テストてすとテすト164
「もう一度言いましょう。異能力者がいなくなったあと、この地は確かに妖魔が治めるのでしょう。あくまで皇が動き出すまでの話です」
なんだろね。
生きた証を残したいと思い直した途端、集まる注目への恐ろしさが一気に軽くなった。
「数千年に渡る敵対関係。事実でしょう。ですが一方、その歴史があったから妖魔と人間が共存共生する現代に繋がった。ある意味その関係は長年かけ両種族が作り上げてきた文化文明で財産」
「い、異能力たちが……」
「さてぇ? 傲岸不遜を言います。この国の法を整え政を行い、経済を回す。それは異能力者より圧倒的に数の多い……
「なっ!?」
「異能力者など
「す、好き放題言ってくれるき」
先ほどから両種族の代表の意識は俺に集まる。
だから俺の言葉が彼らの痛いところを付いていて、反応が悪くなっていることも見て取れた。
「決して国を人間族だけが動かしているわけじゃない。溶け込んでくださることで、妖魔たちが回すことも多いはず。妖魔が長となり、人間族の生活を支える企業だってゴマンとある」
それさえ分かれば、俺にだって責めようはあるというもの。
「この国の主役は人間族だけではありません。妖魔だって同じはず。問います。妖魔方の怒りの矛先は、敵意は、我々人間族全体ですか? それともあくまで退魔師限定ですか?」
「わ、ワシらは……」
「今日まで生きてきた感想を知りたい。長年の退魔との戦いにて散った妖魔同胞の命を語るのは相応しくないと思います。なぜならそれは、生まれてから今日まで生きていた貴方たちの実体験からの意見をぼやけさせる」
さぁ、存外やれているじゃないの。
「それは本当に貴方の言葉で語られていますか?」
「うっ」
貫禄バイヤーなオッサンだけじゃない。さっきまで殺意を向けてきていた妖魔の皆様方、当惑されてやがる。
「異能力者に限定されてなければ、この国は人間と妖魔両種族がバランス取って上手くやってきた。所詮はガキの戯言ですか? ですが今回の全国的な《転召脅威》に対し、陛下は人間族以外にもご心配あそばされた」
「妖魔も心配してくれるがじゃろう? ならワシら妖魔がこの地を支配しようが……」
「重視しているのはバランスと申し上げました。私が真に心配するのは、この地を『占領した』と見立て躍起になるだろう
「ド腐れ?」
「妖魔を敵視し、同族の人間に対しては無力無能者なら劣等種として見下して憚らないものの見方。腐ってやがる」
この街で身を寄せ合い暮らす妖魔の住人たち。そして傍に立つ鷺波織葉。
「我々無力無能者は、妖魔を差別も区別もしません。貴方達が妖魔の顔を見せて牙を向かない限り、異能力者と違ってそもそも人か妖魔か判別すら出来ない」
うん、破顔していた。
「貴方がたの助力なければ、この地の異能力者が滅ぶのは必然。『卑劣な手で妖魔がこの地を占拠した。ならどんな手を使っても奪還しなくては』と、如何にも上に立ちたがり異能力者が言いそうな事です。そーだな鷺波」
「だから、もっとも嫌なところでウチに話をふるんやない!」
「果たしてそれは九州退魔か、王坂退魔か。貴桜都退魔ってことも考えられるますね」
ここまで至って、ほんの少しだけ息を吸うことが出来た気がした。
「さすれば今度こそ退魔と妖魔は衝突します。それは発生防ぎようない《転召脅威》みたいな天災じゃない。
捲し立てて息はずっと苦しいままだったが、余裕が生まれなければ叶わなかっただろう。
【アハハ! なかなか言うじゃない山本君!?】
ここまで言い放って、この場にいない者の笑い声が挙がる。
故に俺を除いた全員が眉を潜めた。
ちな、俺に関しては半ば恨みに近い形で頭によぎった。
喉元まで出かかったのを表現するとこうだ。
「も少し早く出てこいよ。緊張で、お腹グルグルだったじゃねぇか」とね。
「何じゃこの声。誰や?」
【いやいやスミマセン。若人の純粋な言葉に胸を打たれ、しばし言葉が出なかったものでね】
声の元、俺の胸ポケット内の学院支給携帯端末から。
声の主が話し始めたから胸ポケットに手を突っ込んだ俺は、お約束満載な時代劇宜しく、「控えおろう」と口にしたいのも我慢して取り出し、それを周りに見せつけた。
「なぁっ!? 石楠幹久!?」
『『『『『んなぁぁぁっ!?』』』』』
【どうも。高智の皆さんご無沙汰してまぁすぅ】
この場の妖魔すべてが驚きに飛び上がるわけ。
携帯端末からの声、そしてテレビ通信で画面に顔出ししているのは石楠幹久(トモカさんにチョッカイ出した時点でミッキー扱いだが)。
「な、なんでアンタが……」
【ソコな山本くんは、石楠にとって最重要人物なんですよ】
