

 拡大した先、一心不乱に闘うは4種の服装。


 高知県警。陸自高智駐屯。魔装士官学院四國校。そして……


『アイツら、マジ闘ってるわ。《山本組》……』


 この三縞校から出征した仲間たち。

 遠く離れた地で命を燃やす《山本組》は、一人を除いて全員が2年生以下。

 つまりここに集まった3年生全ての後輩だ。

 

【一部避難者の声を聴きますと、魔装士官訓練生の将官殆どが戦場を放棄、逃亡したとの話もあり・・・・・・・・・・・・・・・・……】


『『『『『はぁっ?』』』』』


【現に訓練生の多くは精彩を欠いており、昨日までの士気は落ち込み、司令系統も乱れているように思います】


 現地報道員の発言は、映像見ている三縞校生にとって最悪。


『幾ら切羽詰まってよしんば言葉選べないって言ってもさぁ……』


『それだけは言っちゃ駄目でしょ』


『こんな奴ら守るために命張ろうってか?』


『マジ無理なんだけど』


 あからさまに不機嫌色めき立った。


「皆落ち着こ? 異能力無い人達の恐怖の程、少なからず抵抗力ある私達の想像も絶してるはず」


 呼びかけ、束ね諭したのは魅卯。

 「そうは言うが」と何人もブチブチ口にするも、黙るまで魅卯が神妙な顔で見つめるものだから閉口するしかない。


「ねぇヤマトくん」


「魅卯会長?」


「『将官の殆どが敵前逃亡した』って話だけど……」


「四國校か。先日陛下に全校の生徒会長が招聘された折に顔を見た。鷺波織葉さぎなみおるはだったか? 俺もこれまで数度会ったくらいだが、戦場を放棄するとは思えない」


「だよね?」


「三縞校なら《山本組》って事になる。将官として挙げられるのは二人」


「山本君と、胡桃音くるみねさん」


「後者の名は、耳にしたくないかも知れないが」


 状況に苦しさを覚え、魅卯はヤマトに聞いてしまう。

 一徹が仲間を見捨てるなどあり得ない。それを誰かの口から聞きたかった。


「ん、私は……山本なら逃げていいよと思う・・・・・・・・・・・・・


「えっ?」


 意外にも生き恥晒すことを容認したのは、低血圧ダウナー系美少女の《ネコネ》。


「最近山本と遊べてないけど、陛下から勅命を受けた時、なんか……痛かったな」


 「痛い」と口にしたとき、残念がちに目を瞑るのが印象的だった。


「痛いというのは分からんが、俺達の山本らしく無い・・・・・・・・・・とは俺も感じた」


「ん、勅命を受けた山本って、《記憶を失う前の山本》なの斗真?」


「いや、《記憶を失った俺たちの山本》との縁はあの時確かに感じた。が、俺達の知る奴らしく無い」


 一徹擁護論が展開されると、割り込んだのは《斗真縁の下の力持ち》。


「遊びが無いと言えばいいのか」


 腕を組む。真剣な表情。


「それ僕も思った。山本ってなんか、絶体絶命と言うかそのきわになっていつも奇策を持ち出してくる。けど常にほんの少しの余裕を、他に持つ隠し手の2手3手とともに確保してたと思わない?」


 乗った。《有希ショタ》だった。

 己の発言に賛同を集める様、クラスメイトに視線を巡らせた。


「夏休みや文化祭の時の事だろう? 紛れもなく絶対絶命で、とても余裕醸せる状況じゃなかったはずだが……」


 必ずしも賛同は募らない。

 一徹が影で「ムッツリ眼鏡」宣う《正太郎政治家》など、明らか目じり下げて悩んでいた。


「フン、あの状況下で余裕など醸せられたなら、それは最早バケモ・・・・・……あっ……」


 シワ刻んだ眉間に手を当て呻いた《綾人王子》が、この会話を静止させる。


「えっ? 綾人なに? 今、化け物って……」


「い、いや。単なる言葉の綾だ有希」


「……薄々、気付いてるのではないですか綾人さん?」


「何の話かさっぱり分からんな富緒」


 ウッカリ発言を《綾人王子》はしてしまった。


 《有希ショタ》は意味がわかっていないようだからいい。

 まさか、《富緒委員長》が突っ込んできたのは予想外だ。

 だから《綾人王子》は《富緒委員長》とのコミュニケーションをぶった斬ったのだが、3組の中に気持ちの悪い空気をもたらした。


「安心して月城さん。山本が仲間を見捨てて逃げるなんて絶対ないから」


「綾人さんがシャットアウトした話を、灯里さんが続けてくれるなんて」


「三縞市の警戒は未だ解けていない。いつ《アンインバイテッド》が現れ、戦闘にならないとも限らない。今、富緒がきたす不和は、私達の学院生活宝物を壊す危険性を生み出さない?」