「最重要?」
【娘の級友として仲良くしてもらっている上、退魔師から命を救ってくれた。もはや石楠の友人という号を贈ってます】
「よ、妖王家の友人……」
(んな称号、貰った覚えもないが)
「
「……は? ……え? ど……童貞?」
「その一線さえ超えてしまえば、あとは坂道を転がるように目に映る異性を手当たり次第襲うと思ってるんですが」
「……童貞の何が悪ぃ。首洗って待ってやがれこの腐れ若作り。旦那さんと一緒に殴りにいったる」
【こ、怖いなぁ山本君。目くじら立てないで。出番少ないんだからこのくらい弾けたって……】
「……出番の意味が分からないが。妖王とのコネクションが立証された今、この場においてはもう用無し。通話ぶつ切りしたっていいんだぞ」
【僕に対しそんな物言い出来る奴、滅多にいないよホントに】
あまりの軽薄さはホントに妖王か不安になるほど。
が、存在匂わせるなり周りの空気が一変したなら儲けもん。
「重ねてお願い申し上げます。我々へのご助力を。この通りです」
んでもってこの流れを確たるものにするため、頭下げる必要があったらプライスレス。
ゼロ的な意味で。
「まだ受けられんぜ」
(チッ! 往生際わりい!)
周りはザワついてる。受けろってんだ。
なのにさっきから話してる巨漢のオッサンは折れてくれない。
(こちとら妖魔の王様が……)
「もし知らんかったら教えてやるぜ。妖の王は全国の妖魔にとって絶対やない」
「……は?」
「全国退魔の長たる女皇陛下と違う。全国各エリアに散らばる妖魔勢力の長と、立場は対等。会合あれば意見を調整し、共通の落とし所を導き出す。改め全会一致の令を発す、いわば議長か盟主のようなもの」
「単に面倒な仕事を押し付けられたパシ……」
【ゴホン! ウォッホン! パシリじゃないからね! 僕が本気出せば財力と権力を振りかざし全国妖魔の仕事や社会的な身分を取り上げ、それこそ一夜にして破滅させてやることだって出来るんだから!】
……交渉の究極人材として選んだつもりだった。
完全ミスったかも知んない。
(つーか慌て口調、子供かっ!?)
なんならちょっと、国中の妖魔達が可哀想だ。
各エリア妖魔トップと、立場レベルとしちゃそうは変わらないとは今知った。
でも、王じゃん?
こんなのが、妖魔達の王である事実に、長女の妖姫の学友の立場から土下座したくなった。
(曲がりなりにもこの国十指に入って、世界を股にかけるメガ企業の総帥でしょうよ)
「
finaly。やっと俺が願い出てきた目的を、先方さんも口にしてくれた。
【こうは思いません? 彼は我々妖魔に猶予をもたらしてくれた】
「猶予言うがは?」
【同胞の粗相の始末は我々妖魔が付ける。でなければ異能力者に駆逐されます】
「《マギステル・シンドローム》はワシら妖魔の不始末言うんか!?」
【少なくとも退魔師はそう見る。今回の問題は異能力者のみにあらず。無力無能の、普通の人間族にもそのように見られ始めているということ】
ミッキーオジンめ、やっとまともなことを言うようになったじゃない。
【山本君がいった通り。無力無能は妖魔を差別も区別もしない。我々が害することさえなければ、彼らは良き友人であり隣人になってくれた。普通に街を出歩き、仕事し、買い物して遊んで】
「そりゃそうじゃが……」
【このままでは彼らは、初めて会う相手が妖魔かどうか、恐る恐る逐一見定めようとする。決して歓迎すべきではないでしょう】
グレイト援護だ色ボケナイスミドル(容姿は20代前半にしか見えないが)。
【なれば逆に、妖魔が人間を救う場面を見せつけるのです。人間に味方する妖魔もいる。イメージ戦略です】
(イメージ戦略なんて言葉持ち出された瞬間、小者臭が凄くなったが。でも、まぁ……)
「なんなら鷺波、お前も『見て! 正義の妖魔よ!? 私達を助けに来てくれたのね!?』って一芝居打って頂戴よ」
「や、やらんぜウチは」
「いーや、やるんだよ。実現したなら、真っ先に感謝を表明するのは鷺波で有るべきだ」
「ふざけとん!? ウチには古来から鷺波を看板に担いでくれた多くの……」
「多くの……退魔一家だろ? また異能力者だけを配慮したものの見方かよ」
「あ゛っ」
「まさかとは思うが、さらにまた上士限定(
なんだよ。またかよ。
一人足引っ張り。それが解消した途端、また別の奴が足引っ張るか。
「ハァ、ここまで足労させて悪かったけど。もういいよ?」
「……えっ?」
「鷺波、お前やっぱいい。
「なん……じゃと?」
マジで、三縞の外の異能力者、訓練生ってのは、どれだけ俺を苛立たせる?