「ッゥ!?」


 3組最後の一人、《灯里ヒロイン》が口を開く。

 重い空気は、更に重くなった。


(あ〜あ、なんでなのかな?)


 話題は一徹。

 《富緒委員長》と《灯里ヒロイン》で微妙な空気になるなどこれまでない。

 3組生全員、複雑げに顔を歪めた。

 

 ヤマトに問いかけて発展したやり取り。耳にした魅卯の胸にモヤモヤは溜まる。


(石楠さんと禍津さん、私の知らない山本君の話を知ってる。いっそ共有したら、きっと今まで以上に山本君の真実が知れるんだろうな)


「フン、止めないか二人共。いや止めてもらおう。俺達がここにいるのは、口論するためか?」


(でも出来ない。多分しちゃいけない。蓮静院の若様も何かしら知っている……気がする。それでも議論を進めさせないのは、情報を共有し導き出される真実から遠ざかりたいから。誠のところを知りたくない)


 他の3年生はスクリーンに映る光景に憤りを見せる。が、どうも3組と魅卯は、論点が違った。


【なっ、なんだアレはっ!?】


 その時だ。

 生放送中継。現地報道員が驚きの声を上げた。


 当然3年生全員、魅卯も3組だってスクリーンに釘付け……


 FUUOOOOON!

 

 ……になるはずだった。


(《転召脅威警報》!? この三縞にも遂に来たっ!)


「全3年生は、《山本組》を除いた自小隊員を緊急招集してくださいっ!」


 サイレンのち間髪入れずに上げた魅卯の叫びに、全3年の「了解」はまるで示し合わせたかのように重なった。


「ヤマト! 私はこれからルーリィとシャル教官に……」


「……いや良い」


 全員が脱兎のごとく大会議室から離れたのち、残された3組。


「『良い』って。まさか前にルーリィにブツケられた言葉に意地張って……」


「別に、根に持ってる訳じゃない」


 《灯里ヒロイン》の言葉を《ヤマト主人公》が遮った事、全員の目を奪った。


「俺にはよくわからない。よくわからない所であまりに多くの事が過ぎ去ってる。そしてその中心には常に山本がいて、山本の隊員がいた。それが事実だ」


 緊急事態。スクランブル出陣を求められる中、いつもならまっさきに飛び出る《ヤマト主人公》が皆の足を止めてまで何かを伝えようとする。


「どうして最近、すべての物事の中心に山本がいるのかちょっと考えてみた。さっき例に上がった夏祭りや文化祭がそう。いつからか俺や皆は、・・・・・・・・・・山本に乗っかってしまっていた・・・・・・・・・・・・・・


「フン、乗っかった……か。認めたくはないが、奴の奇策は有用だった。利用させてもらったところも、無くはない」


「結局物事は、山本の想定と期待通りに運んでいった。俺たちひとりひとりの力を・・・・・・・・・・・・見抜き、あてがうべきと見立てた適所に適材として用いた・・・・・・・・・・・全ては山本が目論んだ通りにな・・・・・・・・・・・・・・


 全員の目だけじゃない。

 耳すら奪った。


「気に入らんなヤマト。過分に嫌な事を、お前は俺たちに言っている。その自覚はあるか?」


俺達は山本にとって、その状況をより良く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・するためのあたかも駒に過ぎない・・・・・・・・・・・・・・・……だろ?」


「「「「「「「ッ!?」」」」」」」


「山本は打ち手。将棋もチェスもオセロだって弱いのに、なかなかどうして指し手としては皇すら一目置く。戦場盤面を高みから眺め、相応しい場所に・・・・・・・・・・・・・・・手駒を置く・・・・・。俺達が山本を中心に巻き込まれるわけだ。ある意味、強制力が働く」


 悪口も悪口。一徹がいない中で、盛大な陰口。

 

 そんな、《ヤマト主人公》が?

 「皆のヤマトは堕ちてしまった」と。少なくない落胆が皆の胸に伸し掛か……


今のままなら、俺たちはそうなってしま・・・・・・・・・・・・・・・・・・うんじゃないか・・・・・・・?」


 否、すんでの所で押しとどまった。

 

「山本はそんな、俺達を駒に見るような腐った奴じゃない。でもだからこそ、俺は実は最近焦っていた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ヤマトが山本に……焦っていた?」


 先程話を終わらせようとした《綾人王子》が、この会話について終わらせないところ。

 《有希ショタ》が眉を潜めたこと。


 皆、一徹との関係性に、ある一定の結論づけすることを選んだようだ。


俺たち誰一人、山本と対等にあれてない・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆気付かない振りして、既に分かっている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・んじゃないか・・・・・・?」


 ヤマトの問いかけは、誰もの反論を許さない。


「アイツがもし、『もっと精進しろ』と喝の一つもぶつけたなら、そこに上下の開きもできたはずだ」


「ん、ヤマトも酷。それは山本が一番避けたい、誰かとの関係にヒビを入れること」


「だけど言ってさえくれたら、同じ場所に立つために足掻く事だって俺たちは出来たはずだった。山本は……でも俺達が『友達』だから、現実を現実として突きつけなかった」


「『友達』だから・・・?」


 《ヤマト主人公》が深呼吸したのは、次に告げることに覚悟を決めたからかも知れない。


「『友達・・と言うぬるま湯に浸かりながら・・・・・・・・・・・・・・、見ないふりしていた山本との差がどんどん開く現実。苦しかった。俺の側の問題なのに、山本のせいとして俺は嫌った」


 山本一徹クラスメイト最底辺は、皆の背中にジリジリ近づいてきた。

 追いかけてきたかと思うと、抜き際は音速だった・・・・・・・・・

 抜いたのち、一徹は光の速さで離れていく・・・・・・・・・・


「この前トリスクトには、それを言い当てられたんだ。山本と、本当の意味で対等じゃない。ただぬるま湯に甘えてるだけだって初めて見抜かれた」


 3組誰しもに覚えがあって、一徹に対し葛藤を持っていた。


トリスクトは山本に一番近い存在だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・それが言えた・・・・・・山本は遠慮からそんなことを言わない・・・・・・・・・・・・・・・・・俺だって甘えを認めたくない・・・・・・・・・・・・・。皆はどうだ?」


 苦笑い。複雑。微妙。

 示されたことで3組全員、目を伏せった。


「だから今回、トリスクトを呼びたくない。山本小隊副長。山本の力の一端。頼るとなったら俺たちはまた、山本の力に寄りかかり、依存してしまう。本当に良いのか? そうしたら一層、山本と俺達の距離は離れることにならないか?」

 

 ヤマト以外全員、グゥの音も出なくなっていた。


「故にせめて今回こそ、トリスクトでもシャル教官でもない。俺達が俺たちの力でこの状況をなんとかする。かつて山本が編入するまで、ずっとそうしてきたように」


 黙ってしまうと言うことは、唯一鼓舞する《ヤマト主人公》の語りがよく耳に入ってしまうということ。


「『三縞はお前に託す・・・・・・・・。俺たちの帰る場所を守り、残してくれ』ってあの言葉……」


「「「「「「「……あ……」」」」」」」


――そんかわし全国案件お国ごとは俺に任せろ。なぁ? 刀坂ヤマト主人公――


「あれはきっと、俺だけに言われたわけじゃない」


 旅立ちの日。

 疲れ切った笑みでため息混じりにかけて来た一徹との一幕を、ヤマトは皆に思い出させた。


「もし俺達が俺達の力で三縞を守れず、助力を願って助けてもらったとして、トリスクトやシャル教官はそのことを山本には告げないと思う。でもアイツは、何処かでそれを感じ取るだろう」