「何が大事か、まだ分かんねぇか?」
「言われるまでも無いき! 弱き者を守り、この高智を守……」
「守るカッコいい退魔師像、魔装士官訓練生像だけを後生大事にしてんじゃねーのか? 結局テメーこそそのイメージを維持するのに固執し、身動き取れなくなってんだよ」
なんで笑い話にもならない冗談をぶつけてくる?
あぁ本心か。尚更質悪いわ。
「守るだぁ? しがらみに雁字搦めにあったテメェみたいな奴のどの口が垂れやがる」
「グゥッ!?」
「俺らが到着するまで、可愛い可愛い太鼓持ちの上士を失いたく無いが故、下士ばっか戦地に押し出し、イタズラに命を散らさせた」
「違うっ!?」
「違うか。俺らが到着して目にした、無傷の上士集団とボロボロの下士集団。既に多くの下士ばかりが殉職してた事実。お前はそれでも
俺は三縞じゃ落ちこぼれ。故に人に優劣つけるのは好きじゃない。
それでも言わせてもらう。
「守るのが最優先なら手段は問わないわけですよ。拘り? クソ喰らえ。どんなに気に入らない相手でも、助力得るためなら歯ぁ食いしばって頭下げる。それが
「う、嘘やろ」
改めて
「テメェ、これまでまさかその体たらくで、年度末の交流会でウチの
「……そんな事までしゆうんか? 月城魅卯は」
文化祭事件時、助力求めるためなら嫌いな婚約者にだって頭を下げた。
月城さんの頭は、プライドゼロな俺のカボチャと違ってお安くないのに。
生存と死亡を分けた、会長職としての格と覚悟の違い。
もし四國校に月城さんがいて、三縞にいたのがこの女なら、三縞校は文化祭で全滅していただろう。
「また……ツキシロ……ミウ……でスか」
俺の横に控えたエリィ。何か言ったようだが聞こえない。
ただ、ぎゅうと手首を握った事で俺も気持ちを切り替えることにした。
高智の魔装士官訓練生トップと、高智の妖魔のトップが手を取り合って難題に挑む。
そんな美しい青写真は、所詮青写真だった以上俺もいつまでも理想図にとらわれるわけには行かなかった。
「
「さて、惚れた男がおりまして」
「スマン。最近のZ世代の性的嗜好には疎ぅて……
「いや違いますよっ? ただ私が身を置くクラスには、種族の隔たりを気にせず当たり前に妖魔も仲間と呼ぶ高潔な人間族がいる。人間とともにこの世界を歩まんとする清廉な妖魔もいる」
「フン、魔が、清廉か」
「その中心に、2つを反発ではなく融和結合しようとする半人半魔がいるんです」
「両属の血。そいつぁ、
(ッ!?)