「それ、嫌よ」


「山本、きっと笑ってはくれるよ。三縞は守れて誰も失わなければ。でも……」


「ん、実は裏で私達にガッカリするかもね。地味に猛烈に」


「やめ給え。考えたくもないぞ」


「フン、笑うのは曲がりなりにも闘った事実に対する配慮か」


「配慮というより遠慮だ。取り繕い。そんな間柄、とてもじゃないが友と言う縁にはくくれんだろう」


 少しずつ触発される。

 クラスメイトたちに、少しずつ《ヤマト主人公》の想いは染み渡る。


「これが俺の考えだ。幸か不幸か。最近山本は学院を不在がち。今回も遠方に出征した。不謹慎だが、今がこらえどころなんじゃないか?」


「俺たち3組全員が、このまま奴の後塵を拝み続けることになるのか。それとも再び対等な存在として並び立ちうるかの瀬戸際……か」


「確かに山本の不在は、物事の好転に対して良い縁ではあるだろう。山本が側にいては、『並び立つ』との胸の誓いに気恥ずかしさを覚える。積極的に活動するのも難しい」


「だから、居ないうちに僕たち全員、気を引き締め直すってこと?」


「フン、山本が帰ったその時、『距離が離れてた3組が、再び同じ場所に立てる存在になっていました』と思えるなら格好もつくか」


「ハハッ。辞め給え。熱血だなんて君らしくないじゃないか蓮静院」


「んふぅ、山本のためにって言うところが、ちょっと気に入らないけど」


「ってことは、ネコネも賛成ってことね」


 英雄3組に一徹が入ったとき、一徹だけが英雄じゃなかった。

 しかし一徹が英雄になったとき、その他全ては一徹の背中を眺めるかたちになってしまった。


 英雄でも凡夫でも構わない。

 再び全員が全員、横並び一列に、対等になるのだと。


「その提案……私も乗ります」


 最近一徹に対し、否定的な《富緒委員長》まで賛同する。


「富緒?」


 《灯里ヒロイン》が釈然としないのは、否定的なはずなのに、一徹と同じ立場まで全員で上り詰めることに納得したこと。


 不信感は拭えない。

 《富緒委員長》だけはもう、一徹の存在を受け付けていない事を《灯里ヒロイン》は知っていた。


「ヤマトさん」


「うん?」


私達の主人公で居続けてくれるのを諦めな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いでくれて、ありがとう御座います・・・・・・・・・・・・・・・・


「えっ?」


 言われた意味、《ヤマト主人公》はわからない。全員わからない。


「もし気あたりに呑まれそれまでなら、私達全員呑まれたままでした。そうしたらもう、抗える者は居なくなってしまっていたかも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・知れません」


 解る《灯里ヒロイン》だけギョッと目を見開いて、程なく悲しげに。


(また、私の知らない話)


 目の当たりにした魅卯は、下唇を噛むしかなかった。


『なんか……以外だわ』


『《英雄3組》とか持て囃されてるアンタらも、そんな人間味あることに悩むんだ』


『でも、親近感湧くっちゅうか……』


 話は纏まった。その場は、散開するはずだった。


 なのにサイレンが鳴ってたちまち出ていった他の3年生全員が、大会議室に戻ってきたではないか。


「皆どうして。警報は鳴って……」


『で、待機して待てど暮らせど、司令官が動く素振りが一向に無いわけよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。魅卯?』


「……あ゛っ!」


 戻ってきた集団から一人姿を表したのは、魅卯の親友、《ショートカット風紀委員長》。

 指摘された側の魅卯が破顔したことに、《ショートカット風紀委員長》はやれやれと首降った。


『で、何ウチの生徒会長を足止めしてんのよ。3組?』


「「「「「「「「……ウグッ……」」」」」」」」


 追撃に、3組全員苦しい顔で固まった。


『まぁでも、話は分かったガンス』


 《ショートカット風紀委員長》の隣、此度は《ガンス》が現れた。


『『その話、私達も噛ませてもらうわよ/俺達も噛ませて貰うガンス』』


 そして息もピッタリ。二人の言は重なり合う。

 同時、戻ってきてしまった三年生から、無言なれど熱量が滲み溢れた。


『私達も面白くないわよ。奴隷六号一人抜きん出た。その結果何が起きた? アイツ舎弟の1、2年が、この国最悪な戦地で闘って、しかも活躍してる』


『そりゃいくらなんでも駄目ガンス。戦場から帰って『俺ら命賭けて来ましたぁ』なんて胸張られた日にゃあ、最上級生としての沽券にも関わるでガンスァ』


 ムンムンに発せられる、一種怒気のようなオーラに魅卯も3組もポカンしかない。


『奴隷六号、そして後輩に先越されたままってのは正直しゃく


『再び追いつく。お前らが気持ちも新たに巻き直すと言うなら、その他3年全員載せてもらうガンスよ』


『英雄……ね? 別に私らだって、その称号が羨ましくない訳じゃ無い。《英雄3組》の専売特許として許した訳じゃない。だからこれからは、アンタら《英雄3組》も奴隷6号にも追いつかせてもらう』


『いんや、追い越させてもらうでガンス。注意した方が良いでガンスよ。『追いつこう』と《月城魅卯親衛隊第六衛士インペリアルガードヘクセンリッター》の背を見続けるだけじゃ、《英雄3組》は俺たちに足元掬われる』


 皮肉に塗れた物言い。

 しかしそれは……


「分かった。皆で強くなろう・・・・・・・


 ヤマトが総括したので全てだった。


 一徹を追い続ける3組は、その他3年が更なる飛躍を誓うことで突き上げを食らう事になる。


 そうならないため、どうすべきか。


 3組含め全3年、一人抜きん出た一徹の隣に並べるだけの存在感と実力をつけてしまえば良い。


 困難には違いない。

 一徹は大絶賛急成長中で、伸びしろは計り知れない。

 それでも彼らの想いは、一徹がどこまで成長しても、食らいつき、追い越そうと強く誓った。


「これは決して3組のみに限定したものじゃない。3年生皆にだ」


 実現性の高低はこの際どうでもいい。

 高まったエネルギー量の凄まじさが光った。


「この警報を持って、俺たちは戦に身を投じる事になる。まさか戦いを大事にしたいなんて思うとは」


 ヤマトの静かな告げに、全3年が真剣な眼差しだ。


「ただの一戦なんて軽く見ない。俺たちはこの戦を皮切りに、以降の戦い全て、山本や《山本組》に追いつき、追い越す為の糧とする。大事な成長過程、経験として取り込んでいこう」


「孤高とは孤独か。フン、手間の掛かる奴め。俺たちは強くなる。強くなって……ボッチのヤツを迎えに行ってやるとする・・・・・・・・・・・・・・・・・・か。仕方ないからな」


 普段冷静で難しい顔ばかりな蓮静院が乗ったことも、全3年が一層やる気昂ぶらせる一員となる。


 だから……


「皆……行こっか?」

 

『『『「「「「「「「「応ッ!」」」」」」」」』』』


 わざわざ魅卯が気持ち盛りたて、士気を高めるまでもなかった。

 


 三縞校で誰も注目すること出来なかった【なっ、なんだアレはっ!?】とは、高智駅前の激戦地に展開あったからだ。

 

「……かしこみかしこみ、お頼み申すっ!」


 初めから途中までの詠唱は聞こえない。

 決まった最後のフレーズは、もう何度も繰り返されていた。


『仮面の野郎が崩したばぁって!』


『クハっ! 広範囲術技サイッコー♡』


『怯んだべ! この勢いに乗じて……』


『一気に数を減らしますよ!?』


 暴走妖魔や《アンインバイテッド》群の中心に、地割れ雷火事大水、竜巻が巻き起こる。


 とある、ヒーローお面をつけた男がしてみせた。


 結論。

 そんな技は、例え異能力者でさえあり得ない。


 備考。

 ただしこの忙しない状況下では、疑問に思うより有効活用に専念す……というのが、戦場を走る《山本組》と四國校の答えだった。


フンッ!」


 疾風怒濤のヒーローお面。活躍は、決して異能力のみにあらず。


 突かば槍、薙げば薙刀、引かば鎌。

 振るうも見た目重量から困難そうな十字槍を軽々と扱い、近寄る全てをバターの様に断ち割いていく。


「迂闊に間合いに入るなよ? 誤って斬ってしまうぞ?」


「爆音、撃剣音震える中、近寄らないと会話もできないんですけど」

 