なんだろう。ギリッと、エリィに抱きしめられた腕が急に痛いほど締め付けられた。
「その忌み子と指し示された奴ですよ。漢が惚れるほどの漢。両種族どちらにも排他的な
「だからその輪をこの高智でも広げようか。悠久からの両種族犬猿の歴史も無視し」
「だってですよぉ? その方が面倒くさくなくて良いと思いません? 両種族お手て繋いで仲良しこよしで楽しく宜しく」
いつしか理念の強さを測られているみたいだ。
なおさら引くわけには行かなくなった。
「スパゲッティーあるでしょ? ソース作りで分離した水と油。茹で汁を入れて乳化すると、2つは溶け混じり、角が取れ、バランスの良い味わいになる。茹で汁に、私もなりたい」
「す、スパゲッティの例は極端過ぎてよくわからん。が……理想論じゃき。考えも稚拙なガキの考え方。石楠殿、貴殿ともあろうものが、こんな幼い考えを後押しすると言うのか?」
(問われるまでもない。ミッキーはとりまこの場において完全俺の側)
【ハハ。正直青臭いただの理想論ですよね?】
(オッケ殺〜す)
【でも捨て置けない。そんな理想論抜かす山本君は、ことこの件に関し覚悟極まりない。半端者ではないことを知っています】
「揺るぎない覚悟……か。一目みて、どう見てもナンパもんじゃが」
【私の娘の命を救うために異能力者を半殺し以上、殺し未満にして見せた……数十名ね。半数以上は発狂。今日に至っても平静に戻ってない。もう二度と通常の生活に戻ることはないでしょう】
「ぬっ?」
【我ら妖魔の為に、対同族にもそこまで出来る徹底ぶり。これは妖魔を纏める立場の者として、信じるに足る人間族と評価していいのでは?】
「無力無能が異能力者に? にわかには信じられ……」
【あぁ、最たる理由はこっちかもしれません。彼や私の娘の所属学級は、《人魔の暁》の2つ名があるのですが……】
「ほうか。挙げられた惚れゆう男とは《半妖の剣疾風》、刀坂ヤマ……」
【彼が加入は、決定的でした】
「決定的? なんじゃ?」
【《黄昏と夕暮れの射手》】
「……は? ッゥ! なんやと!? そんなまさかっ!」
【人に恵みもたらす日輪、我ら妖魔を愛でる月輪の狭間。刹那にも近い狭き領域を司る】
「信じられん!? ならそこな
【えぇ、
「陛下と……同じ……じゃと?」
【両種族の間を取り持ち、種族の枠を外れし者にも慈しみを見せる。彼が殊勝故にその加護は与えられたか。それとも加護があるゆえ、今のように立ち振る舞うのか】
「待たんかっ? 既に陛下には婚約者が……」
【あ〜それね? あれも……山本君が食べちゃいました。まだ桐京大学病院のICUにて入院。幽閉……かな? 婚約者の座も剥奪されましたし。山本君が重宝されるようになった理由でもある】
(なんか……よーけわからん間に話進んでるパティーン)
周囲の皆様、ギョッと目を剥き息を呑むじゃないの。
やがてホウっと息を深くつく。
「
「なんか、まぁ今更感ありますけど。はぁ」
「ほうか」
リーダー格と思しき巨漢のオッサン、神妙な顔でっと見つめてくる。
ヤメぃよ。
だから俺にソッチの気はないんだ。
「表ぇ出や」
「……え゛っ!?」
なんて心のなかで警戒しようとしたところ。
「色々話しゆうが、結局本気度を見るんはこれが一番早い」
「早い? コレ……とは?」
眼前、あぐらかいていたオッサンは両膝頭を掌で叩くと、ヨッコラ立ち上がる。
「無力無能が士官学院生とは信じられんが、所属しとる以上重ねてはおるんじゃろ? 戦闘訓練の一つ」
「……ん、んー……あー……フムゥ……ウシッ、託した鷺波」
立ち上がった意味、なぜ一人建物から外に出ようとしているのか分かってしまう。
理解したから、鷺波の真後ろに立つ。
両手で彼女の両肩を抱き、前に押し込んでみたが……
「はぁ!? 試されとんのはキサンじゃ。ウチを巻き込むな!」
「いや、いやいやいや。無理でしょ。見ちゃってよあんなアメリゴプロレスラーも
「2、3分前までウチにタンカ切ったんじゃないがか!?」
野郎(女だけど)、横回転の転身して俺の背に付き、思い切り押しやがった。
「チョッ! 王様なんとかしちゃって頂戴よ! 仕事や社会的身分の剥奪をネタに、あの人のやる気を削いじゃうとかさぁ!?」
【王様扱いってそうじゃないよね!? っていうか、基本目上に対してすごく礼儀正しい君が、僕にだけ辛いってワリカシショックなんだけど!? 絹人さん、蓮静院君のお父さんには態度違うじゃないか!?】
「頼りになる大人像見せてくれたら、2秒で掌返ししてやるっての!」
【いや、気のおけない義父義息子関係って言うのも、のちを考えれば悪くないかもしれないけど!?】
……ダメや。
妖魔の王様、使えない。
「……エリィ」
「ハイ一徹様」
「万が一……と言っても高確率すぎるから十に一、二に一俺が撲殺されたら、遺体は三縞に送って貰えない?」
「そ、それは……」
石楠ミッキー(頼みの綱)は機能しない。
いや、存在をチラつかせたことによって一応ここまで黙って話を聞かせられたなら、
「お応えになるおつもりですか?」
王と言う道具を既に使用できて、効力があったということなのだろうか。
「グッググ。肚ぁ決めたようじゃぜ」
(その上でこの展開。『本気の度合いを測る』とまで言った。ならこれは……)
「念の為確認していいですか? この
試練って奴だ。
吹っ掛けたおっさんは、玄関を出る直前、俺の言葉にニィっと歯ぁ見せ口角釣り上げた。
「ハハァッ! 若造はもっと無鉄砲で活き良いんが丁度ええ。勝敗に拘らんなぞツマラン喧嘩しゆうもんなら、その場で不合格じゃ」
(ですよね~)
それがもう怖いの怖くないの……って。
「が、負けてやるつもりもないき。ギッタンギッタンのメッタメッタのグッチャグチャにしちゃるぜ」
いや、怖くないわけがないじゃない。
「ッ……カァァァ……」
再び生まれた全身の震え。
なんとか体外に抜けないかなぁと、喉も開いて大きく息を吐いた。
(RPGで言ったら負けイベントにも違いねぇ。が、これがゲームなら足掻かずにわざと負けてた。ゲームオーバーにならず物語が続く確信があるからだ。でも今回は……)
手を貸すに値しないと判断されたなら、俺たちの窮地は
生存者全ての命をもってゲームオーバーになっちまう。
(不甲斐ない喧嘩運びは許されないって? オイオイ。こんな試練イベントは刀坂や陸華みたいな主人公キャラが受けるもんであって、俺如きモブの出る幕じゃないってのぉ)
「一徹様。その試練わたくしも。二人で……」
「オッ………………シャァァァァァァッ!?」
思いっきり、両手で自分の両横っ面を叩いてみた。
エリィが何か言ったようだ。
どうせ俺を心配してくれたに決まってる。
「ガラじゃあない……けど、どうせ喧嘩はタイマンで然るべきとか言い出すんですよね?」
「グガガッ! よぅわかっとるやないき」
エリィの向ける感情が分かる上で、彼女に手をかざしそれ以上言わせない。
どれだけ俺らしく無かろうが、やるとなったら
オッサンに続いて俺も玄関を出る。
外に出て向き合うじゃない? 肉汁が全身ぶわぁで止まらない。
【僕も男ではあるけど、正直拳で語るって分からない世界だよ。とはいえ……】
すでに学院支給の携帯端末は鷺波に押し付けている。
鷺波はビデオ通話で石楠ミッキーにもこちらの状況がわかるように俺たち二人にカメラを向けていた。
【この勝負、妖王、石楠幹久が立会人を承る。挑戦者山本一徹は、己が全てを持って思いの強さを証明せ】
ミッキーめ、改まって妖王を称すると雰囲気出るじゃないか。
【試験者は、挑戦者の挑戦の意味を考えよ。見事受け止め、公正な判断を期待する】
「不合格なら不合格とするき」
【逆に合格を不合格したなら、
「するわけがないぜ。そりゃあ土佐妖魔の名が廃る。全く、思ってもみらんかったぜ。おまんが顔出す一時間前、妖王にまさか、闇覧試合を献上することになるとは」
「闇覧? 天覧試合(皇が観戦する武道やスポーツ競技の試合)の妖魔版ですか」
気持ちは少しずつ引き締まる。引き締めざるを得ないのが実質だけど。
「んじゃ、まぁ……shall we?」
「どこまで行ってもおふざけ抜けん奴……ホゥ? ええ顔しゆう。 なるほど、中は真剣
スゥ吸って、
「パワードスーツ起動。最大出力」
ハァ吐くわけですよ。
んでもって、も一つ吸いたてて……
「出ろぉぉぉっ! 《銀色饅頭ゥゥゥ》!」
俺にとって、寝る前の夜にお世話になる右手の相棒よりもなお、こっちの相棒と過ごすのが長いから。
GAZHAAAAAAAAAAAA!
日中より長く過ごすこの相棒と、望むか望まざるかに関わらず何度も力合わせて死に目を超えてきたから。
俺の心を読み取ることも出来る。
呼んで大戦斧の形に変態したときにはもう、俺の感情に同調したかのように昂ぶっていた。
「オッ!? デカい武器とかロマンがあるき」
(どうせやるしかない。なら好き放題してやるさ)
斧頭を、デカブツオッサンに向けてやる。
知ってる? 格好つけのためであって、片手に負担があるから実はとっても重いのこれ。
「山本流斧刃術初代筆頭斧術士(初代とか筆頭とか言いながら、この戦闘技術使えるの俺だけだけどっ)、桐桜華皇国特務皇宮護衛官、山本一徹……参るっ!」
「おうよっ! 参られぃ!」
さぁ、内容問われる負けイベント。勝利できればなお宜し。
そんな試練は、俺の一振による斧頭を部分妖魔化したオッサンの右手爪が塞ぎとめたところから弾け出す。
つーか片腕一本で止めるかよ。
しかも部分妖魔化したその手、いや脚か。
そいつぁもう……
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