「フッ、胆力があるな。まだ女子高生にも違いないだろうに。女傑と言ってしまおうか?」


「勘弁してよ。そんな可愛くない褒め言葉」


 勇敢にも、そばに立ったのは紗千香だった。


「女傑には違いない。どうやら、この数百を一人で束ね、差配してるようだ。それでいて自らもこの鉄火場に立つかよ。仲間を死なせないためか」


「別に、行きと帰りで人数変わってたら気持ちが悪いだけ」


「素直じゃない。ぶっきらぼうに物は言うが、仲間思いだ。あながち、平素は猫でも被ってるんじゃないか?」


「会ったばかりで分かったようなこと言わないでくれる?」


「図星か?」


「五月蝿い」


 話しかけ、からかわれてムッとした一方、仮面の男の戦闘力の高さに紗千香は舌を巻いていた。

 軽口言い合う中でも敵は近づいてきて、ことごとくを男一人で討ち果たしてしまうからだった。


「どこにいたのよ。もっと早く出てきてよ」


「無茶を言う。それに、助けてもらう側の自覚があるなら、言葉遣いに気をつけるべきとは思わないか?」


「ハッ、仮面つけてるような奴がよく言うわよ。どうせ顔見せできない、お天道様の下を歩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・けない脛に傷持ちなんでしょ・・・・・・・・・・・・・?」


「ククッ。やり返されてしまった。お天道様の下……か。言い得て妙か。まぁ歩くとして俺は・・・・・・・・・……お天道様のその上なんだが・・・・・・・・・・・・


「何を言って……」


 仮面の男に頼るしかないのが実際だった。


 一徹はいない。

 四國校を纏めていた織葉も、一徹に連れて行かれた。


 いい。ワンチャンス《山本組》は紗千香が纏められるし、覚悟もしていた。

 四國校は五日出聖ごのひでひじりが引っ張ってくれる……と思っていたのだが、いつの重症か、行動不能に陥っていた。

 

 流石に両校数百人を一人で動かすに、紗千花では予想外すぎるし経験も足りない。


 今日の戦況は、最悪だった。


 何時もよりも早く敵勢力の活動は再開、活発化した。

 混乱した戦況にて、紗千花に率いられ慣れてない四國校生はまた何人も倒れていった。


 四國校が崩れてしまうなら、《山本組》に負担が伸し掛かる。このままなら組員まで死なせてしまう。


 想像出来る総崩れ。

 今日が、自軍の全滅にて敵方に飲まれてしまう最期の日……なのかと。


 そんななか、文字通り一騎当千。無双の戦士が仮面被って現れたのだ。

 使わない手は無かった。


「佐知香だけど、何っ!?」


 仮面の男と話しすがら、紗千香は仲間からの通信にインカムを耳に押し付けた。


東に、集団の影ぇ・・・・・・・・!?」


 そうして内容を耳に顔を上げ、バッと東に目を向けた。


「冗談じゃない。まさかこの期に及んで新敵勢力集団じゃないでしょうね?」


 その顔には、絶望が少しずつしみ広がって行くような。声だって震えていった。


「いんやぁ?」


 だが……


「なんとか……間に合ったらしい」


 仮面の男の語気よ。安堵が感じられた。


 紗千花に倣い、仮面の男も東を眺める。


 2つの、大きな集団の影・・・・・・・・・・・


 仮面の男には、2集団の間に置かれた数百メートルは空いた距離の理由がわかっていた。


「さて、ここまで至るのは良い。ここからどう、コントロールしていくかだが?」


 わかっているから、確信が持てた。

 この戦場、戦況。

 好転するのだと。



「さぁ〜てぇ」


 2つの影集団の一。

 皆、太陽に背を向けているのは、夜に愛でられし種族ではないからと信じたい。

 だから影が落ちてしまって、誰の顔をもハッキリさせない。


高智・・……妖魔大連合・・・・・……すぅいさ〜ん・・・・・・


 問題はない。


 すでにやる気溢れたことで人間形態をかなぐり捨てた者が殆どの中、人の形そのままなのは3人しかいない。


 美少女二人。そして……いま挙がった声は男のもの。

 人の形ままの男子は、この集団に置いて一人しかいないのだ。









えぇ、ホントはもっと更新したとこで公開しようとも思いましたが、前回公開から2、3週経ったので公開してみました。


で、次回ですが、公開までに時間を頂くかもしれません。

というのも、時々公開での形で四國騒乱編を取り上げるのは本話が最後にて、次上げる予定の話は、四國騒乱終結後の次の章的な感じだからです。


早くマイページというかワークスペースで完結させたい。

そしたら今流行りのイラストAIにハマって挿絵トライする(そんなんいいから完結即全話公開せぇって奴ですね)


いつもありがとう御座います。

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